広末涼子よりもっと深刻…「認知症親を捨てる」「無料入院ねだる」医師が見た救急外来"モンスター患者"の生態

2025年4月17日(木)10時15分 プレジデント社

第35回 東京国際映画祭 オープニングイベント レッドカーペット 広末涼子(写真=Dick Thomas Johnson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

看護師に対する傷害の容疑で逮捕・送検された俳優の広末涼子(4月16日に釈放)。医師の筒井冨美さんは「病院内には広末さん以上に医療関係者に危害を与えたり、身勝手な行動をしたりするモンスター患者がたくさんいる」という——。
第35回 東京国際映画祭 オープニングイベント レッドカーペット 広末涼子(写真=Dick Thomas Johnson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

■広末涼子さん逮捕の衝撃


2025年4月8日、俳優で歌手の広末涼子さんが逮捕・送検された(16日に釈放)。高速道路で自身が運転する乗用車が大型トレーラーに追突し、静岡県内の病院に救急搬送されて治療を待つ間に看護師を足で蹴るなどの暴行を加えた。


傷害容疑で現行犯逮捕された当初、身分証明書を携帯しておらず、「自称・広末涼子」と報じられたが、まもなく所属事務所より確認と謝罪が発表された。任意の薬物検査では覚醒剤などの違法薬物は検出されず、家宅捜索でも違法薬物は発見されなかったようだ。


10代の頃からCM・歌・映画と活躍し、早稲田大学に推薦入学した後も精力的に芸能活動を行なった(同大学は中退)。その後も2度の結婚と離婚、2023年には有名シェフとの不倫報道と公私共に話題の多いが、今回の病院での騒動も「お騒がせ女優」としての黒歴史を積み重ねてしまった形だ。


■医療関係者の驚き


医療関係者の間でも「広末逮捕」は大いに話題になった。


救急外来で病院職員に「足で蹴る」「腕を引っかく」「暴言を吐く」のような暴力行為をする患者は少なくはない。「噛まれる」「唾を吐かれる」「殴られてアザができる」レベルの暴行も珍しくはないが、それをマスコミが報じることはまずない。ところが、今回は警察が介入して逮捕にいたった。


同じ「サービス業」でも客室乗務員の場合には、コロナ禍の2020年に航空機内でマスク着用を拒否して大声で威圧し、乗務員の腕を掴んだ男が逮捕され「懲役2年、執行猶予4年」の判決を受けた。2024年にも機内で飲酒し騒いだ挙句に客室乗務員の腕を手の甲で殴った男性が逮捕されている。


一般社会ならば問題になるレベルの暴力や暴言でも、病院内で患者が相手だと「受け止めるのも仕事のうち」「殴られるのはむしろ患者さんに寄り添っていなかったこちらの問題」と、病院職員の配慮不足として処理されることが多い。ゆえに、「広末逮捕」というより「救急外来で暴れる患者を逮捕」という意味で驚かれたのだ。


医療関係者のSNSでは「看護師も患者に蹴られたら警察呼んでいいんだな」といった驚きの声が少なくない。「有名人だから見せしめにされたのでは」という見方もあるが、「自称・広末涼子」のような当初の報道から考えると、逮捕時には警察は有名女優であることは意識せず、純粋に傷害事件として現行犯逮捕したと考えられる。


ただし、本件は救急外来における迷惑度としては高いレベルでない。正直な話、院内にはもっと暴れ回るモンスターがウヨウヨしている。以下に救急外来を悩ます患者たち3タイプをご紹介したい。これは筆者の個人的な考えだが、医療関係者の中では暗黙の了解となっていることを初めにお断りしておきたい。


■患者モンスター1:生活保護受給者


生活保護受給者は医療費の自己負担がなく、入院費も高額医薬品代も無料だ。その結果、「いつでも無料で立ち寄ることのできる別宅」と勘違いしているのではないかと思うような行動をしばしば見かける。


例えば、夜3時に救急外来にやって来て「眠れないから睡眠薬がほしい」と要求する。叩き起こされた当直医は「今でないとダメすか?」と本音を叫びたくなるのをぐっとこらえて対応することになる。


「ナースは○○ちゃんを呼んで」と馴染みの看護師を夜の飲食店の店員のように指名する人や、「オレのおかげで儲かったでしょ」となぜか太客気取りの人も。治療費も投薬代もすべて税金だが、こうした人々からは感謝の心はあまり感じられない。


一部には、医療とは全く関係ない「自宅のクーラーが壊れた」「パチンコで生活保護費をスってしまったので食糧がない」などの理由で入院を希望するとんでもないケースも実際にある。丁重にお断りをしても、暴言や暴力に至ることも珍しくない。


一般社会人なら「傷害事件で逮捕されたら仕事をクビになって収入が途絶える」というリスクが暴力の抑止力になるが、それがないとやりたい放題だ。生活保護費は犯罪歴に関係なく支給されるせいか、飲酒運転など犯罪への抵抗感が乏しいケースも多い。


■患者モンスター2:在日・訪日外国人


近年の外国人旅行者・労働者の増加に伴い、救急外来を受診する外国人は増えている。外国人の診察には言葉や文化の壁があり、特に、日本語も英語も話せない外国人とのコミュニケーションには極めて大きな労力や時間をさかなければならない。スマホアプリや身振り手振りで対応するが、一朝一夕にはいかない。


保険医療において病院が請求できる金額は日本人と変わらない。近年は、インターネットで検索すると、「救急車を呼んでもタダ」「派手に痛がると優先的に診てもらえる」のように、日本の医療の仕組みを悪用しようとする情報を外国人の中で共有する動きもあるようだ。


写真=iStock.com/Jamie
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jamie

また「他人の保険証を借用」しているのではないかと思われるケースもある。レントゲン写真が前回と全く違う、血液型が2年前に入院した時と違う。どう見ても40代以上なのに、保険証は23歳ということもある。マイナンバーカードでも顔認証ではなくパスワード認証が選択可能なので、貸し借りを完全にブロックするのは困難なのだ。


それでも、昼間の外来なら人手も多く、不正利用が疑われる外国人は事務員でブロックすることも可能だが、夜間救急の最小限のスタッフでの対応は困難で、患者に騒がれるとブロックが甘くなり不正利用をスルーしてしまうこともあるのが実情だ。そのため、保険証について追求されたくない外国人は意図的に夜間の救急外来で来院するとの指摘もある。


2023年7月には、トルコ系外国人同士の刃傷事件で男性が救急外来に搬送されたが、騒ぎを聞きつけたトルコ系外国人約100人が病院に集結して大騒ぎし、病院の救急業務が一時ストップして、機動隊が出動する騒ぎとなっている。


ほとんどの在日・訪日外国人は病院を正規の形で利用しているが、近年は残念ながらそうした案件が増えているというのが医療関係者の共通認識だ。


■患者モンスター3:認知症高齢者


少子高齢化を反映して救急外来を利用する高齢者も増えている。肌感覚だが、現在の救急外来患者の過半数は75歳以上の後期高齢者という印象だ。そして病院にやっては来たが、「今日はどうしましたか?」と訊くと「さあ、なんだったかいの」と目的を忘れてしまうケースが多い。


同様に認知症の症状と思われるのが「テレビのリモコンがなくなった」と救急車を呼ぶケースだ。認知症でなくても「とにかく話し相手がほしい」というおばあちゃん、病院職員の不手際を見つけては指摘して「とにかく説教したい」おじいちゃんなど、こんな言い方をしたくないが、命を預かる病院の仕事の足手まといになってしまうことが多々ある。


極めつけは近頃とみに病院を悩ませている深刻な事象だ。驚くことに「病院待合室に認知症高齢者を捨てる」ケースがあるのだ。認知症で自宅独居が困難になった高齢者を家族などが病院待合室に連れてきて、家族は逃げて連絡を断つという確信犯的な行為である。


会話が困難なレベルの認知症患者から家族の連絡先を聞き出すことは困難で、電話番号などを覚えていても相手が電話に出なければ病院側はそれ以上の追及はできない。強制的に院外に追い出すのも倫理的に問題があり、捨てる側からすれば「赤ちゃんポスト」ならぬ「姥捨てポスト」とでもいうべき状態だ。


写真=iStock.com/hxdbzxy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hxdbzxy

上記3タイプのいずれの患者も医療以外の部分で病院を悩ませているが、国や自治体が有用な対策をほとんど取っていない。そうした中で起きた今回の「広末事件」では「迷惑患者は警察を呼んで逮捕してもらう」という解決策が周知された。日夜、患者からのハラスメントに悩む病院職員の仕事環境改善のきっかけとなってくれればと思うのは筆者だけではあるまい。


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筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)
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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

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