3人の女性から「わいせつの疑い」で訴えられたが…34歳の上司が「無罪」になった“ありえない理由”(2019年の事件)
2025年5月17日(土)18時0分 文春オンライン
〈 「子を持つ既婚者がそんなことするはずない」ベッドから目覚めると隣にいたのは職場の上司(34)…20代女性がホテルで『上司と一夜を過ごしてしまった』恐るべき理由(2019年の事件) 〉から続く
わいせつ誘拐、準強制わいせつ、わいせつ略取未遂の罪で起訴された上司。しかし裁判の結果は「無罪」に。いったいなぜ? 2019年の事件の顛末を、ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『 実録 性犯罪ファイル 猟奇事件編 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆
上司に睡眠薬を飲まされたB子さんの訴え
「何コレ?」
B子さんは会社に訴えた。
「B子さんが酒の中に睡眠薬を混入したのではないかと訴えている。一緒に飲みに行ったのか?」
「飲みに行ったのは事実ですが、睡眠薬は入れていません」
曽根崎が頑として否定するので、それ以上、会社としてもどうしようもなかった。
ところが、またも似たような被害者が現れたのだ。C子さんは曽根崎の直属の部下で、同じプロジェクトを担当していた。
C子さんの場合は、曽根崎と一緒に飲みに行って、青い色の酒を差し出され、「青くないですか?」と質問したことまで覚えていた。
その後、気が付くと電車に乗っていた。その間の記憶がまるでない。3人とも空白の時間が存在し、いずれも曽根崎と一緒に飲みに行ったときに発生しているのだ。
「これはおかしい…」
3人は警察に相談した。警察は1年がかりで立件にこぎつけた。曽根崎がラブホテルでA子さんの写真を撮っていたこと、常にバッグにハルシオンを入れていたことなどが判明した。
だが、曽根崎は容疑を認めず、「自分は何もしていない。言いがかりだ」と供述した。
「自分も酔っ払っていたので、飲んでいる途中から記憶がない。ハルシオンを入れたのか入れてないのかも分からない。ラブホテルに入った記憶もない。ホテルに行ったのはマズイと思った。自分は結婚しているし、職場の同僚だし。目が覚めてからは特に会話もなく、駅で別れた」
結局、曽根崎は3人に対するわいせつ誘拐、準強制わいせつ、わいせつ略取未遂の罪で起訴された。
公判になっても、のらりくらりとした答弁で言い逃れする曽根崎に対し、裁判長が直接尋問した。
「A子さんにどうやってここまで来たのか確認しなかったのか?」
「そこまで踏み込めなかった。なし崩し的に聞くことになった」
「あなたはA子さんに好意があったのか?」
「なかったです」
「じゃあ、A子さん側にあったと思う?」
「なかったと思います」
不自然極まりない言い訳
「A子さんに連れてこられたんじゃないかとは考えなかったの?」
「私はよく酔っ払うので、介抱するために、ここで休んでいくことにしたのかなとは考えた」
「何でA子さんは介抱のためにラブホテルを選んだと思う?」
「そうですね。だから、どうしたんだろうと…」
「あなたは結婚してるんですよね」
「はい」
「だったら、好意を持たれても応えられる立場にないでしょう。どうするつもりだったの?」
「そういうことは考えませんでした。日頃の態度から見て」
「じゃあ、何でここにいるのって聞かなかったの?」
「聞けなかったとしか言いようがないです」
「少しの間、2人でボーッとしてたんですよね。その後はどうしたの?」
「じゃあ、出ようかと…」
「どのようにして出て行った?」
「私が出始めたら、彼女も付いてきた。それで駅へ行きました」
「疑問は感じなかったの? そこがどこなのかも分からなかったんでしょう?」
「駅の近辺だったので、風景から分かりました」
「あなたにとって、疑問に思うことが一つも出てこないみたいなんだけど、それはなぜですか?」
「自分の行動の非を話していたんで、伝えきれなかったんです」
「結婚してて、隣に女が寝ていたら、普通はビックリするでしょ。あなたの心の動きが分からないんだけど、それは何でなの?」
「うーん…、当然、そう思ったんですけど…」
「気にならなかったということですか?」
「深くは考えなかったです」
このような不自然極まりない言い訳がそのまま通ってしまうのか。
現在の不同意性交等罪では、以下の8つの事項を原因として、「同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態にさせること、あるいは相手がそのような状態にあることに乗じて性交等したこと」と規定されている。8つの事項とは次の通りだ。
- 暴行又は脅迫
- 心身の障害
- アルコール又は薬物の影響
- 睡眠その他の意識不明瞭
- 同意しない意思を形成、表明又は全うするいとまの不存在
- 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕
- 虐待に起因する心理的反応
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
ずいぶん穴がなくなっているが、これは2023年7月13日以降に起きた事件に適用されるものだ。
「犯罪の証明が不十分」として無罪に
現在なら曽根崎の行為は一発アウトだが、旧刑法の規定で争わなければならないところが悩ましい。結局、曽根崎は「犯罪の証明が不十分」として、無罪を言い渡された。
(諸岡 宏樹/Webオリジナル(外部転載))
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