「第1志望のビリ」vs.「第2志望の1位」…専門家が語る「少しでも偏差値の高い学校」を目指すことのデメリット

2025年2月27日(木)6時0分 ダイヤモンドオンライン

「第1志望のビリ」vs.「第2志望の1位」…専門家が語る「少しでも偏差値の高い学校」を目指すことのデメリット

受験シーズンが近づくと、子どもの志望校をどこにするかは親にとっても悩みどころだ。「少しでも偏差値の高い学校に合格してほしい」と思う親は少なくないだろう。しかし、偏差値が高ければ高いほど子どもにとって良いのだろうか。教育経済学者の中室牧子氏は、著書『科学的根拠(エビデンス)で子育て』で、「第1志望のビリ」と「第2志望の1位」のどちらが有利かについて語っている。国際的に権威ある学術雑誌に掲載された「信頼性の高いエビデンス」に基づいて書かれた本書の内容をもとに解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

Photo: Adobe Stock

「第1志望のビリ」と「第2志望の1位」、正解はどっち?

 子どもに偏差値の高い高校に進学してほしいと望む親は多い。

 それはやはり、少しでもレベルの高い学校に通った方が、その先の進路も選びやすいと思うからではないだろうか。

 親の立場からではないが、筆者自身も自分の高校受験の時の志望校選びが正しかったのか、未だに思い出すことがある。

 第1志望だった高校は校区内で一番レベルが高く、ギリギリ受かるか受からないかの状況だった。入学しても勉強についていくのが大変だと思われた。

 親からは「第1志望にチャレンジしたら?」と言われたが、結局、受かる自信がなくて第2志望の学校に進学した。

 おかげで進学後の校内テストは常に上位だったが、「あの時、第1志望の学校に行っていたら、自分の将来は違うものになっていたのかもしれない」と、ふと思うことがある。

 だから、世間の親たちが「少しでも偏差値の高い学校へ」と考える気持ちもわかる。

 実際のところ、「第1志望のビリ」と「第2志望の1位」、どちらのほうがいいのだろうか。

優れた友人から受ける影響は良い影響?

 そもそも、なぜ親は「少しでも偏差値が高い学校に合格してほしい」と思うのだろうか。

インターネット上では、偏差値の高い学校を目指す理由として「優秀な友人から刺激を受けられる」が多く見られます。おそらく、学力の高い同級生の影響を受けて、自分の子どもの学力も上がるだろうと期待しているからではないでしょうか。(P.151)

 中室氏は、「経済学的にいうところの『ピア効果』が働くと考えられる」と語る。

 ピア効果とは、仲間や同僚が互いの行動や生産性に影響を与え合うことをいう。

 私たちは無意識のうちに「優れた友人から受ける影響は『良い』影響である」という強い「前提」を置いてしまっているのだ。

 しかし、中室氏は「その前提は正しくない」と指摘する。

アメリカのフロリダ州の公立小・中学校の児童・生徒のデータを分析した研究は、もともとの学力が上位20%の児童・生徒は、同じクラスに自分と同様に学力の高い同級生がいることによって学力が上昇しますが、もともとの学力が下位20%の児童・生徒は、同じクラスに学力の高い同級生がいることによって、むしろ学力が下がってしまったことを明らかにしています。つまり、優れた友人から良い影響を受けるのは、もともと学力が高い児童・生徒だけというわけです。(P.151-152)

 このことから、学友の学力レベルが高ければ高いほうが良い、というわけではないことがわかる。

積極的に交流するのは、共通点の多い友人

 また、オランダのアムステルダム大学で、大学生を対象に行われた実験では、学力の低い学生同士でグループ学習をさせたほうが、学力の高い学生と学力の低い学生を同じグループにして学習させたときよりも成績が良くなったという。

 この実験のあとに行われたアンケート調査によれば、学力の低い学生のみのグループのほうが、交流が多く、授業にも積極的に参加していたそうだ。

 このことから、中室氏は次のような注意喚起をする。

これらの発見はきわめて重要です。どのような学校に進学することになろうとも、結局、子どもたちは、自分で自分の友人を選びます。親がどんなに「優秀な友人と交流し、良い影響を受けてほしい」と願ったとしても、当の子どもたちは、共通点の多い友人、自分と能力の近い友人を選んでいるというわけです。(P.154)

 昔から「類は友を呼ぶ」という言葉があるように、何かしら共通するものがあるほうがコミュニケーションを取りやすく、同じレベルの人たちからの影響を多く受けるというわけだ。

成績が下位であることが悪影響を及ぼす

 これらの研究から考えると、第1志望校にギリギリに合格してビリになる場合と、第1志望より少し偏差値の低い第2志望校に進学して1位になる場合では、のちに成績や進学に有利になるのは、第2希望に進学した人になるのだという。

 たとえ運良く偏差値の高い志望校に滑り込み合格を果たしたとしても、学内やクラス内での順位が低くなれば、長い目で見れば良い結果をもたらさない可能性もあるということだ。

現に、予備校や学校関係者のあいだでは、無事に第1志望校に合格したにもかかわらず、入学したあとの定期試験で下位になって以降、順位が下位のままとどまり続ける生徒が存在することが知られており、彼ら彼女らのことを「深海魚」と呼ぶそうです。(P.161)

 順位がどうしてこれほどまでに大きく、長期的に影響するのだろうか。

 多くの研究が支持する仮説として「本人の自己評価に影響を与えている可能性」が挙げられる。

 ギリシャの高校生のデータを用いた次の研究結果が参考になる。

この研究では、高校2年生のときに受けた全国学力テストで順位の高かった生徒は、よりいっそう努力して次の学力テストでさらに成績を伸ばすのに対して、順位の低かった生徒は、逆に努力をしなくなってしまい、次の学力テストで成績を下げることがわかったのです。
このことから、入学後最初の学力テストで下位になった生徒が「深海魚」になってしまうのは、自分の順位が低いことで、自分に対する自信を失い、努力することをやめてしまうからなのではないかと考えられます。(P.163)

 確かに、ある程度自信があった人でも、周りの能力があまりに高いと感じたら「どうせ自分が頑張っても彼らに勝てるわけがない」と思って、諦めてしまうのかもしれない。

偏差値以外の「ものさし」を持って学校選びを

 わが子がせっかく頑張って入った志望校で、そのような絶望感に襲われてしまうことは親としても望まないはずだ。

 子どもを「深海魚」にしないために、親はどのような働きかけをするべきだろうか。

 重要なのは、「他人との比較ではない評価軸を持てるように子どもたちを導くこと」だという。

学校選びをするときには、偏差値というたった1つの「ものさし」だけでなく、学校のカリキュラムの特徴、建学の精神や教職員の指導方針、部活動や課外活動についての情報なども収集した上で、それぞれの子どもに合った学校かどうかを考えることもあってよいのではないでしょうか。
仮に成績順位が低かったとしても、ほかに活動の場があれば、自分に対する自信を失わずにすむからです。(P.167-168)

 受験となると、どうしても偏差値に目が行きがちだが、それだけではせっかくの子どものやる気や能力をダメにしてしまう可能性があるということを、親も知っておくのは大事なことだ。

 子どもが笑顔で、自信を持って頑張れる環境はどこなのか。親子でさまざまな方向から話し合いながら、志望校を決めていただきたいものである。

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