経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?

2024年2月29日(木)4時0分 JBpress

 業務スーパー1号店の開業から20年余りで、時価総額1兆円企業へと成長した神戸物産。牛乳パックに水ようかん、豆腐パックに冷凍チーズケーキ・・・一風変わった商品、独特な店舗は一体どんな発想から生まれたのか? 本連載は、創業者・沼田昭二氏が業務スーパーの型破りな経営の仕組みを語り尽くした『業務スーパーが牛乳パックでようかんを売る合理的な理由』(沼田昭二、神田啓晴著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第2回は、弱点の多い商材を、「利益を生み続ける商品」に変える2つの手法をひも解く。

<連載ラインアップ>
■第1回 業務スーパーは、なぜ牛乳パックでようかんを売るのか?
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?(本稿)
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?(3月14日公開)

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■乳業メーカーが作る水ようかん

「牛乳パックに水ようかんを入れる」ことに、その具体例があります。

 これを作っているのは愛知県豊田市の豊田乳業。13年に買収した乳業メーカーです。なぜ乳業メーカーが、牛乳パックに牛乳ではなくデザートを入れているのか。この本のタイトルの種明かしをしていきましょう。

 08年初頭に中国製ギョーザによる中毒事件(07年12月末から08年1月にかけて、千葉県と兵庫県で中国製の冷凍ギョーザを食べた10人が中毒症状を起こした事件。ギョーザには殺虫剤が混入されていた)が起きました。神戸物産ではこの中毒事件を起こした工場からギョーザを仕入れてはいませんでしたが、中国産食品へのハレーションはすさまじく、一時的に客足が遠のきました。対策として神戸物産では製造拠点の国内回帰を目指しました。

 工場を自前で建てるとコストも時間もかかります。そこで、国内の中堅・中小の食品メーカーを相次いで買収しました。多くは民事再生の適用申請をしたり、私的整理に追い込まれたりして、経営破綻に追い込まれた企業です。長きにわたって賞与や残業代を支払うことが難しくなっているなど、会社も社員も苦しい状況に置かれています。

 そういった企業には共通する課題があります。まず、価格以外に競争点を見いだすのが難しい商品を作っていた。豊田乳業の主力商品の牛乳がまさにそうです。立場は違えど、業務スーパーを創業する前の私と、同じ悩みを抱えていたわけです。

 買収後、工場を視察に行くと、従業員は休みも十分に取れないまま長い時間働き続けていました。理由を聞くと、「牛乳は賞味期限が短いので、毎日製造していないと欠品を起こしてしまう」と言います。

■牛乳は「面倒」な商品

 牛乳は弱点の多い商材です。

 賞味期限が短いので売れ残りが即、ロスになり、1度に大量生産できません。在庫を抱えられないとなると、毎日一定量を製造することが求められます。平日に工場をフル稼働させて、土日は休む、といったメリハリのある働き方を導入するのが難しい。

 加えて、牛乳は薄利多売の商品です。例えば、当時1リットルの牛乳パック1本の店頭価格は約170円、これを作る原料の生乳の価格は130円ほどでした。そこに輸送費などを加えると、もうけはそれこそスズメの涙です。そして申し上げた通り、牛乳は味の違いで勝つのは至難で、競合他社も多く、結局は価格以外に競争する要素がない。

 牛乳は素晴らしい食品です。でも、作り手の立場で考えれば、メリットの少ない商品であることは明白でした。

 いろいろ考えた結果、買収して1カ月くらいで「これから牛乳を作るのはやめにしましょう」と工場の従業員に伝えました。だって、すでに牛乳を作り続けても利益が出ないことは、豊田乳業が経営破綻してしまったことからも明らかです。今のままでは、休みなく工場に出勤している従業員の働き方だって変えられません。

 少し脱線しますが、私は面倒なこと、しんどいことが嫌いです。

 考えることはちっとも苦労にならないのですが、手順、作業に手をかけたくない。「先憂後楽」主義者、といってもいいのかもしれません。

 もうからない牛乳を休まず作り続けるのは、作業としてもメンタルとしても事業としてもそもそもしんどい。賞味期限の短さからくる廃棄のリスクや価格競争の激しさなど、複雑な要因が絡まっている面倒な商材でもあります。ドル箱を作りたいなら、こうしたレッドオーシャンは避けるべきなのです。

 私は自分の好きではないことを従業員に押しつけるのも嫌いです。「利益を出せるようにするのはもちろんだけど、このしんどい働き方を強いている工場の運営も根本的に変えてしまいたい」。こんな思いをスタートラインにして、豊田乳業が牛乳を作らなくてももうけられるように、新商品の開発を考え始めました。

 私の考える「利益を生み続ける商品作り」の手法は2パターンあります。1つは需要の大きい普遍的な商品をローコストで製造する仕組みを作る、という手法。例えば、冷凍うどんや豆腐などはこれにあたります。

 もう1つは他社にないオンリーワン商品の製造です。差別点を消費者が感じてくれれば、「あの店でないと買えないから」という来店動機になります。

 では、「牛乳」はどうすれば利益を生み続けられるのか。考えてみましょう。

 中身の生乳はそもそもの原価(乳価)がメーカーと生産団体との合意の下で決められますから、コストダウンの余地がなさそうでした。他の商品の原料にするにしても同様です。なのでこれを活用するのは諦めました。

 じゃあもう売るものがないじゃないか? いえ、商品としての牛乳を分解すれば、中身と容器になります。入れ物の牛乳パックはどうでしょうか。

 これは、低コストの容器として活用できます。汎用性の高い容器といえばペットボトルですが、牛乳パックはそれより5割以上安い原価で作れます。

 ここに別の商品を充填しようと考えました。牛乳の轍を踏まないよう、開発部門には「賞味期限が3カ月ある、よそにない商品」の開発を命じました。まあ、開発のリーダーは私なんですけどね(笑)。

<連載ラインアップ>
■第1回 業務スーパーは、なぜ牛乳パックでようかんを売るのか?
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?(本稿)
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?(3月14日公開)

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筆者:沼田 昭二,神田 啓晴

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