高校生と地元企業で挑む“次の手”で、新たなものづくりの価値を探る。SDGsをテーマにした「身近な社会課題を解決する和菓子」づくりプロジェクト

2024年10月16日(水)8時10分 PR TIMES STORY

2024年10月19日(土)・20日(日)、富山県高岡市を舞台に地域のものづくりを未来へとつなぐ“次の手”を創出することを目指すイベント「クラフトフェアツギノテ」を開催します。まちを一望できる高岡駅前の立体駐車場を会場とし、富山県を中心に普段は出会えないものづくり企業と全国のクラフト作家、地元の飲食店舗などが100社以上参加出展します。

▶「クラフトフェア ツギノテ2024」の見どころを公開!:

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▶2023年に開催した「クラフトフェアツギノテ2023」のイベントの様子。

主催するのは、ものづくり産地の未来をつなぐ新たな共創のあり方を、あの手・この手・つぎの手で考える集合体「ツギノテ実行委員会」。「自社や産地が抱える本当の課題が見えづらい」「課題があっても解決する方法が分からない」などの地元製造企業からの声を受け、業界を超えた異業種間で意見交換や課題抽出を継続的に実施し、着実に産地の課題解決に繋がる施策を実施していきます。

今年初めての試みとなる「社会課題×ものづくりの実験企画」では、ツギノテが旗振り役となり、富山の和菓子店 中尾清月堂と高岡龍谷高校が、SDGsをテーマにした和菓子の新しい可能性を探るプロジェクトを進行中です。高校生が自分たちの目線で考えた社会課題を、和菓子を使って解決しようという試みです。

インタビュー実施時点で中間発表が終わり、全21チームの提案が揃いました。最終的には全チームのアイデアがリーフレットや会場のパネルで紹介されますが、イベント当日は中間発表という位置付けになり、試食会で実際に一般来場者の方へ提供されるのは、選ばれた2チームの提案のみです。

今回は、この実証企画のストーリーを、ツギノテ実行委員会 委員長を務める羽田純氏、高岡龍谷高校の教論 今田晃央氏、 中尾清月堂の常務取締役 中尾海人氏に伺いました。

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▶左から:羽田、今田氏、中尾氏

ー今回のプロジェクトが始まった背景とは?

羽田:ツギノテは常に産地の再興やものづくりの発展を目指していますが、現状ではものづくりが業界内で完結し、既存の枠組みの中でしか変化が起きていないという課題を感じています。この課題を解決するには、社会課題にクリエイティブな視点を取り入れ、ものづくりの枠を広げていくことが重要です。もっと民主化し、誰もが参加できる形にすることで、より多くの人がものづくりに関われる環境を作りたいと考えています。今回のプロジェクトは、その第一歩になると感じています。

今田氏:本校では「SDGsと私たち」という授業で、SDGsを学びながら地域課題に取り組む活動を行っており、今年で2年目になります。企業見学を通して地域を知る中で、羽田さんのデザイン事務所を訪れました。これがきっかけとなり、2年生の目玉企画として今回のプロジェクトがスタートしました。7月の終業式前に急遽始まり、まずは夏休みの宿題として取り組んでもらいました。その後、羽田さんと中尾さんと一緒に授業として企画を進めています。

中尾氏:昨年もツギノテに出展していたので、今年はどのように関われるかを考えていました。以前から羽田さんと「和菓子を伝統産業としてもっと広めていきたい」という話をしており、今回、龍谷高校とのコラボレーションに挑戦することになりました。中尾清月堂は1869年の創業以来、地域に根ざした和菓子作りを続けていますが、地域貢献や会社の存続を考える中で、和菓子の価値をどう伝えていくかという課題を常に感じていました。そんな時に今回のプロジェクトの話をいただき、新しい和菓子の発信のひらめきにつながる良い機会だと思いました。

ー高校生とのコラボレーションへの期待を教えてください。

羽田:期待していることが2つあります。まず、ものづくりを通して社会とつながり、社会課題を解決するクリエイティブなアイデアを生み出したいという思いです。これは、プロジェクト当初から変わっていません。

もうひとつは、今田先生との話し合いで知った、高校生と地域との距離感についてです。富山県内から高岡龍谷高校に向けて約700件の求人がありますが、地元に就職する高岡龍谷高校生はわずか40名ほど。この大きな差は、地元企業と高校生との間に距離がある証拠です。書類だけで判断されてしまう部分が多く、企業との交流や体験の機会が少ないことも問題だと感じました。今回のプロジェクトを通じて、高校生が地元企業や地域社会をより深く理解し、身近に感じてもらえるきっかけになればと期待しています。

中尾氏:実際、高校生の採用に関しては求人倍率が非常に高く、今の時代は企業側が選ばれる立場になっています。その中で、どのように自社の魅力を高校生に伝え、アドバンテージを獲得していくかが大きな課題だと考えています。

高校生と直接関わり、企業の魅力を伝える機会が増えれば、採用に対しても前向きな効果が期待できると思います。今後5年、10年のスパンで、こうした直接的なコミュニケーションがさらに重要視されていくでしょう。競争が激しい採用市場の中で、こうした機会を逃さず、今からしっかり準備していくことが大切だと感じています。

今田氏:確かに、小学生の頃は地域の方々と交流する機会が多かったはずですが、高校生になるとそうした機会が少なくなります。地域を知らないまま卒業し、県外に進学する生徒も多いです。地元を選ぶ、あるいは地元に戻るという選択肢を増やすためには、まず地元の企業や地域の魅力を知ることが大切です。今回の取り組みが、生徒たちが地元に目を向けるきっかけになればいいですね。

羽田:そうですね。富山にUターンして地元に魅力があることに気づく人は多いですが、高校生の時点で気づける機会がもっとあれば、地元に対する考え方も変わるはずです。地元のことをよく知ってから、外に出てさらに成長して戻ってくるという経験も悪くないと思います。高校生に「商業施設しかない」と言わせないような、もっと深い地域体験を提供していきたいですね。

ー高校生の提案にはどのように向き合ってきましたか?

羽田:常に「解像度を上げること」を繰り返していました。特にSDGsというテーマだと、貧困問題の解決を提案するといったように、つい世界規模の問題に目を向けがちになっていました。そこで僕が伝え続けたのは、高校生だからこそ気づける身近な問題や、彼らの体験を通じた「等身大のSDGs」を考えることが大切だということです。

今回、7〜8割のチームがフードロスをテーマにしていました。僕がフードロスを例に挙げたのが影響しているのかもしれませんが、その提案の多くは「捨てられる野菜を使って和菓子を作る」といった、まだ荒い解像度のものでした。もちろん、フードロスを減らしたいという意識は素晴らしいですが、もっと具体的で小さなことでもいいので「どのようなフードロスを解決したいのか」を深掘りして欲しいんです。例えば学校の売店などでも良いので、まずは身近な場所でたった一言話を聞いて調査してみるだけでも多くの発見があるはずです。もっと身近な視点でSDGsを捉えて欲しいと思っています。

中尾氏:基本的には、生徒たちが出したアイデアを尊重しつつ、SDGsと和菓子をどう結びつけるかを意識して授業の中で伝えていました。また、羽田さんもおっしゃっていたように、生徒自身の身近な環境や体験に基づいた提案をすることが、より具体的でユニークなアイデアが生まれるポイントだと伝えていました。自分たちの日常に根ざした発想こそが、魅力的な提案につながると考えています。

羽田:印象的だったのは、ある生徒が「災害時に使えるインスタント和菓子」を提案してくれたことです。その生徒は氷見出身で、過去に自分が被災した経験からその必要性を感じているとのことでした。このような体験から生まれた提案には、強い力が宿ります。彼らの体験を基に、自分たちが喜べるもの、本当に価値を感じる提案をして欲しいと思っています。

また、スポーツをしている生徒たちが「スポーツ前に食べる血糖値を上げる和菓子」を提案してくれました。通常は嗜好品とされる和菓子を、いわば栄養補給アイテムとして捉えた新しい視点です。こうした視点を通じて、和菓子の価値そのものが変わり、彼らが自分たちの体験の価値に気づくことができれば、この授業は大成功だと思います。

ー生徒のみなさんの成長について、どのように感じていますか?

今田氏:提出された課題から、生徒たちが本当に真剣に考えて取り組んだことが伝わってきました。羽田さんたちのように社会的な視点を持つ方々からの刺激が、彼らのアイデアをさらに引き出してくれたようで、とても感動しました。

中尾氏:1ヶ月半という短い期間で、生徒たちのSDGsや和菓子に対する理解が深まったように感じます。今後は、より広く社会との関わりを持つ形で進めるのか、少数の生徒に対してより深い体験を提供するのか、その目標設定を見直していきたいと考えています。

羽田:時間配分については再考が必要だと感じました。もっとスムーズに進められると思っていましたが、実際には考えを深く掘り下げることに多くの時間を費やしました。短期間で凝縮されたワークショップのような進行になりましたが、高校生にとっては、地域との接点を見つけ、その体験から生まれたアイデアをものづくりを通じて社会に提案するという、とても価値のあるプロセスになったのではないかと思います。

ー多くの試行錯誤があった中で選ばれた2つの提案について教えてください。

今田氏:1つ目は、おまんじゅうに栄養成分や食物繊維を表示し、「これを食べたらどんな栄養が摂取できるのか」が一目で分かるようにするアイデアです。

羽田:サプリメントのように、お饅頭1個で1日のビタミンや食物繊維を摂取できるというコンセプトですね。

生徒たちが書いた和菓子の原案


試作化された和菓子「サプリわがし」(大福)

今田氏:もう1つは、熱中症予防を目的としたアイデアで、塩やミネラルなどを含んだ和菓子の提案です。生徒たちは、ジュースのように提供できると考えていましたが、ゼリーや羊羹にするのも一案ですね。熱中症予防やスポーツ前の栄養補給を和菓子で表現するというテーマです。

生徒たちが描いた和菓子の原案

試作化された和菓子「減らそうSDGsの課題」(梅・塩 羊羹)

中尾氏:中尾清月堂としては2年前から小豆の栄養素についてディスプレイでお客様にお伝えする取り組みを実施してきたが、まだまだそういった取り組みが和菓子屋としてはあまり見かけないと思います。最近は気温の上昇に伴い、熱中症が頻繁に話題に上がるようになっています。和菓子が熱中症対策やスポーツの栄養補給として認知されれば、若い世代にももっと身近な存在になるのではないかと感じました。また、食事は取っていても必要な栄養素が不足している若者が多い中で、和菓子で手軽に栄養が摂れるという発想が面白く、新たな付加価値を和菓子に与えられる可能性を感じています。

羽田:選ばれたアイデア以外にも面白いテーマがありました。例えば、災害時にインスタントで和菓子を提供するという提案や、アレルギーをテーマにしたアイデアも出ました。特にアレルギーについては今の高校生世代に多い問題で、和菓子を通じて解決策を探ろうという内容でした。ただ、どちらももっと具体性を求めたい部分がありました。

すべての提案が「美味しい和菓子」というだけでなく、世の中の小さな困りごとを解決するためのものでした。これまで和菓子に求められてこなかった価値が、栄養補給やスポーツ前のパフォーマンス向上といったように、新たな視点から和菓子への価値観が拡張されていると感じましたね。

ーツギノテのイベント当日にはどんなことを期待していますか?

中尾氏:たくさんの人が集まる場所になることを期待しています。企業として出展する以上は、売上を上げたり多くの人に自社を知ってもらいたいという目的もあります。地元の人々や県内外からの参加者で賑わい、回を重ねるごとにツギノテの取り組みを広め、継続的なイベントになればと願っています。

今田氏:高校生にとっても、ものづくりを学び、地域企業を知る貴重な機会です。特に富山県はものづくりが盛んな地域なので、産業への理解を深めることが、彼らの将来にも良い影響を与えると考えています。

ー改めて、プロジェクトのこれまでを振り返っていかがでしたか?

中尾氏:これまでにも高校生のみなさんと協力して商品開発をしたことはありましたが、今回のように授業として生徒のみなさんと直接コミュニケーションを取るのは初めての経験でした。相手の立場に立って考えることはどんな場面でも大切ですが、特に学生さん相手にはより伝わる配慮が必要だと感じました。学生ならではの経験や意見をどう活かしてプロジェクトに参加してもらうかをより工夫していくことで、もっと良い企画に育ちそうですね。

羽田:僕は高校生のみなさんと関わるのは初めてでしたが、ものづくりの現状をもっと言語化して伝える必要があることに気づかされました。スポーツ系とアート系のクラスで生徒のみなさんの雰囲気が違うのも印象的でしたね。視点を変えることで、ものづくりが単に物を作るだけにとどまらず、課題解決の観点からのアプローチによって、ものづくり自体の可能性がどんどん拡張していく様子を授業を通じて体験できました。

今田氏:1ヶ月半という短い期間でここまでできたのは本当に素晴らしいと思っています。いろんなタイプのクラスが集まってアイデアを出すのは正直不安もあったのですが、みんなが一つの目標に向かってまとまっていった姿を見て、生徒たちの可能性を感じました。彼らの成長には驚かされましたし、本当に頑張ってくれたと思います。

ーツギノテのこれからの展望を教えてください。

羽田:最初にお話ししたように、社会課題にクリエイティブな要素を組み合わせて、ものづくりをより民主化するというプロジェクトの大きなテーマを今後も推し進めていきたいです。ぜひ龍谷高校さんと引き続き一緒にやりたいですし、他の学生や企業も参加してくれるのであればどんどん広げていきたいです。

今田氏:来年度もこの取り組みを続けていくつもりです。今の2年生が3年生になってどんな成長が見られるのか、またどのように関わっていけるのかも楽しみです。

初めての挑戦、そして限られた時間のコミュニケーションの中でクリエイティブなアイデアを形にし、ものづくりの可能性の広がりをみせてくれた高岡龍谷高校の生徒のみなさん。この取り組みが、地域と次の世代をつなぎ、地域のものづくりを未来へとつなぐ“次の手”の一歩となることを期待しています。私たちはこれからも新たな共創のあり方を提案していきます。(ツギノテ実行委員会 一同)

文:富山オタクことちゃん/徳田琴絵

編集:ツギノテ実行委員会


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