私的情報の暴露は「告発者の人格に疑問抱かせる」目的…兵庫県第三者委・調査報告書の要旨
2025年5月27日(火)22時16分 読売新聞
記者会見に臨む第三者委員会の工藤委員長(中央)ら(27日午後、兵庫県庁で)=八木良樹
兵庫県の斎藤元彦知事に関する内部告発問題で、告発者の私的情報の漏えいについて、県の第三者委員会が27日に公表した調査報告書の要旨は次の通り。
結論
井ノ本知明・前総務部長は2024年4月、県議3人に対し、各県議の所属会派の会議室などで、告発した前県西播磨県民局長の私的情報を印刷した資料の一部を提示し、内容の一部を口頭で説明するなどして、秘密を漏えいした。
私的情報の管理状況
前県民局長の私的情報は個人情報にあたり、地方公務員法上、保護されるべき秘密に該当する。
同年4月、井ノ本氏の指示があり、総務部の職員は、前県民局長の公用パソコンに保存されていた私的情報の一部を5部印刷してファイルにつづり、井ノ本氏を含む4人に1部ずつ手渡し、残り1部を人事課の鍵付きロッカー内に保管した。
同年7月に私的情報の漏えいに関する週刊文春の記事が掲載され、ファイルの保管状況を確認することになり、井ノ本氏は当初、ファイルの受領を否定したが、その後の当委員会の事情聴取で受領を認め、人事課に返したが、誰に返したかは覚えていないと説明した。ただ、人事課にファイルの返還を受けたと認める者はなく、井ノ本氏の主張は採用しがたい。
漏えいの有無
県議3人はいずれも井ノ本氏から私的情報について口頭で説明を受け、印刷された資料を提示されたと説明している。骨子はほぼ共通しており、虚偽の事実を創作する積極的、合理的な理由は乏しい。
井ノ本氏は同年10月の百条委員会で、私的情報の資料を所持した事実は認め、第三者に見せたかについては説明を拒んだ。だが、当委員会の事情聴取では当初、第三者に見せたことを明確に否定した。井ノ本氏の説明は信用性に乏しく、県議3人の証言に基づき、井ノ本氏が私的情報を漏えいしたと認められる。
産業労働部長は、私的情報の概要を認識していたと認められるが、私的情報に関する印刷物を所持していたことや、私的情報を県職員に漏えいしたと認めるに足りる十分な資料はない。
動機・目的
県議3人はそれぞれの説明から井ノ本氏の動機や目的について「私的情報を暴露することで人格や人間性に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾(だんがい)する点にあった」と捉えていると理解され、一定の説得力があると評価できる。
知事・前副知事の指示
井ノ本氏は今年2月に説明を変遷させ、県議3人と面会し、私的情報の概要を口頭で伝えたが、資料は提示していないと説明。「上司(知事と前副知事)の指示に基づき総務部長の職責として正当業務を行ったに過ぎず、指示があった場には前任の総務部長も同席していた」と主張した。
一方、知事は私的情報の処理に関して指示をしたことはなく、議会の執行部との共有を井ノ本氏に指示したこともないとしている。一般的に議会筋との情報共有を指示することはおかしくないと思われるが、知事はそういった情報共有の指示すら否定しており、不自然さも否めない。
前副知事と前任の総務部長の説明が井ノ本氏の新たな主張と内容がほぼ一致していることから、これらと整合しない知事の説明は採用することができない。
したがって、井ノ本氏は、知事の指示と同調する前副知事の指示により、議会の各会派の執行部に「根回し」の趣旨で、前県民局長の私的情報を漏えいした可能性が高いと判断せざるを得ない。ただ、知事と前副知事は「根回し」の際、口頭にとどめるか、資料をどの程度開示するかなどについては具体的な指示をしておらず、井ノ本氏の判断だったと認めるのが相当だ。
まとめ
井ノ本氏の漏えい行為は、知事と前副知事の指示のもとに行われた可能性が高いことに加え、その概要を抽象的表現で述べるとともに、資料の一部を提示するにとどまり、交付などはしていない。県議3人が目を背けるなどしたことから、私的情報の具体的内容を認識したとまで言えないことは留意されるべきだ。