三流は失敗を恐れ、二流は後悔する、では一流は…マイクロソフト元役員が驚愕した「仕事のデキる一流」の一言
2025年3月25日(火)10時15分 プレジデント社
千里文化センター「コラボ」で行われたトークイベントには大勢の読者が詰めかけた。 - 写真提供=主催者
※本稿は、大阪府豊中市の千里文化センター「コラボ」で行われた出版イベント「澤円さんが千里中央に!「うまく話さねば」の呪いを解く‼」の内容を抜粋・再構成したものです。
写真提供=主催者
千里文化センター「コラボ」で行われたトークイベントには大勢の読者が詰めかけた。 - 写真提供=主催者
■使うグラスで酒の味は変わるか?
プレゼンターという仕事を生業にしていると、「もっとうまく話したい」という悩みを相談されることは多いです。
ですが、「うまく話す」というのは、いわば表面的なところ。
例えば、噛まずに話をするとか、いい感じで声のトーンを調整するとか、なにも見なくても話がまとまっているとか、そういったことを想像する人が多いと思います。
これを僕は、「グラス」に例えています。
例えば、シャンパンを飲む。ドンペリニョンだの、モエ・エ・シャンドンだの、冷やして飲んだらおいしい。
あるいは、いまはコンビニでもスパークリングワインが買えますね。これもキンキンに冷やして飲んだら、おいしいですよね。
では、飲み比べをしましょう、と。
どちらも普通のグラスに入れて飲み比べたら、当然、高いシャンパンのほうがおいしい。
では、安いスパークリングワインのほうをバカラの高級グラスに入れたら、順位が入れ替わると思いますか?
■グラスを磨いても中身は変わらない
これ、場合によっては入れ替わります。
よくよく飲んでいったら、当然のことながら、味はシャンパンのほうがおいしいはずなんです。だけど、イメージだけで順位が入れ替わる。グラスの華やかさで、一瞬騙されてしまう。
「話し方」でいえば、身振り手振り、声の出し方や資料の作り方というのは「グラス」です。
グラスをどれだけ磨いても、中身のクオリティは上がらない。これを多くの人は忘れているんです。
もちろん、いいものを使いたいからグラスを磨くというのも、それはそれでかまわない。だけど、その前に「中身」じゃないですか、ということをお伝えしたいのです。
■全員が納得する「単位」はない
もうひとつ、例を挙げましょう。
フィギュアスケートは、基本的には「うまい」という表現で評価します。「スケートがうまい」。そのうまさを競う競技です。体操なんかもそうですね。
競うからには「単位(評価基準)」があります。フィギュアスケートには「必ずこの技を入れなければならない」とか、「姿勢がまっすぐでなければならない」とかっていう単位があって、その単位にちゃんと即した状態で演技しているかどうかによってポイントをつけるわけですね。
そして、それぞれの項目のポイント、その合計が高い低いっていうので競技が成り立っています。
ところが、協会の人たちが一生懸命考えて、その単位を作って、公平性を担保するようにして……それでも揉めるじゃないですか。やれ「買収されてるんじゃないか」とか「あいつは見る目がない」とか。“疑惑の判定”みたいな話が持ち上がってくる。
つまり、全員を納得させる単位ってなかなか作れないんです。
写真=iStock.com/Artis777
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Artis777
■「うまく話す」という“呪い”を解く
そこに持ってきて「話し方」なんていうものに関しては、もう単位っていくらでもあるわけですよね。なにをもって「話がうまい」とするのか。それを問われると、むむむ……と答えに窮する人が多いはずです。
ですから、基本的にすべてが主観で決まるんです。その主観っていうもので、多くの人たちは苦しむんですね。
「話がうまい」の基準なんてはっきりしていないのに、「もっとうまく話さなければ」という“呪い”を自分にかけてしまう。
なので、そんな呪いはいらないですよ、ということを知ってほしいと思っています。
写真=iStock.com/Chinnapong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong
■「自分が面白がる」という姿勢
では、たとえば自社のサービスや商品、コンテンツを営業したり、プレゼンしたりするときに必要なことはなんでしょうか。
それは、「自分自身がめっちゃ面白がる」。これに尽きるんですね。
多くの人は「話す内容や対象について“正しく”伝えよう」というところで罠にハマります。「正しく」というのはそんなに意味をなさないと僕は思っています。
まず大事なことは、自分がそれについてめちゃくちゃ好きであるということを、自分自身で納得する。納得して、そのうえで「これ面白くないですか?」と人に勧めるんです。
例えば、さかなクンさん。さかなクンさんは魚に詳しいです。でも、魚に詳しいからあんなに引っ張りだこになっているかというと、ちょっと違う。
■なぜさかなクンの話は人を惹きつけるのか
話していることの正しさや詳しさだけでいえば、図鑑や論文からも同じような情報は得られるでしょう。だけどやっぱり彼から聞きたい。「魚のことだったらこの人に聞きたいな」と多くの人に感じさせているわけです。
それはなによりも、「好き」というパッションの強さゆえです。魚が好きすぎるということが滲み出すぎてしまっているから、人を魅了するわけです。
ですから、営業やプレゼンをして、誰かにファンになってもらいたいと思うなら、まず自分が熱狂的にそのサービスなりのファンになるということが大事になります。
もちろん、相手がそれを受け入れるかどうかの保証はありません。ありませんが、「好きだ」という熱量があると、聞き手は「なんかいいな」とか「こんなにこの人を熱狂させる魅力があるんだろうな」と感じて、その先をもっと聞いてみたいと興味を持つものなのです。
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu
■「練習量」ではなく「本番量」を増やす
そのようにアウトプットをすることに対して、失敗するのが怖い、失敗したら落ち込んでしまうという人もいます。
僕が思うに、落ち込んだりがっかりしたりするのは、暇だから。
だから、暇がない状態にするというのが一番の解決策です。アウトプットの機会をどんどん増やせば、その中でちょっとした調整をし続けることになるので、納得できるようになると思います。
「練習量を増やす」という表現がありますが、僕は「本番の量」と言っています。本番イコール練習にしてしまう。
ステージの上で話をするような「本番」をたくさん用意するというのはちょっと負荷が高いと思うので、ちょっとした本番でかまわない。いわば、「プチ本番」をいくつも作るわけです。例えば会議の最後の3分を、人前で話すプチ本番の良い機会だと思って、アウトプットする。
こういう機会をたくさん用意すると、結果的には暇がなくなって、つぎつぎに自分のアウトプットにアップデートがかかる状態になるので、落ち込んでいる暇がなくなるのではないかと思います。
■「僕、失敗したことないんだよね」
僕がマイクロソフトでマネージャーをしていた頃、「失敗」に関して面白いことを言うメンバーがいました。
彼は、僕が入社した時点では営業本部長だったのですが、「マネージャー飽きたからチームに入れてよ」と自分から来てくれるような人でした。つまり、キャリアは僕よりはるかに上。そのため、僕のチームのメンバーでありながらメンターでもあるという面白い関係性で、ときどき「なんか困ってない?」とメンタリングを兼ねた雑談の相手をしてくれていました。
その雑談の中で彼は、「僕、失敗したことないんだよね」と言うのです。すごいなと思って「いいですね!」と返すと、一言。
澤円『うまく話さなくていい ビジネス会話のトリセツ』(プレジデント社)
「ただね、結果が自分の思ったとおりになった試しがないんだよね」。
これぞまさに鬼メンタル。「思っていたのと違う結果が出る」ということを最初から想定内にしておけば、“失敗”はなくなりますし、その結果に落ち込んだりヘコんだりすることもないというわけです。
そして、うまくいったときは「なにかの罠なんじゃないか」「このあとドッキリカメラでも入ってくるんじゃないか」と思っておく。
それぐらいの姿勢でいるほうが、心持ちとしてはラクになるのではないかと思います。
■「1000回の学び」がひとつの成功をもたらす
僕自身も、もともとスキルフルなわけではないし、すごくピカピカのキャリアがあるわけでもありません。
だけど、バカみたいに全部しつこくやる。ひたすらやる。続ける。
そうすると、落ち込んでいる暇はなく、かつ、必ず何か得るものがあるはずです。エジソンも「1000回失敗したのではなく、1000回の学びがあって1個の成功を得られた」と言っている通りです。
自分自身、なかなか満足できないな、ヘコんじゃうなと思うんだったら、とにかくアウトプットの量を増やしてみる。量を増やして、あがいてみましょう。
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澤 円(さわ・まどか)
圓窓 代表取締役
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。
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(圓窓 代表取締役 澤 円)