妻や彼女から突然、訴えられて「性犯罪者」に…「知らなかった」では済まされない不同意性交等罪の成立要件
2025年3月22日(土)17時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SimonSkafar
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■「上下関係を利用して」はNG
不同意性交等罪は、従前の「強制性交等罪」、「準強制性交等罪」から、処罰要件も大幅に見直されています。「5年以上の有期拘禁刑」という罰則は、旧法と同等ですが、不同意性交罪の適用範囲はかなり拡大されているのです。
旧・強制性交等罪において、その構成要件として最も重視されていたのは、罪名の通り暴行または脅迫による「強制性」が認められることでした。また、旧法は相手の心神喪失や抗拒不能な状況を利用した性交を対象としたものでした。
一方で、新たな不同意性交等罪における構成要件は以下の通りです。
・暴行・脅迫
・心身の障害
・アルコール・薬物の摂取
・睡眠時や意識不明瞭な状態
・不意打ち
・恐怖・驚愕
・虐待に起因する心理的反応
・経済的・社会的地位の利用
つまり明白な強制や心神喪失に乗じた性交のみにとどまらず、「睡眠時などの意識不明瞭」や「経済的、社会的関係上の地位に基づく不利益の憂慮」に乗じた性交も処罰の対象となっているのです。
「酔わせてラブホテルへ」なんていうのももちろんNGですし、例えばキャバクラの女性キャストと客という関係性も「経済的関係上の地位に基づく不利益」と判断されるかもしれません。
簡単に言えば、相手方の「同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態」での性行為は全てNGと心得ておいてもいいでしょう。
■「彼氏」「元カレ」からの性被害が最多
夜の街や風俗といった、いわゆるお金だけで結ばれた他人でなくても、性犯罪トラブルに気をつけなければならない相手がいます。それは社会通念上、性的な関係が織り込まれていると考えられる恋人や配偶者です。
内閣府による2023年度「男女間における性暴力に関する調査」によると、不同意性交などの被害に遭った経験のある女性のうち、その相手について「交際相手」、「元交際相手」と答えた人の割合はそれぞれ16.2%で、ともに首位となっています。
また、被害に遭ったときの状況として最も多いのは、「驚きや混乱などで体が動かなかった」で、全体の24.6%を占めています。
この調査結果から読み取れるのは、「交際相手や元交際相手による行為であっても、女性は性被害だと認識することは珍しくないが、その場では明確な拒否はできないこともある」という事実です。
つまり男性からしてみれば、交際中や過去に交際関係にあった相手との性行為においては、自覚のないまま不同意性交に及んでしまっているケースが少なくないということになりそうです。
■「付き合っている=常に性的同意」?
近年、「#MeToo運動」が世界的に広がるなか、日本でも社会通念として浸透したのが「性的同意に関する4原則」です。
その4つとは、「非強制性(拒否できる環境が整っていること)」、「明確性(明確で積極的な同意であること)」、「対等性(社会的地位や力関係に左右されない関係であること)」、「非継続性(一つの同意は一つの行為に対してであること)」で、これらが揃うことが、性的同意を得るための前提条件だとされています。
写真=iStock.com/Zhang Rong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zhang Rong
このなかで、特に注目すべきは「非継続性」です。交際関係にある間は、性行為を常に同意してもらっていると考えている男性は、多いのではないでしょうか。
しかし現在の社会通念としては、交際相手だとしても性行為のたびに、その都度同意を得る必要があるのです。
これを怠ると、たとえ交際相手の女性とはいえ、性犯罪トラブルに巻き込まれることになりかねないのです。
■彼女の寝込みを襲い、示談金100万円
過去にこんなケースがありました。
ある30代の男性が、同棲中だった20代の女性に別れを切り出したところ、不同意性交で訴えると言われたのです。彼女が問題にしたのは、同棲中の男性の、とある性癖でした。
男性は、仕事の関係で帰りが遅く、女性はふだん先に就寝していました。しかし男性は時々、寝ている彼女の着衣を脱がし、性行為に及ぶことがあったのです。女性は最初、寝ぼけながら応じることが多かったそうですが、途中から普通に性行為に応じていたと言います。
男性は弁護士に相談しましたが、そこで得た助言は「『睡眠という意識不明瞭下で、不同意の意思を全うできなかった』と証言されれば、あなたは不同意性交の容疑者となる可能性がある」というものでした。男性は女性に示談金として100万円を支払ったとのことです。
このほかにも、恋人や元恋人から男性が性加害を訴えられたという事例には、別れ話が発端となっているケースが散見されます。
■「都合のいい関係」は一方的かもしれない
一方で、正式な交際ではないものの性的関係を継続している「セックスフレンド」から突然訴えられるということも考えられます。
男性は、「都合のいい関係」だと思っていても、実は女性はそうは思っていないことも往々にしてあるのです。「いつか彼女に昇格できる」という思いで体を許していても、一向にその気配がない男性に痺れを切らせ、愛が憎しみに変貌。女性が、それまでの関係を「男性からの性加害」として訴えるという事例も散見されます。
特に、セフレが仮に職場の部下だったり、まとまった額の金銭を貸したりしているような場合、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」として女性の主張が認められやすくなります。
「体だけの関係」だったとしても、女性に対し雑な扱いをするのは絶対にNGです。
■夫婦間でも不同意性交等罪は適用される
不同意性交が成立するのは配偶者に対しても同様です。
前出の内閣府調査によれば、既婚女性の10.6%が「夫から性的強要を受けたことがある」と回答しており、夫婦間の性犯罪は現在、社会的な問題となっています。
写真=iStock.com/SeventyFour
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeventyFour
かつて、他人同士であれば性犯罪に該当するトラブルであっても、夫婦間で起きたものについては、警察は民事不介入のスタンスを取っていました。
ところが、現行の不同意性交等・わいせつ罪の条文には、法定刑の記述の直前に、ともに「婚姻関係の有無にかかわらず」という言葉がわざわざ加えられているのです。
つまり、夫婦間における性加害でも、他人と同様に罰せられるということを忘れてはなりません。
■専業主婦が「拒めなかった」と主張したら…
今までのところ、妻に対する不同意性交等罪で逮捕された事例は、それほど多くはありません。
加藤博太郎『セックス コンプライアンス』(扶桑社新書)
しかし、例えば専業主婦である女性が、「家を追い出されれば路頭に迷うことになると思い、夫によるセックスの要求を拒むことができなかった」と被害届を出したとすれば、場合によって夫は加害者として逮捕される可能性はゼロではありません。
なぜならその状況は、不同意性交等罪の構成要件である「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」の原因となる行為・状態として定められている「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」という類型に、当てはまるという解釈もできるからです。
さらに夫から妻への日常的なドメスティックバイオレンス(DV)やモラルハラスメントの事実が確認されれば、逮捕や起訴されて有罪になる確率は一層高まることになります。
また、民事における離婚調停や離婚裁判においても、妻が夫からの性被害を主張するケースが散見されます。あくまでも民事なので刑事罰に問われることはありませんが、その主張が認められれば、慰謝料の算定などにおいて、夫側は不利な立場に置かれることになるでしょう。
■妻が夫の性的要求に応じる義務はない
一方で、裁判や調停を有利に進めるために、配偶者が「何度も性交渉を強要された」と本来の離婚原因ではない不同意性交を主張するといったことが起きているのも事実です。性犯罪の容疑者とならないための心得として「女性に誠意を尽くすべき」というのが重要ですが、それは配偶者に対しても同じなのです。
ちなみに、民事における離婚調停や離婚裁判においては、性の不一致や長期間にわたるセックスレスが「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして、離婚が成立するケースや、慰謝料請求の理由となる可能性があります。
しかし、だからといって、妻は夫の性的要求に応じなければならないというわけではないのです。自身の妻とはいえ、相手の意思に反するような性行為は慎むべきです。
気心の知れた相手だからといえども、性交渉を持つ際はしっかり合意を取り付けるべきだということを心がけてください。
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加藤 博太郎(かとう・ひろたろう)
弁護士
1986年生まれ。慶應義塾大学法学部(3年時まで法学部首席、飛び級のため単位取得退学)・同法科大学院を卒業後、大手監査法人勤務弁護士などを経て、加藤・轟木法律事務所代表弁護士。「かぼちゃの馬車」「スルガ銀行不正融資」「アルヒ・アプラス不正融資」など不動産投資や仮想通貨など数々の投資詐欺事件の集団訴訟(原告側)を担当し有名に。最近ではサッカー選手・伊東純也氏の性加害疑惑で伊東氏側の弁護を担当。メディア出演も多数。ソムリエの資格も持つ。著書に『セックス コンプライアンス』(扶桑社新書)。
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(弁護士 加藤 博太郎)