「偏差値の高い学校=いい学校」はウソ…中学受験のプロが警告「偏差値病にかかった親子」がハマる3つの誤解

2025年2月26日(水)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

中学受験をする子供の親は、どんなことに気を付けたらいいのか。中学受験専門塾・伸学会代表の菊池洋匡さんは「偏差値だけで志望校を決めてはいけない。偏差値は学校の良し悪しを決める物差しにはならない。学校の集客戦略でいくらでも上げたり、下げたりできる」という——。(第1回)

※本稿は、菊池洋匡『中学受験 親がやるべきサポート大全』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。


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■「偏差値」とは冷静に付き合うべき


【×】うちの子も頑張れば「普通」の成績、つまり偏差値50ぐらいは取れるはず。そしてなんとしてでも偏差値が1でも高い中学に合格してほしい!


→模試のたびに「普通」と考えている「偏差値50」に達しないわが子を見てがっかりし、追い詰められたあげく、子どもを追い詰めてしまう。


【○】「偏差値50」にも「いろいろある」ことを理解している。中学校の偏差値はそのときの人気を表す「株価」に過ぎないこともわかっている。「平均以上は取れて当然」となんとなく考えることもない。


→実際に学校を見学して価値を判断し、学校を選ぶ。わが子の状況を冷静に見るための材料として模試の偏差値を利用できる。


偏差値——中学受験に向けた生活の中では、この数値が常に頭の片隅にちらつくことでしょう。「この偏差値だから、この学校を受けるといいのかな?」「この偏差値で、この学校を目指していいんだろうか……」「この偏差値なのに、危機感がなくて!」


子どもたち同士が小学校で、「おまえの偏差値いくつ?」と聞き合っている場合もあるようです。大人も子どもも、偏差値を「賢さ戦闘力」として単純に捉え、一喜一憂してしまいがちです。ここで、偏差値と冷静に付き合う方法を改めて考えてみましょう。まずは「偏差値にまつわるありがちな誤解」をひとつずつ確認していきます。


■模試によって“偏差値が20違う”こともある


誤解① うちの子も頑張れば「普通」の成績は取れるはず。つまり偏差値50くらいは……。

この考え方には三つ、ツッコミどころがあります。


ツッコミどころ① 偏差値は模試によって違う。

試しに、SAPIX、四谷大塚、日能研、首都圏といった各模試の偏差値表を見比べてみてください。同じ学校でも、偏差値が大きく異なるはずです。SAPIXで50の学校が、首都圏模試で70だったり……! 首都圏模試で偏差値50の学校は、SAPIXでは……載っていない⁉


どちらを信じればいいのでしょうか? まず、偏差値をむやみに信じるのはやめましょう。そもそも、偏差値は母集団の中の位置を測るものですから、その模試を受けている人がどのような人たちか、によって結果が変わるのは当然です。SAPIX偏差値表のような数字が低めに出る偏差値表は、見ているこちらの視野を狭め、上しか見ないようにさせる力を持っています。載っている学校があまりにも少ないのです。


例を挙げましょう。SAPIX偏差値表の2月1日の欄だと、「かえつ有明」(共学校)の偏差値が37、「獨協」(男子校)の偏差値が34です。そして、その下には学校名がまったく載っていません。この表を見ている人は「ここに名前がない学校は、載せる価値がないのか」と感じてしまいます。


なお、首都圏模試では「かえつ有明」が偏差値61、「獨協」が偏差値60です。下にもまだまだ学校はたくさんあります。四谷大塚合不合だと「かえつ有明」が偏差値47、「獨協」が偏差値49、日能研だと「かえつ有明」が偏差値50、「獨協」が偏差値48です。どちらの学校も多くの生徒が憧れ、受験してきた学校です。全力で臨んで、それでもなお、悔しい思いをする子たちも見てきました。偏差値表に載っている学校が少ないほど視野が狭くなり、実情以上に苦しい思いを自らに強いることになります。


■中学受験率は8%しかない


ツッコミどころ② 偏差値は中学受験と高校受験でも違う。高校受験の感覚で見たらダメ。

「偏差値50」は、確かに「ちょうど平均、真ん中くらいの学力」ではありますが、母集団によってその「真ん中くらい」の基準が変わってきます。この母集団は中学受験と高校受験で大きく異なるのです。


高校受験は日本全国の中学3年生のほぼ全員が参加する受験です。そのため、母集団は「全国の中学3年生ほぼ全員」ということになります。


私は公立高校受験を目指す子たちの指導をしたこともありますが、中3の夏になって高校受験のために無料体験に来た子たちの中には、「分母の違う分数の足し算が怪しい」という子や「小学校3年生くらいまでの漢字しか実は書けない」という子が何人もいました。そういう子たちまでも含めた受験生たちの真ん中が50ということになります。


一方、中学受験の受験率が高くなってきたとはいえ、受けるのは首都圏で約20%の子どもたちです。日本全国でいえば約8%です。この子どもたちは日本全国の小学生の中で学力上位の子どもたちということになります。受験率が高い地域に住んでいると、9割以上の子が中学受験をする小学校もあるので、この感覚がわかりづらくなるのが怖いところです。


写真=iStock.com/FangXiaNuo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FangXiaNuo

■“鍛えている子たち”の中で「平均」は難しい


「中学受験をする子たちが必ずしも学力上位の子たちばかりではないのではないか?」と考える方もいらっしゃるでしょう。確かにその通りです。「中学受験生=全小学生の上位の子たち」と言い切るのは乱暴です。「中学受験は賢い子しか始めない」というわけではありません。


しかし例えば、ある子どもが小学校3年生から通塾を始め、3〜4年の間、週に何度も塾に通い、出される大量の宿題をこなし続けた場合と、それをしなかった場合を想像してください。前者のほうが学力が圧倒的に伸びますよね。つまり、中学受験する子どもたちは全員、受験勉強の過程で賢くなっていくのです。


この、小学生全体から見ればごく一部の、長期間にわたって鍛えられた子たちの中での平均が、中学受験における偏差値50なのです。この子たちの中で、真ん中の順位を取るのって、大変そうだと思いませんか?


スポーツに置き換えて考えてみましょう。「小3からサッカーを始めて、週に2回の練習を欠かさず、小6になったら週5で練習。チームでの練習から帰ってきたら家で自主練を怠らない」という生活をしている子たちと、「運動するのは小学校での体育くらい」という子たちとでは、運動能力に差が出てきます。前者のような子たちの中で平均的な子は、学校の体育でサッカーをやったら大活躍しそうですよね。


■高校受験の感覚で見ると危ない


話を受験に戻します。例えば、法政大学第二高等学校の偏差値は72(神奈川全県模試)ですが、同じ法政大学第二でも中学校の偏差値は59(四谷大塚合不合判定80%偏差値)です。こうした数字を比較して「数字が低いから中学受験で入学するほうが楽なのでは?」と思うのは危険です。私立高校の受験指導に携わったことがありますが、合格するのは中学受験のほうが難しいと感じる学校が多いです。


親御さんは中学受験、もしくは高校受験のどちらかしか経験していないことが多いでしょう。もし高校受験しか経験していない場合、高校受験の偏差値の感覚で中学受験の偏差値を考えてしまうと実態とはかけ離れてしまうことになります。その結果、子どもを追い詰めてしまったり、志望校の選択肢をいたずらに狭めてしまったりしかねないので、まず知識として保護者の方々が知っておくのは大切なことです。


中学受験の模試と高校受験の模試は、受けている子どもたちの年齢もメンバーも異なっているので、ほぼ全員が違う母集団になります。その偏差値同士を比べること自体、もともと無理がありますが、高校受験の偏差値と比べて中学受験の偏差値は、大まかに言って10くらい低い値が出ることが多いです。偏差値表の下のほうに行くほど、その数値の差は大きくなります。保護者は、このことをまず知っておく必要があります。


写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

■偏差値に振り回されるのは“愚か”


ツッコミどころ③ その思考は「平均以上効果」かもしれない。

自動車などを運転している人に「自分はどれくらい運転がうまいと思うか」と聞くと、大抵は「普通よりはちょっとうまい」という自己評価になるようです。こういった、なんとなく自分は平均以上の能力を持っている気がするという思い込みを、平均以上効果といいます。


実際のところ、中学受験生(とその親)全員が、初めは同じことを考えます。その中で、実際に全体の真ん中にいるというのは相当すごいことで、なかなか普通のことではないのです。


ツッコミどころ①で触れたように、その平均の位置は母集団によって変わります。目標の基準を単なる結果の数字に求めるのは危険です。偏差値は、売り上げ目標のような明確な達成目標とは仕組みが違います。自分の行動だけで決まる数字ではありません。大事な数字であることは確かですが、偏差値に振り回されるのは愚かです。


誤解② 偏差値50未満の中学校には、行っても意味がない。

このような考え方をする親御さんもおられます。この考え方には二つ、ツッコミどころがあります。


■偏差値は“年度によって”上下する


ツッコミどころ① 偏差値が表すのは人気度でしかない。

今度は学校の偏差値について考えてみましょう。学校の偏差値は、その模試を受ける生徒の中で、どのくらいの実力がある生徒だったら堅実に合格できるかを示す指標です。一般的なのは「80%の子が受かったのは偏差値いくつ」という基準です。例えば、A中学校の入試結果が図表1の数字だったとすると、A中学校の偏差値は59(80%の子が受かった偏差値)ということになります。


中学受験 親がやるべきサポート大全』より

四谷大塚のWebサイトだと50%のラインも併せて示してくれていますね。上記のA中学校の50%偏差値は57です。この数字は、併願パターンを決める上で大事な情報ですし、あとどれくらい頑張らなければいけないのかを判断する目安にもなります。ですが、この学校の偏差値は、学校の魅力を直接表すものではありません。学校の偏差値が直接的に表しているのは、その学校の人気度です。


親御さんの多くは、わが子が受験する年度の偏差値表しか見ていないでしょう。ですから、「学校の偏差値は固定的で、あまり変わらない」と思っておられるのではないでしょうか?


しかし私たちのように毎年、子どもの進路指導を行い、継続的に偏差値表を見ている側からすると、年度によってその学校の志願者数にはバラつきがあり、偏差値は上下します。同じくらいの偏差値の学校であれば、年度によって上下が入れ替わっていることはごく普通です。学校の価値が変わらなくても、その年度の志願者がたまたま多かったか、少なかったかで偏差値は結構変わるからです。


■「お買い得なコスパのいい学校」を探すほうがいい


そして、魅力がある学校でも、その魅力に気づいている人が少なければ、志願者が少なくなり偏差値は低くなるのです。そういう学校は、数年かけて少しずつ良い学校だという認知が広がっていくこともあり、気づいたときには大きく偏差値が上がっていたりします。


だとしたら、そういうみんなが気づいていないから偏差値は低いけど、実は魅力的な学校を探すほうが「お得」だと思いませんか? 買い物をするときに、誰もが良く知るブランド物の高級品を欲しがる方は多いでしょう。悪いことではありません。一方、「お値段以上」の高品質でコスパが良い商品がいいという方もいるでしょう。


私は、学校選びは後者のスタイルが良いと思っています。魅力的な学校を見つけたとき、その学校の偏差値がもし低かったら、それは「お買い得」な学校です。「偏差値○○以下の学校には行かせない」なんて思わず、「偏差値以下でこんなに良い学校があるの? ラッキー!」と思える学校を、ぜひ探してください。


■入試回数が分かれていると、“高偏差値”になる


ツッコミどころ② 高偏差値校は「つくれる」。

もうひとつ、偏差値で知っておいてほしいことがあります。高偏差値な学校は意図的につくれるということです。入試日程を増やしたり、さまざまなコースを設定して枠を分割したりするとつくれるのです。


例えば、600人の受験生がある中学校を受験したとします。学校側はそのうちの300人程度に合格を出すとします。もし試験が1回だけであれば、その受験者のうち「300位以内の子」が合格することになり、倍率2.0倍の入試になります。


ところが、これを3回の入試に分けて、それぞれ合格者を200人、80人、40人と設定し、同じく600人の子が受験したとします。そうすると、1回目の入試は600人中200人しか合格しないので、倍率3.0倍の入試になります。合格ラインがグッと上がるのがわかりますか?


さらに合格できなかった400人が2回目の入試に再チャレンジして、その中の80人が合格したとします。倍率5.0倍の入試になります。そこでも不合格になった子320人がラストチャンスにかけて受験して、そのうち40人が合格となったら、倍率8.0倍の入試です。


写真=iStock.com/kontrast-fotodesign
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■“特別コース”は、さらに高くなる


実際の入試では、1回目だけ受ける子もいれば、2回目だけ受ける子もいて、入れ替わりがありますが、ここでは話を単純にするため、この中学校へ入学を希望する子たち600人だけが、合格するまで3回とも受験するものとして説明しました。でも、だいたいのイメージはつかめるのではないでしょうか?


さらに「医学部進学コース」や「東大進学コース」のような上位コースをつくり、そこの定員を別枠にすれば、いっそう高偏差値をつくれます。



菊池洋匡『中学受験 親がやるべきサポート大全』(SBクリエイティブ)

例えば、2月1日の午前に200名の定員で生徒を募集するとして、それを「上位コース100名」「普通コース100名」に分割します。そして、上位コースを受けたものの点数が足りなかった子たちでも、一定以上の成績であれば「スライド合格」という形で「普通コース」への合格を出すようにします。そうすると「もしかしたら」という期待が生まれるので「上位コース」を受ける子が多くなります。


この中学校に入学したいと思って受験する生徒が600名いたとして、コースを分けなければ「600名中200名が合格できた」ことになりますが、コースを分けると上位コースは「600名中100名しか合格できなかった」となるわけです。上位コースだけ見れば、合格ラインがグッと上がるのがわかりますよね。実際に入学する子たちが同じでも、「偏差値の高い特別コースがある学校」のできあがりです。


■「作られた高偏差値」に振り回されてはいけない


確かに、このようにして入試回数を増やせば他の学校と併願しやすくなるため、受験生にとってもメリットになります。また、難関大学に進学したいという生徒のニーズに応えるために上位コースを設置するのも、受験生にとって良いことでしょう。


しかし、こうした偏差値の性質を逆手にとって、高偏差値を意図的に作っている学校もありますから注意は必要です。「偏差値が高い学校=良い学校」と思っていると、そうした集客戦略に踊らされてしまいます。「作られた高偏差値」に振り回されないよう、わが子に合うのかどうかを重視して学校を選んでください。


学校の価値は、実際に足を運んで目にしなければ、結局、見えてこないものです。くれぐれも偏差値だけを頼りに「○○以下だから見ても仕方がない」などと、自らの視野を狭めないでくださいね。


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菊池 洋匡(きくち・ひろただ)
中学受験専門塾 伸学会代表
開成中学・高校、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。10年間の塾講師歴を経て、2014年に伸学会を自由が丘に開校。現在は目黒校・中野校と合わせて3教室に加え、オンライン指導も展開。現在メルマガ・公式LINEは1万人超、YouTubeは10万人超の登録者がいる。主な著書に『小学生のタイパUP勉強法』『「やる気」を科学的に分析してわかった小学生の子が勉強にハマる方法』『「記憶」を科学的に分析してわかった小学生の子の成績に最短で直結する勉強法』『「しつけ」を科学的に分析してわかった小学生の子の学力を「ほめる・叱る」で伸ばすコツ』(実務教育出版)などがある。
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(中学受験専門塾 伸学会代表 菊池 洋匡)

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