PTAやめたい…ベルマーク集め、見守り活動に駆り出される「ブラックPTA」から親子を守るための法律知識

2025年3月17日(月)18時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

PTA活動をめぐるトラブルは後を絶たない。原因はどこにあるのか。東京都立大学大学院法学政治学研究科の木村草太教授は「PTAに加入する、しないは保護者自身が決めていい。それが周知徹底されず、強制加入と誤信して会員になってしまう人が多いことが背景にある」という——。(第2回)

※本稿は、木村草太『憲法の学校 親権、校則、いじめ、PTA——「子どものため」を考える』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。


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■トラブルは「法令遵守」で解消


PTAは、保護者(Parent)と教職員(Teacher)からなるボランティア団体(Association)である。多くの学校では、その学校に通う子どもの保護者からなる学校単位のPTA(PTAの連合体と区別するため、単位PTAと呼ばれることもある)が組織されている。戦後、GHQによりアメリカのPTA活動が紹介され、日本にも広まった。本国アメリカのPTAは、ボランティア活動であり、活動の意思を持つ者が自発的に参加する活動だという。


他方、日本のPTAでは、子どもが入学すると、保護者が自動的にPTA会員とみなされることが多かった。学校によっては、給食費の自動引落口座を設定すると、同意もしていないのに、給食費と同時にPTA会費が引き落とされる。入学式終了後、PTAが新入生の保護者を体育館に閉じ込め、役員を選ぶよう強要することもある。


加入後は、役員会議やベルマーク活動、地域の見回り等に駆り出される。同意もないのに、会費や労役を強要すれば、トラブルが発生するのも当然だろう。こうしたトラブルを解消するために何が必要か。答えは驚くほど単純である。PTAと学校が法令を遵守すればよい。本節では、PTAの法的位置づけを整理し、現在起きているトラブルに、どう対応すべきかを提示したい。


PTAの法的性質を正しく理解するには、次の3つの観点が重要である。


■「PTA加入」を義務付ける法律は存在しない


(1)任意加入団体としてのPTA

第一に、憲法21条1項は、何人に対しても結社の自由を保障している。結社の自由には、団体を形成する自由(結社する自由)の他、団体に加入しない自由(結社しない自由)も含まれる。このため、国家といえども、法律の根拠なしに、個人に対してPTA加入を強制してはならない。


また、結社しない自由を制約する法律は、厳格な違憲審査基準をパスしない限り違憲となる。弁護士会や司法書士会と異なり、PTAには加入を強制できるほどの公共的価値は認めがたいから、PTA加入強制法が制定されても当然、違憲無効だろう。


このため、保護者に対してPTA加入を義務付ける法律は存在しない。従って、PTAは、その活動や規約の内容にかかわらず、すべて任意加入団体ということになる。「すべての保護者はPTA会員である」と書かれた規約があっても、法的には無意味である。


任意加入団体では、入会を希望する者が申込を行い、団体側がそれを承認することで入会が法的に成立する。PTAの場合も、入会申込をした者が会員となる。この点、入会申込書を提出させない運営は違法ではないと言う声も聴かれる。


■「退会」も任意である


しかし、入会申込書がない限り、PTAは、誰が会員なのかが分からず、会員名簿を作成できない。そうなると、総会を開くことができず、あらゆる意思決定ができなくなる。会員を入会申込書によって把握するのは、PTAを法に則って運営する場合、必須の手続と言える。


また、任意加入団体は、退会も任意である。もちろん、会費等の処理のため、規約上、退会期日を月末に限ったり、退会申出は1か月前までに行うことを求めたりすることはできよう。ただし、「一度入会した会員は退会できない」とか、「退会時は100万円の罰金」といった規約は、加入者に過大な負担を課すもので、公序良俗に違反し、無効と考えるべきだろう(民法90条参照)。


(2)個人情報取扱事業者としてのPTA

PTAには、適切に個人情報を取り扱う義務があるという点も重要である。旧個人情報保護法は、5000人以下の個人情報を扱う事業者を適用対象外としていた。ほとんどのPTAは、会員数が5000人を下回っていたため、同法の適用対象外だったのである。しかし、2017年5月30日に、5000人の下限を撤廃する改正法が施行され、PTAも、同法の適用を受けることとなった。


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■“学校からの情報提供”が違法の可能性も


PTAとの関係で、重要なのが、同法20条の「個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない」という規定である。PTAの中には、学校から、保護者や在籍児童・生徒の名前や所属学級などの個人情報の提供を受けるものもある。学校が全員から同意をとっていれば問題はないが、そうでない場合には、学校からPTAへの個人情報の提供が第三者提供として違法となる可能性が高い。


(なお、学校が同意をとる際には、保護者に対する強制・抑圧の契機を払拭(ふっしょく)するよう細心の注意が必要となる。PTA加入を強く勧めるような表現や、加入が当然であるかのような表現によって同意を獲得することは許されない)。


また、PTAが、保護者に加入義務があるかのように誤信させて個人情報を提供させた場合には、「偽り」による違法な個人情報の取得となる。


個人情報保護法を遵守しようとするならば、会員や保護者の個人情報は、PTAが自ら同意をとって提供を受けるべきだろう。また、個人情報の提供を受ける際は利用目的を明示し(同法17条)、かつ、提供を受けた個人情報はその目的の範囲で利用せねばならない(同法18条)。これらの規定に違反した場合、個人情報保護委員会から勧告や命令を受けることがあり(同法一四八条)、命令違反の場合には罰則もある(同法178条)。


■PTAは“いじめ対策”の法的義務がある


(3)いじめ防止義務の担い手としてのPTA

PTAは、学校内で子どもと深く接触する活動を行うことも多い。このため、PTAは、いじめ被害者から相談を受けることがある。一方、PTAがいじめを誘発してしまう場合もある。では、PTAは、いじめとどのように関わるべきか。


まず、PTAを構成する保護者には、「その保護する児童等がいじめを行うことのないよう、当該児童等に対し、規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行う」努力義務がある(いじめ防止対策推進法9条1項)。


また、国及び地方公共団体には、いじめ対策のために「地域社会及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努める」義務がある(同法17条)。PTAは、「地域社会及び民間団体」に含まれるだろうから、学校からいじめ対策のために連携を求められる立場にある。


これらの規定からすると、PTA会員は、その活動においても、自らが保護する子どものいじめを防止する責任を負っている。また、いじめ対策のために、学校は、PTAに協力を求めることもできる。PTAは、いじめ対策に積極的に取り組むべきだし、それ以前に、PTA活動が子どものいじめを誘発したり、助長したりしないようにする法的義務を負う。


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■「学校」と「PTA」は切り分けが必要


次に、学校とPTAの関係を整理しよう。PTAは、学校の一部局や下部組織ではなく、独立した団体である。このため、個人情報の管理や財政の面で、適切な切り分けが必要である。


(1)個人情報・財政の管理

まず、重要なのが、個人情報の管理である。先に述べたように、学校によるPTAへの同意なき個人情報の提供は、緊急性があるなど、よほどの正当化事由がない限り違法である。学校が、PTAに名簿を提供する場合は、全員から同意をとるべきだろう。その際、強制・抑圧の契機を払拭するために細心の注意が必要なことは、言うまでもない。


また、PTAの予算から、学校備品費や行事費を支出する場合がある。しかし、学校の費用は、授業料や施設利用料・学用品費として徴収するか、公費で負担すべきである。


地方財政法は、都道府県立高等学校の建設事業費、公立小中学校の建物の維持・修繕、職員の給与について、住民への負担の転嫁を禁じている(同法27条の3、同法27条の4及び同施行令52条)。PTAが学校に金銭や物品を寄附する場合には、慎重な検討を行った上で、適切な手続を踏む必要がある。特に、公立学校の場合は、地方財政法との関係に注意が必要である。


■学校施設の利用権は「学校」にある


(2)PTAによる学校施設の特権的利用

次に重要なのが、PTAによる学校施設の利用である。PTAは、学校内の部屋を「PTA室」として利用したり、PTA行事のために優先的に体育館やグラウンドの利用を認められたりする。このことの法的根拠は、どう理解すべきか。


学校に、学校施設の優先的な利用権があるのは言うまでもない。学校教育法137条は「学校教育上支障のない限り、学校には、社会教育に関する施設を附置し、又は学校の施設を社会教育その他公共のために、利用させることができる」と定めており、学校外の団体等の利用には、「学校教育上支障のない限り」、かつ、「公共のために」という条件を付している。


この点、学校の授業時間外、すなわち、子どもたちの下校後や休日の利用であれば、「学校教育上支障のない」利用と言えるだろう。また、地域のスポーツサークルなど、他の利用希望団体と平等な条件(抽選や先着順など)で、学校施設をPTAに利用させる場合には、学校施設をパブリック・フォーラム(一般公衆に開かれた場所)として開放する一環として、「公共のために」の要件を充たすとの説明が可能である。


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■「PTA室」は“学校教育”目的かという視点


しかし、PTA室の設置や、他の団体に優先させての利用については、「他の団体と平等に扱っている」という説明はできない。この点、PTAが、非会員の保護する子どもを含め、学校に通う子どもたち全員のためにボランティア活動を行っている場合、その活動は「学校教育」の一環だと説明する余地がある。


他方、PTAが、会員やその子どものみを受益者とする会員限定サービス団体として活動している場合には、その活動は地域のスポーツサークルと同様の扱いになる。そうした活動を「学校教育」目的とみなすのは難しく、学校が、PTA室の設置などを認める法的根拠はなくなる。そのようなPTAには、他の団体と平等の条件で学校施設を利用させるか、学校施設を利用せずに活動してもらうようにすべきだろう。


以上の検討を踏まえ、PTAの現場でしばしば生じるトラブルの法的な対応方法を考えたい。現在、PTAの現場で起きているトラブルは、①PTAの説明不足に起因するものと、②PTAによる非会員排除の二つに分類できる。


■“誤解”しての入会は「無効」になる


(1)加入時の説明に関する問題

PTAの現場で、最大の問題だったのは、自動的な強制加入である。しかし、近年、PTAが任意加入団体であることを報じる新聞やインターネットの記事、テレビ番組などが増え、保護者たちは、加入が任意であることを容易に知ることができるようになった。あからさまな強制加入や、退会を拒否するPTAは、次第に少なくなってきている。


もっとも、PTA執行部が、加入の任意性を周知徹底せず、強制加入と誤信して会員になってしまう保護者もまだまだ多い。また、加入時の業務説明が不十分だったため、いざ活動が始まって、会員が想定外の負担を課され、「こんな負担が重たいなら入会しなかった」とトラブルになることもある。


こうした問題の解決は容易である。まず、主たる契約内容を誤解してなされた入会申込は、民法上、錯誤無効となる(民法95条)。強制加入と誤信したり、加入時に説明のなかった業務が耐え難いものであったりした場合は、PTAに対し、入会の申込は錯誤に基づく無効なものであり、自分は非会員だと伝えればよいだろう。


この時、不当利得返還請求という形で、会費の払い戻しを求めることもできる。また、そもそも、PTAは退会も自由であり、端的に退会してもよい。


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■通常は「話し合い」で解決が図られる


(2)非会員の排除の問題

現在、多くのPTAは、入会を拒否したり、退会の意思を表示したりした保護者を会員にすることは諦める。しかし、入会拒否・退会を防ぐために、非会員をサービスから排除する場合がある。


例えば、会員の子どもだけに卒業式の記念品を渡すことで、非会員の保護する子どもに疎外感を与えようとすることがある。また、PTAの主催する学校施設を利用した行事への参加を認めなかったり、PTAやその関連団体が集団登校を組織する「登校班」から非会員の子どもを外したりする事例もある。


PTA加入の任意性が多くの人に知られた現在、一番問題なのは、このようなPTAによる非会員の排除だ。こうした問題を解決するには、どうすればよいのか。


通常であれば、話し合いで、保護者が非会員であっても子どもに不利益が生じないよう、対策が採られる。PTAが提供するサービスと会費との間の対価関係が強い場合には、実費徴収で対応し、対価関係の弱いサービスについては、特に区別を設けないのが一般的だろう。では、話し合いが成立しない場合に、学校及びPTAに法令遵守を求めるにはどうしたらよいのか。


■“排除”には法的対応が可能


まず重要なのは、学校や教育委員会に、そうしたPTAに学校施設を利用させないよう求めることである。先述したように、学校教育法137条は、会員限定サービス団体に学校施設を優先的に利用させることを禁じている。公立学校の場合には、公共性のない会員限定サービス団体に施設を貸すことについて、住民監査請求(地方自治法242条)や住民訴訟(同法242条の2)を提起することもできよう。


また、PTAが、学校施設を使う行事や学校で配布するプレゼントについて、特定の子どもを排除すれば、他の子どもにいじめのターゲットを示すことになりかねない。このため、学校に対し、いじめ防止対策推進法に基づくいじめ防止措置として、PTAの会員限定行事に学校施設を貸さないこと、また、プレゼントは学校外で配布することを求めることもできるだろう。


最後に、登校班だが、登校班の名簿に掲載されていなくても、登校班と同じ時間に同じペースで公道を歩くことは禁じられていない。登校班に、「お前は来るな」と命じる権限もない。登校班問題については、外されても遠慮せず一緒に歩けばよい。登校班を引率する大人が、実力で排除すれば暴行罪(刑法208条)である。


このように、非会員の排除に対しても、一定の法的対応が可能である。さらに、こうした法的対応に頼らなくとも、プレゼント配布や行事の日だけPTAに加入するという方法もある。プレゼントや行事の後、速やかに退会すれば、PTAから業務負担を押し付けられることもない。卒業式のプレゼントの場合には、最終学年の3月だけ入会すればよいだろう。


■PTAトラブルは“法令遵守”で解決できる


PTAに関するトラブルは、①PTAが、加入の任意性・活動内容・会員の負担等を明確に説明すること、②PTAが、学校施設を利用した活動や学校内でのプレゼント配布で、非会員やその保護する子どもを排除しないこと、③学校は、PTAが会員限定サービスを行う場合には、学校施設を利用させないこと、の3つの条件を充たせば解消する。



木村草太『憲法の学校 親権、校則、いじめ、PTA——「子どものため」を考える』(KADOKAWA)

これらはいずれも、PTAと学校に対する法の要求であり、冒頭でも述べた通り、PTA問題は、遵法によって解決できるのである。


加入の任意性が周知徹底され、非会員の排除がなくなれば、形式面のみならず、実質面でも、PTAは入退会自由のボランティア団体となる。完全に入退会自由になれば、過剰な負担を押し付けるPTAは会員がいなくなり自然消滅し、他方、楽しく有意義な活動をするPTAには多く人が集まり繁栄存続することになるだろう。


もちろん、入退会自由のPTAでも、会員同士の人間関係のトラブルや不合理な業務があったりして悩みは尽きないだろう。しかし、自分の意思で入会している会員の活動なのだから、法や周囲がとやかく言う問題ではない。


強制加入PTAに対して批判的な発言をすると、「子どものために良いことをやっているのだからいいではないか」との声が上がることがある。しかし、いくらいいことをやっているつもりでも、それが他者の「結社の自由」を侵害していたのでは本末転倒である。PTAの活動が大事だと思うならば、法令遵守を徹底した上で、活動を組み立てねばならない。


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木村 草太(きむら・そうた)
東京都立大学大学院法学政治学研究科教授
1980年神奈川県生まれ。2003年東京大学法学部卒業、同大学法学政治学研究科助手を経て、現在、東京都立大学大学院法学政治学研究科教授。将棋ファンとしても知られ、2014年から東京都立大(当時は首都大学東京)にて法学系(法学部)特別講義「将棋で学ぶ法的思考・文書作成」を開講。将棋初心者の学生にも好評を博している。日本将棋連盟より三段免状を取得。著書に、『憲法』(東京大学出版会、2024年)、『憲法という希望』(講談社現代新書、2016年)、『自衛隊と憲法』(晶文社、2018年、増補版2022年)、『木村草太の憲法の新手4』(沖縄タイムス社、2023年)、『「差別」のしくみ』(朝日出版社、2023年)ほか多数。
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(東京都立大学大学院法学政治学研究科教授 木村 草太)

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