文学の海外進出 社会見つめる作風が人気呼ぶ

2025年5月14日(水)5時0分 読売新聞

 日本の現代文学が海外で人気を集めている。一時的な流行に終わらせぬよう、長期的な海外戦略を練るとともに、国内での読者の掘り起こしにもつなげてほしい。

 川上弘美さんの小説『大きな鳥にさらわれないよう』が、世界的に権威のある英国文学賞の翻訳部門である「国際ブッカー賞」の最終候補に入った。滅亡の危機にひんした人類の物語で、人工知能との融合などが描かれている。

 選考結果は20日に発表される。昨年、ノーベル文学賞を受賞した韓国のハン・ガンさんの作品も以前、この賞に選ばれている。川上さんが受賞すれば、日本の作家では初めての快挙となる。

 日本の作家は近年、海外で高く評価されている。多和田葉子さん、柳美里さんの作品はいずれも全米図書賞の翻訳部門を受賞した。

 英国では、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』などのヒットを機に日本の小説がブームとなり、柚木麻子さんの『BUTTER』は30万部以上売れたという。

 かつて川端康成谷崎潤一郎の作品が海外で読まれたのは、異国への興味があったためとされる。1980年代後半以降は、より身近な村上春樹さんや吉本ばななさんらの作品が国境を越えて愛され、現在の下地を作った。

 国際情勢を見れば、多くの国で経済格差や分断が広がっている。そうした中、善悪を安易に決めつけず、時にユーモアを交えて社会を見つめる日本小説の作風が共感を呼んだようだ。特に、女性作家の人気が高いことが特徴だ。

 日本文学の海外への普及については、国際交流基金が長年、外国の出版社に翻訳料などを助成してきた。全米図書賞を受賞した多和田さんの作品も支援を受けた。

 文化庁も、日本の出版社などが海外に作品を売り込む際に作成する英語の企画書作りに協力する事業を進めている。

 こうした取り組みをさらに強化し、多くの魅力的な作品を海外に紹介してもらいたい。

 海外での人気を、国内の読者獲得につなげる工夫も大切だ。出版社は、海外読者の評価や反応を今以上に発信してほしい。日本の読者とは違う新たな視点や気づきを得て、「自分も読んでみたい」と思う人が増えるのではないか。

 英語だけでなく、他の言語への翻訳も強化する必要がある。国は海外の大学などと連携し、翻訳家の育成に注力すべきだ。日本文学への関心の高まりは、日本への深い理解にもつながるだろう。

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