トイレ清掃ボランティア30年、津波で自宅全壊しても「余計なことするな」と言われても…「磨いているのは心」

2025年5月27日(火)13時48分 読売新聞

トイレ掃除に励む小畑さん=本人提供

 宮城県多賀城市で30年間、ボランティアで公共施設や学校のトイレ清掃を続けている小畑貞雄さん(69)が、6月16日に香川県内各地で講演し、高松市内で実演もする。「トイレを磨いているのではなく、心を磨いている」。休むことなく続けてきた清掃は5000回。小畑さんが感じたことを香川でも伝えてほしいと、県内で同様の活動をする市民らが招いた。講演の聴講、トイレ清掃の参加・見学を5月末まで募っている。(黒川絵理)

 小畑さんによると、トイレ清掃を始めたのは40歳の頃。木材会社で社長の運転手・秘書として働いていたが、関係者がゼネコン汚職事件に関連して逮捕され、転職を余儀なくされた頃だった。「まじめにやってきたのに」。眠れなくなり、「これからはずるく生きてもいいんじゃないか」との考えが浮かぶように。しかし、その度に同僚からいつも言われたことが頭をよぎった。「小畑さんはまじめで働き者よね」

 ある日の明け方、ラジオを聴き、感銘を受けた。自動車用品大手「イエローハット」の創業者・鍵山秀三郎さんが出演した番組。基本的なことをやり続けると、やがて周囲が変わる「凡事徹底」という教えの下に、自身もトイレ清掃を続けていると語っていた。「この人の考え方についていこう」

 自宅近くの公園や中学校のトイレで、清掃に取りかかった。汚れた個室がずらりと並ぶ学校では、「やめるなら今だと神様に言われた気がしたが、今日だけはやってみよう」。8時間かけて四つの個室をピカピカに磨き上げると、心地よさを感じた。「今日続けられたのだから、明日も続けられる」。自信が積み重なった。

 東日本大震災の津波で自宅が全壊。トイレ清掃の道具は車ごと流された。鍵山さんから手紙で「何か必要なものはあるか」と問われ、望んだのは「掃除道具」だ。多い時で500人超が避難した多賀城市の体育館で、仕事を終えた日は数時間、休日は自宅の片付けをこなしながら午前中と夜の合わせて半日程度、トイレ掃除を続けた。

 「おきては例外なし」がモットーだ。決めた清掃のスケジュールは必ず守る。冬の冷え込みで水道が凍ったため、バケツに雪を入れ、床や便器を磨いた日があるという。

 各地で掃除を申し込むと、「いくらほしいのか」「余計なことをするな」といった心ない言葉を何度も浴びた。それでも、励みになるのは、周囲の対応が変わることだという。

 感動した経験がある。当初は来校を断られていたある中学校で、「一度だけ」と頼み込んでトイレを磨くと、教諭から「次来る時はお電話ください」と言われた。清掃に通い続けると、「今後は電話は不要です」「いつでもどうぞ」と変わり、ついに自分専用のげた箱まで設けられた。「トイレ掃除で学校まで変わった」

 6月16日に県内へ招いたのは「香川掃除に学ぶ会」として観光地のトイレ清掃などに取り組む高松市の杉本千春さん(67)。小畑さんのことを知り、「経験から会得したことをぜひ話してほしい」と依頼した。その日、小畑さんは県内の中学校や大学を訪れ、心がけているしぐさなどについて語る。

 午後2時15分〜3時45分には高松市松島町の「たかまつミライエ」で一般向けにも講演。午前10時半からは2時間ほど、同市木太町の木太中央公園のトイレで清掃を実演する。講演の聴講、清掃の参加・見学はいずれも無料。原則、事前の申し込みが必要で、問い合わせなどは5月末までに杉本さん(090・4332・7940)。

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