おじいちゃんのおじいちゃんに"対面"できる…「戸籍+スマホ」で簡単にできる「ご先祖さま探し」のススメ
2025年4月16日(水)18時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/78image
※本稿は、丸山学『家系図つくってみませんか?』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
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■戸籍をたどる作業は大変だった
戸籍というのは、自身からさかのぼって上に上にと古いものまで取得していくことが可能です。
「上」とは、父母・祖父母・曽祖父母(さらにその上も)を指します。法律的にはこうした自身の上に位置する方々は「直系尊属」と呼称されます(子ども・孫など、下に位置する人は「直系卑属」と呼びます)。
こうした直系にあたる方々の戸籍を取得する権利を私たちは有しているため、戸籍取得によってご先祖探し・家系図作成が誰でもできることになります。
なお、父母の兄弟姉妹・祖父母の兄弟姉妹など直系の方々の「横」に位置する人は法律的に「傍系」と呼ばれますが、傍系の方を目指して戸籍取得することはできません。取得できるのは、あくまで直系に位置する方々だけになります。
このように、権利としては認められていても、実際にさかのぼって戸籍を取得することはこれまでは簡単ではありませんでした。というのも戸籍がそれぞれの本籍地に保管されており、それぞれの役所に請求・取得する必要があったからです。
出所=『家系図つくってみませんか?』
■都道府県をまたいで請求が必要
現在東京に本籍を置かれている方でも、父は新潟県に本籍を置いており、さらに祖父の代には長野県から分家してきた、などということになると、まずは自身の戸籍を東京の役所で取得し、その戸籍のコピーを添えて父が本籍を置いている新潟県の役所に郵送で請求する、さらには新潟県の戸籍を読み解き、分家前の長野県の役所にまたそこまでの過程の戸籍のコピーを添えて請求するという作業が必要でした。
しかも、現実的には一人の人間であっても生涯で複数の戸籍を渡り歩いています(婚姻・転籍等により)。そのため、自身・父・祖父の戸籍をさかのぼって揃えていくには、何通もの戸籍を取得しなければならず、そのたびに役所も異なるというような事態でした。
しかも、郵送であれば定額小為替という一般的にはあまり馴染みのない券面を郵便局で購入して、それで戸籍取得の手数料を支払うことになります。お釣りも定額小為替で送られてきてということで、なかなかに面倒な作業でした。
■新制度が始まり、一つの役所で完結
ところが、2024年3月1日から「戸籍の広域交付制度」が施行されて、なんと全国どこの役所に保管されている戸籍であっても(自身が権利を有するものであれば)一つの役所から遠隔で取得できることになったのです。
これにより、自身の戸籍を複数箇所の役所に郵送で請求・取得し、次に父の戸籍を複数箇所の役所に申請し、さらに祖父の……などということを延々と繰り返す必要がなくなったのです。
自身の最寄りの役所に出向いて、そこで全国どこの役所の分の戸籍でもさかのぼって取得できてしまうのです。もちろん、明治時代の分まで取得できてしまいます。
これなら定額小為替も不要であり、一つの役所で通常の支払いをすれば済んでしまいます。
私などから見ますと、ご先祖探しが恐ろしいくらいに簡易化されたという印象です。
まずは戸籍の取得だけでもぜひやってみましょう。
■インターネット上で先祖に対面できる
戸籍取得が非常に簡易化されたことに加え、近年、ご先祖探し・家系図作成をされる方にとって非常に大きな進展がありました。
それが、国会図書館が提供する「デジタルコレクション」という書籍の画像提供サービスです。これにより、自身の祖父母・曽祖父母の知らなかった一面に触れることができるようになった人が続出しています。
同サービスはネット上にて無料で利用できるものなので、「まずは戸籍取得をし、その後、国会図書館デジタルコレクションで先祖について検索する」というように覚えていただくとよいと思います。
「国立国会図書館デジタルコレクション」より
しかし、この話をすると、たいていの方が、「いやいや、ウチはそんな大した家柄でもないし、祖父母・曽祖父母も有名人ではないから世間で刊行されている書籍に登場するはずはないですよ」という反応が返ってきます。
ところが、まさに一般家庭に属し著名人でもない私の祖父も、デジタルコレクションを利用すると出てきてしまうのです。
■祖父は地元の「自治会長」を務めていた
私の祖父は「丸山一次」という名前で、新潟県長岡市で生まれ育ち、その後に東京に出てきました。ですので、実際に「長岡市 丸山一次」というワードで検索すると図表2のような画面が出てきます。
出所=『家系図つくってみませんか?』
いちばん先頭に出てきた『長岡の産業と自活』(昭和10年刊行、自由日日新聞社)をクリックして、そこでまた「全文検索」という箇所に「丸山一次」と入力すると、148ページが表示されます(上に拡大図)。
そして見てみると、確かに私の祖父・丸山一次の名前が登場します。前後の文章を読むと、昭和10年当時の長岡市内の文治町の伍長(現代の自治会長のようなもの)として書き出されていることがわかります。
■普通の人の情報もヒットするように
実はこのように、昔の書籍(主に郷土誌)には地域の役職者の名前や旧家についての記述が非常に多くみられます。郷土誌によっては、地域の各軒の当主名を書き出しているものもあります。
重要なので繰り返しますが、この国会図書館デジタルコレクションの凄いところは日本の古い書籍数百万点が画像化されているだけでなく、その書籍内に記載されている文章のすべてが検索対象になっていることです。
これがたとえばタイトルや見出しまでしか検索対象でないとすると、よほどの著名人でなければ出てこないのですが、全文となると、このように一般人までピックアップすることが可能になるのです。
デジタルコレクションがここまで充実したのは2022年12月のことです。
これもまたつい最近の変化ですのでご存じない方が多いのが実状です。
■「遊び人」の祖父と遊廓は関係している?
ちなみに、私は子どもの頃、大相撲が大好きで、江戸時代からの相撲の歴史を調べて楽しんでいました。そして、明治〜大正時代にかけて活躍した名横綱である常陸山(第19代横綱)、梅ケ谷(第20代横綱)について話してくれる祖父が大好きでした。
当時子どもだった私は祖父が「何者」であるのかはよくわかっていませんでしたが、後年、親戚から「おじいちゃんは遊び人」「着物の仕立て職人だった」という話を聞かされて、それはそれで味わいがあるなあ〜などと思っていたのです。
さきほどの検索をし、祖父が長岡市文治町の顔役であったことがわかった訳ですが(ちなみに生まれた場所は長岡市内でも異なる場所です)、ふと思いついて『角川日本地名大辞典15新潟県』(角川書店)で文治町について調べたところ、明治39年にこの土地に遊郭を集めた旨が記述されていました。遊郭ということは何やら着物の需要が多そうですし、「遊び人」の話とも符合しそうです。
この点については、仕事が一段落したらじっくり調べてみたいなと思っています。
■ご先祖さまを見つけられた人が続出
デジタルコレクションで調べてみたら私の祖父は遊郭の町の顔役であったらしい〜という話をYouTubeでしたところ、登録者が1万人にも満たない弱小チャンネルにもかかわらず100件を超える多数のコメントをいただきました。
視聴者の方もご自身の祖父母・曽祖父母・ご先祖様のお名前で検索したところ、やはり情報を得られた方が多いようです。コメントとしては次のような内容のものがありました。
・ 曽祖母が某病院で産婆さんとして働いていたことがわかりました。
・ 5代前の方が従事していた分野がわかりました。
・ 医師であった亡き父のことが掲載された雑誌がたくさん出てきて驚きました。
・ 鉄道職員録で祖父の名前が出てきました。
・ 亡き父の論文の情報が出てきました。
・ 祖父のことが複数出てきました。官報にも載っていました。
・ どんな仕事をしていたか不明だった曽祖父の名前が帝国医籍宝鑑(医師名簿)にありました。
・ 高祖父よりも前にさかのぼれてびっくりしました。満州国のデータがあるのにも驚きました。
・ 移民名簿にブラジルに移民した本家の名前を発見して感激しました。
・ 写真が趣味だった祖父の写真雑誌に入選した作品が出てきた。
・ 祖父は無声映画時代の時代劇俳優でたくさん出てきました。
・ なぜお爺さんのところに人が多く訪ねてきたのか不思議でしたがわかりました。
・ 祖父が巴里万博等々に美術品を出品していたことがわかりました。
このように、数代前の方々の知らなかった一面に触れられる可能性が出てきたということです。
■自分も「ご先祖探し」の対象になる
ただし、これもできるだけ古いご先祖様のお名前を知ってこそ検索が可能になるものです。やはり戸籍をできるだけさかのぼって取得して正確に把握する必要があるのです。その戸籍取得が前述のとおり非常に簡易になった訳ですから、戸籍取得+国会図書館デジタルコレクション検索をやらないのはもったいないといえるでしょう。
余談ですが、検索対象はご先祖様たちだけではありません。エゴサ(自分の名前で検索)すると自分自身のことが出てくる場合もあり、昔の雑誌に自身が投稿した記録が出てきてびっくりしたという声もありました。
先ほどから「昔の書籍」と書いていますが、実は平成に刊行された書籍・雑誌もデジタルコレクションにどんどん収載されています。
私が平成6年に某小説雑誌の新人賞に投稿して二次選考で落とされた黒歴史(?)を思い出して、まさかとは思いながら応募小説のタイトルで恐る恐る検索したら、ばっちりその選考結果を掲載した雑誌誌面の画像が出てきました。
そうです、ご先祖様のことをデジタルコレクションで検索している私たちもいずれ末裔たちから見るとご先祖となり、「曽祖父母の名前で検索してみようか」となった時の検索対象になるのです。
なお、書籍だけではなく官報も検索対象ですから意外と一般人の情報が出てくるのです。
■デジタルコレクションはスマホでもOK
どうでしょうか?
これまで祖父母より上のことなどまったく知らなかったという方でも、最寄りの役所で古いところまで戸籍取得をして、そこで判明したご先祖様のお名前を国会図書館デジタルコレクションで検索するだけなら、だいぶ身近に思えるのではないでしょうか?
明治時代までの戸籍取得にかかる費用は、当然その家により異なりますが、費用は1万円弱です(本書の第3章参照)。
そして、デジタルコレクションは無料で誰でも使用できます。
パソコンでもできますが、スマホでもOKです(ただし、デジタルコレクションの利用にあたっては利用者登録をしないと見られない資料もありますし、一部、国会図書館内の端末でしか見られないものもあります)。
■江戸後期、幕末の動乱までさかのぼれる
ここまでは、やろうと決めたらほぼ誰でもできてしまいます。
丸山学『家系図つくってみませんか?』(ポプラ新書)
年代にして現代から160〜180年前までのご先祖様の系譜を知り、場合によってはデジタルコレクションでそれらの方々がどのような生活を送っていたかをたどる。ぜひ明日からでもご先祖様を知る旅に出立していただけると嬉しいです。
なお、このように簡単に手が届くようになった幕末・明治・大正時代ではありますが、令和時代を生きる私たちにとってはもはや日本史の世界です。
幕末の戊辰戦争、西南戦争では国内で多くの血が流されました。
ご先祖様のことを調べたら、幕末期は某藩の足軽であり薄給でありながら戊辰戦争が始まると最前線に送られ討死をしたという記録に出会うこともあります。
■名前しか知らない人が身近な存在に
明治10年の西南戦争(現在から150年ほど前)、明治37〜38年(120年ほど前)の日露戦争などは、私たちにとってはドラマで観るような日本史の世界ではありますが、デジタルコレクションで出てくる郷土誌内には従軍した人の氏名、戦死した人の氏名が多く列挙されています。
それらの方々は戸籍取得するとお名前が出てくるような方々です。
ご先祖様のことを少し本気で調べるだけで、日本史の中を生きていた記録に簡単に出会える時代です。これまで名前も知らなかった、あるいは名前だけは知っていたご先祖様が途端にその息遣いまでもが感じられる存在になります。
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丸山 学(まるやま・まなぶ)
行政書士
1967年埼玉県生まれ。2001年に行政書士事務所を開業。自らのルーツを900年分たどったことをきっかけに、家系図作成業務を本格化。江戸時代やそれ以前に及ぶ先祖調査・家系図作成業を積極的に行い、年間100件近い案件に取り組んでいる。テレビ、新聞などのメディアにも多く出演。『先祖を千年、遡る』(幻冬舎新書)、『ご先祖様、ただいま捜索中!』(中公新書ラクレ)など著書多数。
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(行政書士 丸山 学)