なぜドイツ人の高齢者は新聞で恋人募集をするのか…82歳の女性が「出会い系」に出した秀逸なラブメッセージ

2025年4月16日(水)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peppi18

日本人は老いて配偶者に先立たれると、ひとり暮らしになる人が多い。ドイツ出身のサンドラ・ヘフェリンさんは「ドイツでは高齢者もオープンに恋をする。新聞の恋人募集欄は、昔からその出会いの場になっている」という——。

※本稿はサンドラ・ヘフェリン『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)の一部を再編集したものです。


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■71歳の高齢女性が10代の少女のような恋をした顛末


「私の71歳の女友達がね、このあいだ思いっきり恋をしたのよ!」


こう話してくれたのは、64歳で留学するなど、おひとり様を満喫中のベアーテさん。聞けば、その女友達は夫を亡くしたあと、長らくシングルだったとのこと。生活に特に不満もありませんでしたが、ある時、ときめく相手に出会ってしまったのだとか。


「久しぶりの恋愛は『大変』のひとことに尽きるわ……60代の私が70代の友人から10代の女の子のような恋愛相談を受けることになるとは思わなかったわ。だって、すごいのよ。『電話したほうがいいと思う?』と聞いてきたかと思ったら、『電話、やっぱりやめておいたほうがいいかしら……?』『やっぱり電話するのやめるわ』『やっぱり電話したの』というような連絡がひっきりなしに来るんだから」


目を白黒させているベアーテさんに「それで、その恋はどうなったんですか?」と聞くと、笑い出しました。


「結局、本人がそのうち『大変過ぎるわ』と言って自分からやめたのよ。ときめいたのはいいんだけれど、高齢というのもあって一日中『ああしたほうがいいかしら? こうしたほうがいいかしら?』『私のことをこう思っているかしら? それともああ思っているかしら?』と考えるのに疲れちゃったんだって。それで今は嘘(うそ)のように、もとどおりの地に足のついたシングル生活に戻っているのよ。人間ってよくわからないわよね」


■ドイツ人は配偶者に先立たれたら新聞で恋人を募集する


ドイツ人が配偶者やパートナーが亡くなったあとの恋愛に積極的なのは、ヨーロッパは断然「カップル社会」だからでしょう。ドイツでは昔も今も大手の新聞に「出会い系のページ(現在はサイトのことも)」があります。自己紹介とともに相手に求める条件などを書いて投稿するのですが、10代の頃、私はよく友達とこの「出会い系」に書かれた文言を見ては笑い転げていました。


自信たっぷりの自己紹介に、「ほんとうかな〜?」と思うことも多いのです。


「『身長187センチでスポーティな体型』と書いている人は、いい身体かもしれないけれど、髪の毛がないのかな? 『週末は家で君とゆっくりしたい』ということは、君に家事をやってもらいたいし、外でお金を使いたくないのかも?」


いろいろと友達と妄想しては笑っていました。まあ私たちの性格が悪かっただけかもしれませんが。それでもドイツ人と話すと、「出会い系」での自己アピールの「誇張」がよくネタになるのは確かです。


■なぜ年金生活のシニア男性が「若い女性を恋人に」と思うのか


日本と違うのは、文言がラブレター調になっていることです。たとえば「かわいい天使のような君が舞い降りてくれば、戦争だらけのこの世界にも光がさします」というふうに、ラブレターに社会ネタを盛り込んだものをよく見かけます。


これを読んで、単なるロマンチストなのか、それとも面倒くさい性格の人なのか、どう判断するかは難しいところです。


先日、Xにあがってきてツッコみどころ満載だなと思ったのは、ある男性の投稿です。


「若くてエネルギーがいっぱいの素直な君にいつもそばにいてほしいし、味方になってもらいたい」の後、例のラブレター調のロマンチック系の語りが続き、「身長は179センチ」だとあり、最後にサラっと「自分は寡夫で年金生活」と書いています。趣味は「釣り」とのことですが、釣りが趣味の年金生活の男性のもとに、なぜ「歳下のエネルギーいっぱいの素直な女性」が現れると思っているのか……? やっぱりいろいろとツッコみたくなってしまいます。


■ドイツ人は「出会い系」に対する拒否感があまりない


日本とドイツの大きな違いは、日本で「出会い系」は「ここ数年、主に若者の間で流行っているもの」として認識されているのに対し、ドイツでは昔から大手の新聞が出会い系のページを用意していたため、古い世代にも市民権を得ている点です。たとえば高級紙である南ドイツ新聞にも昔から出会い系のページがありますし、アウクスブルクの地元の新聞でも出会いを求めるページがあります。もちろん個人の住所などは載せず、私書箱やメールアドレスで連絡を取り合う形です。


写真=iStock.com/ollo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ollo

「出会い系」に投稿している文章についてずいぶんと茶化してしまいましたが、ごく自然なものが大半です。自己紹介に「自分の日々の過ごし方」「大事にしていること」をまず開示し、住んでいる町の名前を挙げたうえで、「私は地元愛が強い(つまり引っ越しをする気はない)」と書けば、自分の立ち位置や希望を伝えることができるので効率がいいのです。たとえば、こんな感じのいい投稿もあります。


私はもともと薬剤師で、自然の中で過ごすのが好きで、現在パートナーはいません。年金生活に入ったばかりで、真面目で優しいパートナーを探しています。寡夫でもバツイチでも構いません。ミュンヘンや近郊で様々なレジャーを二人でできればと考えています。貴方の詳細を写真とともにお送りください。

なかには自虐センスのある投稿も。


私はペトラ、58歳で162センチ。朝ごはんはいつもトースターと一緒に食べています。会話の相手はテレビ……そのうち掃除機に恋愛感情を抱くのではないかと不安です。ご連絡をお待ちしております。

■82歳の女性がパートナーを募集した“感じのいい”メッセージ


そして「素晴らしい!」と思ったのがこの投稿。


私は女性で82歳、楽天的な性格で人生を楽しんでいます。様々な分野で知識を身に付け、いろんなところに旅行しましたが、決してうぬぼれてはいないつもり。でも英語は完璧に話せます。基本的にいつも機嫌は良いです。バイエルンの山々が大好きで、飼犬のメスのシェパードも大好き。この投稿で素敵なパートナーと出会いたいですし、そのパートナーがバイエルンの山に住む人であれば、なおのことお会いしたいです。

基本的にドイツの「出会い系」では、書くほうも読むほうも「文章力」が問われるというのは間違いなさそうです。この人は条件だけを羅列しているのか、あるいは人をクスッと笑わせる能力があるのかが、文章を読めばある程度、伝わってくるというわけです。


写真=iStock.com/MStudioImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MStudioImages

■日本人は配偶者が死んだあとは「おひとりさまでよい」と考える


あるドイツ人女性に「高齢者の恋愛についてどう思う?」と聞いてみたところ、クールな答えが返ってきました。


「文化の違いはあるわよね。ドイツではとにかく、パートナーがいることが大事。でも日本では『配偶者が亡くなったあとは一人でもよい』と考える人が多い気がする。私自身は実は日本スタイルで、自分がおばあちゃん(オーマ Oma)になって夫が先に亡くなったら、おばあちゃん同士で女子会をやるのもいいと思う」


彼女は日本に長く住んでいたので、もしかしたら価値観が少し日本的になっているのかもしれません。確かに日本には「女子会」があり、男性は男性で「つるみがち」です。


ドイツは対照的に、老いも若きも「カップル文化」なので、映画館に行くのも、旅行に行くのも、「いつもカップルで」という人が年代を問わず珍しくありません。驚くのは、2024年のジェンダーギャップ指数では世界第7位、それだけ男女平等が進んでいるドイツなのに、「一人で外食する女性」が市民権を得ていないことです。


「一人でレストランでランチをするのはちょっと……」と考える女性は、体感として日本よりもドイツのほうが圧倒的に多い印象です。それが夜ご飯であればなおのこと。


だから私もドイツ人の女友達と食事の約束をし、直前に「彼氏も連れて行っていい?」と打診があっても、特に驚きません。よほどの理由がない限りは応じます。ただ日本的な感覚だと、こういうのは「×」であるということも、よくわかるのです。


■ドイツ人はカップル文化、女性は一人で食事するのに抵抗がある


「私&カップル」の3人で山歩きをしたり、食事をしたりというのは嫌いではありません。その一方で、ドイツ人女性の口から発せられる文章がすべて「私の夫が……」(“Mein Mann”)で始まるのは、少々疲れるのでやめてほしいな、と思ってしまいます。



サンドラ・ヘフェリン『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)

日本では、長年付き合いのある友達でも「夫の話」がほとんど出てこないことも多く、実を言うと私はこれを「居心地がよい」と思っています。友達のパートナーの話にどう反応したらよいか困るからというのもありますが、ぶっちゃけ「もっと面白い&オチのある話があるでしょ」と思っているからです。まあ、私自身が夫の話を全くしないかと聞かれると自信はありませんが、自分の話や芸能ネタ、時事ネタが多い自信はあります。


なにはともあれ女性も堂々と「一人ランチ」「一人カラオケ」や「一人旅」ができる日本は「おひとり様に優しい素晴らしい国」だと思います。


ドイツも日本も知る私としては、おひとり様や女同士の心地よさもよくわかります。だからこそ、「恋はしてもいいし、しなくてもいい。いくつになっても好きにしたらいい!」と思うのです。


写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

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サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)
著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない〜無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。
ホームページ「ハーフを考えよう!
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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)

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