「盛山文科相の更迭」こそが旧統一教会の狙い…リーク写真で政権を批判する朝日新聞と立憲民主党への違和感

2024年2月15日(木)13時15分 プレジデント社

衆院予算委員会で立憲民主党の西村智奈美代表代行(左手前から3人目)に答弁する盛山正仁文部科学相(右)=2024年2月7日午前、国会内 - 写真=時事通信フォト

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■盛山氏は旧統一教会の支援を受けた


世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令を請求している盛山正仁文部科学相が、2021年10月の衆院選でその関連団体から推薦状を受け取り、その写真とともに、選挙支援を受けていた、と2月6日の朝日新聞が報じた。東京地裁での審問が始まる前に教団側が盛山文科相に「攻撃」を仕掛けたと言えよう。


写真=時事通信フォト
衆院予算委員会で立憲民主党の西村智奈美代表代行(左手前から3人目)に答弁する盛山正仁文部科学相(右)=2024年2月7日午前、国会内 - 写真=時事通信フォト

立憲民主党が朝日新聞報道を基に国会などで盛山氏の説明と更迭を求め、岸田文雄首相の任命責任を問うているが、朝日新聞にリーク(情報提供)したのが旧統一教会の関連団体の可能性が極めて大きいことを踏まえれば、敵を間違えていないか、誰を利しているのか、冷静に考えてみたほうがいい。


盛山文科相は6日の衆院予算委員会で、立憲民主党の長妻昭政調会長が朝日新聞の報道の確認を求めたのに対し、「新聞で報道されている写真があるのなら、推薦状を受け取ったのではないかと思うが、改めて確認したところ、過去の衆院選に際して当該団体に選挙支援を依頼した事実はなく、事務所に活動報告があったことも確認できなかった」と答弁した。そのうえで「記憶がなかったので、自民党に対しても報告しなかった。旧統一教会との関係を断っており、引き続き解散命令請求の対応等に取り組んでいく」と反論した。


■岸田首相「未来に向けて関係を断つ」


岸田文雄首相は、教団との関係について、「旧統一教会と関連団体との関係や過去を点検し、接点があった場合には説明責任を果たす、未来に向けて関係を断つことを徹底していく」と、これまでの方針を説明した。


続いて立民党の山岸一生衆院議員(元朝日新聞記者)が「これから盛山大臣は旧統一教会を相手に裁判を進めないといけない。公平な裁判を戦えない」などと更迭を求めたが、首相が「引き続き職責を果たしてもらいたい」と、これを拒否したのは当然だろう。


旧統一教会の解散命令をめぐっては、2月22日から東京地裁で国と教団の双方から意見を聞く審問が始まる。岸田首相にすれば、旧統一教会側がこの審問を前に仕掛けてきた朝日新聞へのリーク、教団側のお先棒を担ぐ立民党に、負けるわけにはいかないのである。


首相の脳裏にあるのは、朝日新聞が23年12月、自民党政調会長だった19年10月に党本部でギングリッチ元米下院議長と面談した際、旧統一教会の関連団体「天宙平和連合」のトップらが同席していた、と写真付きで報じたことだ。旧統一教会による被害者救済の法案が与野党修正協議を経て衆院本会議で可決された翌日というタイミングだった。


後日に参院で成立したその法案では、法人が霊感などの知見を使って不安を煽り、寄付が必要だと告げるなど個人を困惑させる不当な勧誘行為を禁止することなどが定められた。このため、法案を不服とする教団側が「異議申し立て」の意味でリークしたのではないか、とささやかれている。


■盛山氏が旧統一教会解散命令を請求


今回、盛山文科相がこれと似通った形で旧統一教会の標的になったのは、言うまでもなく、23年10月に教団に対する解散命令を東京地裁に請求した所管大臣だからだ。文科省・文化庁が宗教法人法に基づいた質問権の行使、被害を受けた元信者らへの聞き取りなどによって、高額献金や組織運営などの実態調査を進めたことによる結論だった。


立憲民主党は、結果的に旧統一教会を利するとしても、岸田政権のイメージダウンを図ることを優先させたのだろう。朝日新聞と組んで、国会で盛山氏に波状攻撃を掛けた。他方で、盛山氏の答弁も曖昧で、しかも二転三転する。


7日の衆院予算委では、立民党の西村智奈美代表代行が、関連団体からの推薦状を受け取ったとされる写真を改めて示すと、盛山氏は「こういうことがあったのかなと、うすうす思い出してきた」と、答弁を修正した。


7日の朝日新聞は、盛山氏が「教団側と事実上の『政策協定』に当たる推薦確認書に署名したと関係者が証言した」と続報する。


西村氏がその報道の確認を求めると、盛山氏は「地元の有権者の方から集会をすると言われて行った。最後に急に推薦状の話が出て、実質的に選挙戦に入っていて、一つの会場からまた次の会場へと行っていた時期で、十分に内容をよく読むことなくサインしたのかもしれない」と答えた。


選挙に不安を抱えた政治家に、旧統一教会の関連団体「世界平和連合」が巧みに取り入っていることが見て取れる。


写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■産経新聞社説「更迭をためらうな」


盛山氏は、国土交通官僚出身、田村元・元衆院議長の女婿だ。岸田派に属し、衆院兵庫1区選出で当選5回だが、選挙地盤は必ずしも安定せず、比例復活当選が2回を数える。


選挙に出た経験がある人や、選挙実務を担当したことがある記者にとっては、候補者が1票欲しさに相手をよく確かめずに支援を求めるというのは理解できるが、世間一般には分かってもらえない。


盛山氏は8、9両日の衆院予算委で、推薦状の受け取り、推薦確認書への署名について「はっきり覚えていない」「サインしたかどうかを含めて記憶にない」と突っ張った答弁を連発する。さらに、衆院選では各種団体から200通を超える推薦状があり、選挙後に「全て破棄した」と述べたことから、立民党や一部メディアの批判が強まる一因になる。


9日の産経新聞主張(社説)は「更迭をためらうな」と題し、「最大の問題は、自民党が全議員を対象に旧統一教会との関わりを調査した一昨年9月の『点検』で、盛山氏が『関連団体の会合に出席して挨拶した』とだけ回答したことにある。その時点で、旧統一教会関連団体から選挙で支援を受けていたときちんと明かしていれば、岸田文雄首相が、昨年9月の内閣改造で彼を文科相に起用することはなかっただろう」と指弾した。


そのうえで、「国会答弁もいただけない。推薦確認書への署名について7日、『内容をよく読むことなくサインしたかもしれない』と述べたが、8日には『正直覚えていない』と修正した」「政策に関する支援者との約束を『覚えていない』のなら政治家として失格である」などと厳しく追及した。


■朝日と週刊新潮に同一写真が載った意味


これには違和感を覚えた。盛山氏を更迭などしたら、旧統一教会とそのグルにも見える朝日新聞、立憲民主党の思う壺ではないか。


メディアの長年の「不作為」を棚に上げての批判もいかがなものか。旧統一教会が献金などの問題を抱えていることが報道されたのは、22年7月に安倍晋三元首相が信者の関係者に銃殺された事件以降である。


それ以前の選挙の際、どのメディアも教団の問題性を指摘してはいない。教団側が政治家に「世界平和連合」を名乗り、旧統一教会とのつながりも判明していない時期の話ではないか。選挙期間中に交わした支援者との約束を覚えていなくとも不思議はない。


8日発売の週刊新潮が、盛山氏が旧統一教会の関連団体から推薦状を受け取ったという写真を掲載し、それが朝日新聞と同一写真だったことから、政府・自民党内やほかのメディアの受け止め方がやや変化した。これは教団側からの意図的リークの可能性が極めて大きいことを意味するからだ。


世界平和統一家庭連合 本部(東京都渋谷区松濤1-1-2)(写真=Asanagi/CC-Zero/Wikimedia Commons

■林氏「旧統一教会に賛同していない」


その週刊新潮によって、政権中枢の林芳正官房長官(岸田派座長)まで旧統一教会側の標的になったことで、岸田首相が戦闘モードを高めた、と周辺が受け止めた。


林氏については、参院から鞍替えした21年の衆院選前の9月に元秘書の山口県宇部市長のセッティングで平和連合事務総長らと地元事務所で会談し、必勝祈願の千羽鶴を手渡された、と報じられた。


これに関連し、9日の朝日新聞が、旧統一教会関係者が面会時、林氏に推薦確認書を提示し、選挙支援を申し出ていたと報道した。


林氏は9日の記者会見で「私は政策協定や推薦確認書といったものに署名していない。旧統一教会および関連団体の掲げる方針に一切賛同していない」と関係を否定した。面会については「相手方が旧統一教会関連団体の関係者であるという認識はなく、多数ある面会の一つだった」と説明している。


■「地方の教団幹部によるリークだ」


旧統一教会を長年取材、追及してきたジャーナリストの鈴木エイト氏は、9日の日刊ゲンダイデジタルで、リークの意図とルートについて、こう解説している。


「岸田氏と教団幹部との面会が昨年末に報じられたのは、解散請求に激怒した韓国本部の意趣返し。日本の頭越しにリークしたと聞くが、盛山氏や林氏については違うラインから漏れている。手のひら返しと言える政権の動きにカンカンの教団は岸田派への攻撃を強めている」


「盛山氏と林氏の件は地方の教団幹部によるリークで、日本本部は黙認しているようだ。自民の党員獲得ノルマは比例復活組ほど厳しく、教団はその面でも盛山氏を支えてきた。党の点検でウヤムヤにせず、第三者委員会を設けて徹底調査し、関係を明らかにしない限り、この問題は終わらない」


確かに党員獲得への旧統一教会の協力については解明されていない。過去の接点についてはきちんと洗い出す必要があるだろう。


こうした持ちつ持たれつの関係は、22年7月の安倍元首相銃撃事件後、教団のいろいろな問題が明るみに出たことで破綻し、自民党は旧統一教会とは未来に向けて決別する方針を打ち出している。


文科相としての適格性は、教団側との「政策協定」などによって行政に影響を与えたかどうかで判断すべきで、盛山氏が便宜供与を図ったなどという証拠は示されていない。


■旧統一教会とどう戦っていくのか


産経新聞は10日の紙面では、岸田首相が9日の衆院予算委で盛山氏の更迭を改めて否定し、「解散命令請求が行われ、手続が大きく進んだ」と強調したと伝えたうえで、内心に踏み込んで「政策がゆがめられたわけでもなく、盛山氏の更迭はむしろ教団を利する可能性があると考えている」と報じている


統一教会の関連団体関係者と政治家との写真は、教団の政治力や求心力を高め、信者を繋ぎとめるために使われてきた。一方で政治家は選挙で推薦しましょう、写真を撮りましょう、と言われて断らない人種だ。この手の写真は教団にいくらでもあるだろう。今後も教団側が政府・自民党の対応に不満を覚えれば、次々と過去の接点を示す推薦状や写真をリークしてくることが予想される。


こうした旧統一教会の関連団体とどう戦っていくのかが、問われなければならないのではないか。


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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018〜2023年国家公安委員会委員。
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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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