中居正広とフジ経営陣はあなたの会社にもいる…フジ第三者委員会が報告書で問いかけた日本企業の病巣

2025年4月8日(火)17時15分 プレジデント社

第三者委員会竹内委員長 - 撮影=石塚雅人

フジテレビとフジ・メディア・ホールディングスが設置した第三者委員会が調査報告書を公表した。中居正広氏とフジの問題とは何だったのか。元MBS毎日放送のプロデューサーで、同志社女子大学メディア創造学科の影山貴彦教授は「報告書は中居氏の性加害を認定、フジ経営陣の責任を明確にした。画期的だった点はこれだけではない」という——。

■“玉虫色”の結論はなく、衝撃的だった


3月31日、フジテレビの第三者委員会が公表した調査報告書は驚くべきものだった。これまで日本社会で往々にしてよしとされてきた玉虫色、騒ぎをできるだけ大きくしないという穏便な結論にとどまるのではなく、経営陣の責任や企業風土などを厳しく追求した衝撃的な内容だった。フジテレビにとってはこの上なく厳しいものであるが、この調査報告書は日本社会に対して風穴を開けたと評価したい。


私は会見前、中居正広氏と元女性アナウンサーとの問題の真相が、どれほど具体的に書かれているかという点に注目していた。調査報告書が抽象的で中途半端なものであれば、すべてが台無しになる恐れがあった。しかし蓋を開けてみれば、その心配は杞憂(きゆう)に終わる。全394ページの調査報告書には、中居氏と女性、フジテレビ社員とのやり取りが具体的に、かつ生々しく記載されていたからだ。


事実関係を正確に把握するため、第三者委員会は関係者に対して徹底的な調査をおこなった。ヒアリングを受けたあるフジテレビ社員は、その時の様子を「取り調べ」に例えたという。「しんどい」と感想を漏らしてしまうほどの厳しい追求があったことは、調査報告書全体からも感じ取れる。いろいろな制約があるなかで、わずか2カ月であれほどの調査報告をまとめた点はもっと高く評価されて良いだろう。第三者委員会の竹内朗委員長をはじめ、弁護士のみなさんには改めて敬意を表したい。


撮影=石塚雅人
第三者委員会竹内委員長 - 撮影=石塚雅人

■組織の責任がはっきりした


それ以外にも、着目したポイントが2つある。


まず、第三者委員会が、大筋として「週刊文春の報道は正しかった」としていることだ。週刊文春は第一報で問題が発生した日、女性を会食に誘ったのはフジテレビ社員だと報じた。第二報で、フジテレビ社員の関与はなかったと記事を訂正。それを発端として週刊文春に非難のベクトルが向かったが、第三者委員会は中居氏と女性の問題を「業務の延長線上における性暴力」と認定した。問題をめぐってはフジテレビ社員あるいは組織が関与していたかどうかが焦点となっており、第三者委員会はそれも汲み取ったうえで、総合的には事実に変わりないと指摘した点は大きい。


次に、組織としての責任についてはっきりと言及していたことだ。女性が被害を相談した際、フジテレビの編成を担うキーマン3人は「プライベートな男女間のトラブル」と判断し、密室ともいえる空間で意思決定をおこなった。そのキーマン3人は、当時の港浩一社長と大多亮専務、編成制作局長である。


■どの企業も“高みの見物”はしていられない


大多氏は24年に関西テレビの社長に就任し、1月の定例記者会見で「この件に関西テレビは一切関与していない」と述べた。中居氏に対する怒りの感情も明かし、それをポジティブに受け止めたメディアが多かった印象だ。ところがフジテレビの関係者とは一歩引いたような大多氏の発言を、調査報告書は一蹴した。「あなたは紛れもなく首謀者のひとりです」と言わんばかりに、大多氏の名前を挙げたうえで当時の対応を厳しく批判したのだ。


大多氏の動向が注目されたが、4月1日に開かれた関西テレビの入社式で新入社員を含む全社員に謝罪。同月4日には辞任を発表した。大多氏は第三者委員会の指摘で辞職を決断したと述べていることからも、調査報告書がもたらした影響は大きかったといえる。


撮影=石塚雅人
フジテレビ社屋 - 撮影=石塚雅人

私が最大限に評価しているのが、フジテレビには「ハラスメントに寛容な企業体質」があると指摘した点だ。人権意識の低さとガバナンス機能の不全を問う踏み込んだ指摘により、フジテレビの恥ずかしい部分が露呈する形となった。これは他社にとってもひとごとではない。フジテレビは悪しき慣行が存在する企業のひとつであるとされたが、どの企業も高みの見物ができる立場ではないのだ。


■「ハラスメント」「人権侵害」はメディアに限らない


フジテレビの一連の問題を受け、各局がハラスメントや人権侵害に関するヒアリングをおこなった。総じて「大きな問題はなかった」と早々に調査結果を出したが、一体どのような調査をしたのだろうか。どれほどの手間暇をかけたのか、第三者委員会があれだけのメッセージを出したあとだからこそ大いに疑問が残る。CM出稿を停止しているスポンサー企業についても「あなた方は大丈夫なのか」と問いたい。


この調査報告書は、第三者委員会がすべての企業や組織に向けたメッセージだ。「フジテレビは」ではなく「私たちは」という主語で問題を捉え、「私たちは大丈夫なのか」と自社の問題を徹底的に洗い出していただきたい。そして調査結果を内に秘めるのではなく、社会に向けて発表するのだ。記者たちも曖昧な調査結果をそのまま受け止めるのではなく「どのような調査をしたのですか」と聞き出す必要がある。


何もメディアに限った話ではない。「スパルタ的な指導」「ハラスメント的な振る舞い」が長らく見過ごされてきた風潮は日本企業の組織風土としてあるだろう。そのような人物が評価される組織は、今も決して無くなってはいないと思う。“テレビ業界は変われていない”という話はよく聞くが、それ以外の一般企業も含め見直すことが必要だ。それが当たり前の社会になっていくことを望む。


■株主総会までに総退陣の意思を示すべき


私は以前から「フジテレビの経営陣は総取っ替えすべき」と主張してきたが、現時点ではフジ・メディア・ホールディングスに金光修氏や清水賢治氏ら5人の取締役が留任している。これはフジテレビに日枝イズムが残っていることにほかならず、外資系の株主も「新経営陣を迎えるべき」と指摘してきた。極めてまっとうな指摘である。


撮影=石塚雅人
フジテレビ清水社長 - 撮影=石塚雅人

フジテレビが抱える膿をしっかり出し切るには、経営陣を刷新するしかない。新しい経営陣には、外部から人材を迎えることも必須だ。とはいえ経営陣を全員、外部の人たちだけで揃える必要はないと思う。特殊な世界であるため、メディアに隣接する業界からトップを迎え、フジテレビを昔からよく知る社員で支えながら改革していくのが理想的な形だろう。


タイミングも重要だ。私は株主総会が開かれる6月までに、総退陣する意思を示すべきだと考えている。株主総会で糾弾されてから「フジテレビの経営陣を一掃しました」と発表するよりも、もっと早いタイミングでおこなったほうが説得力も増す。実際、日枝氏の退任も一番初めに会見を開いた1月17日に発表していればこれほど深刻な事態にはならなかったはずだ。


■“焦る気持ち”を見せるのは拙速だ


少し古い話になるが、1986年にタレントのビートたけし氏がフライデー襲撃事件を起こした際、母親のさきさんは取材陣に対して驚愕の発言をした。「あんなどうしようもないのは、死刑にでもしてください」と言い放ったのだ。それを聞いたビートたけし氏は激怒したが、さきさんは自分が厳しいことを言わないと世間の許しを得られないと考えたのだという。実際に、これ以降ビートたけし氏に対する風向きは一変した。一番近しい存在の母親が真っ先に突き放したことで、説得力を増したのだ。


今回の問題に置き換えてみると、日枝氏を含む経営陣の一斉退任は、本来であれば大きな説得力をもって「フジテレビは生まれ変わった」というメッセージを伝えることができた。遅きに失した感は否めないが、6月の株主総会までに経営陣の刷新を発表すれば、リカバリーできる可能性が少し高まるのではないだろうか。


ただしリカバリーを急ぎすぎると、逆効果になる。発言する際の言葉選びにも注意が必要だ。清水社長は、4月1日に開催されたフジテレビの入社式でのあいさつで「強い組織というのは、誤りを修正する力がある組織」と述べた。「修正」という言葉には、今回の問題をできるだけ穏便に済ませたい清水社長の本音がにじみ出ている。また、再生に向けた真摯(しんし)な姿勢を示すためには「誤り」ではなく「過ち」と表現すべきだった。早くなんとかしたいと焦る気持ちはわかるが、その姿をスポンサー企業や株主、視聴者に見せてはいけない。


■フジテレビはタイミングを見誤ってはならない


スポンサー企業に関しても、CM出稿は拙速に再開すべきではない。第三者委員会の報告を受け、キリンHDやサッポロビールなどがCM出稿の再開を見送った。一方で、サントリーHDは再開を検討する意思を示しており、各社で対応が分かれている。清水社長が提示した再発防止策は、一朝一夕では絶対に実現できないものだ。そのため一定の成果が出始めてから、スポンサー企業はCM出稿の再開を検討してほしい。


拙速にスポンサー企業が戻ると、せっかく第三者委員会が素晴らしい報告書を出したのにもかかわらず、従来の穏便なまとまり方になってしまう。フジテレビにとっては我慢のしどころだが、スポンサー企業や株主、そして視聴者の納得を得ることが最優先事項だ。


真摯な対応を示し続ければ、いずれ社会に伝わる日がやって来る。阪神・淡路大震災が発生した際、私はこんな経験をした。当時私はラジオの報道特別番組のディレクターを務めており、少しでもリスナーの役に立ちたいと来る日も来る日も24時間体制で情報を流していた。ある時、リスナーからメッセージが届いた。「いつも役に立つ情報をありがとう。でも、そろそろ明るい曲も聴きたくなってきました」と希望を伝えてくれたのだ。我々はそこで初めて、夜の時間帯にラジオで曲を流した。


「もういいだろう」と自分たちから動いたのではなく、「もういいよ」という声を聞いて動いたのだ。状況は違うかもしれないが、フジテレビも世の中から「もういいよ」と言われる時がきっとやって来る。フジテレビもスポンサー企業も、そのタイミングを誤らないようにしてほしい。


撮影=石塚雅人
フジテレビ清水社長が会見の「おわりに」で誓った内容 - 撮影=石塚雅人

■CM再開にはまだ時間がかかる


CM出稿再開のタイミングは、私の感覚では譲歩して考えたとしても、早くても秋、10月以降になるのではないだろうか。フジテレビは報道や検証番組などを通じて視聴者やスポンサー、株主に対して具体的な改革の成果を説明していくと思うが、一回きりでは済まないだろう。複数回、時間をかけて丁寧に説明していかないと信頼は取り戻せないからだ。


抜本的な組織改革をおこなうことは言うまでもないが、愚直に素晴らしい番組を制作し続けることがフジテレビ再生の唯一の道だ。テレビ業界を愛する者のひとりとして、フジテレビ再生のために頑張ろうとしている社員にエールを送りたい。特に若手や中堅を中心とする現場の社員たちの頑張りに期待する。


3月20日、フジテレビは地下鉄サリン事件を振り返る大型特番を放送した。民放他局でオウム事件の特集が下火になるなか、フジテレビは変わらずオウム報道に力を入れてきた。この姿勢は報道機関として賞賛に値する。しかし、である。地下鉄サリン事件から30年という節目とはいえ、局の存続がかかっている問題のさなか、オウム事件の特集を放送するのは優先順位が違う。ほかの社会問題を語っている場合ではなく、今起きている問題に対する検証特別番組を最優先で放送すべきだった。


■今一度、原点に立ち返ってほしい


そうしたなかで、3月31日に最終回を迎えた清野菜名主演のドラマ「119エマージェンシーコール」は健闘が光った。放送の途中でフジテレビの問題が噴出したものの、演者とスタッフの気概に満ちており、フジテレビ全体を引っ張っていたと感じた。素晴らしい番組を制作することが、フジテレビの商売だ。「119エマージェンシーコール」のような番組を1つ、2つ、3つと制作していった先に、フジテレビの再生があると考える。


たとえば、優れたテレビやラジオの番組、CM、報道活動に与えられる「ギャラクシー賞」等に選ばれることになれば、厳しい風向きも変わるだろう。フジテレビには放送外収入があるから傾きにくいという声もあるようだが、放送を主としている業界は、放送が倒れたらにっちもさっちもいかないのだ。フジテレビは、その原点に今一度立ち返ってほしい。


撮影=石塚雅人

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影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授/コラムニスト
早稲田大学政治経済学部卒、関西学院大学大学院文学研究科博士課程中退毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職。専門は「メディアエンターテインメント論」。朝日放送(ABC)ラジオ番組審議会委員長 /スポーツチャンネルGAORA番組審議会副委員長 日本笑い学会理事/「影山貴彦のテレビ燦々」(毎日新聞)等コラム連載。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」「テレビのゆくえ」「おっさん力」など。
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(同志社女子大学メディア創造学科教授/コラムニスト 影山 貴彦 構成=山本 ヨウコ)

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