豊田章男会長はこの"難問"をどう解くのか…「日産を救えるのはトヨタしかいない」の声が日増しに高まるワケ【2025年3月BEST5】

2025年4月18日(金)18時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/agafapaperiapunta


2025年3月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。ビジネス部門の第4位は——。


▼第1位 フジテレビの「スポンサー離れ」よりずっと深刻…通販番組を1日10時間たれ流す"民放BS"の悲惨すぎる現状
▼第2位 「メイドインジャパンの敗北」を繰り返している…「売れる車がないのにプライドは高い」日産に残された最終手段
▼第3位 2000円→1.8万円に値上げしたら大繁盛…外国人観光客に"お金を落とさせる"福岡の藍染工房の絶妙なアイデア
▼第4位 豊田章男会長はこの"難問"をどう解くのか…「日産を救えるのはトヨタしかいない」の声が日増しに高まるワケ
▼第5位 「フードコートは安くて便利だけど満足度は低い」の常識を壊した…大阪に爆誕した日本初上陸の「飲食街」の斬新


■「内田社長退任」が再交渉の条件か


足元で、ホンダと日産の経営統合をめぐる事態はさまざまな方向に発展しそうな雲行きだ。一部の報道では、ホンダは日産の内田誠社長が退任すれば交渉を再開する意向という。また、別のメディアでは、2月下旬、日産の買収を狙っている台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)は、ホンダ、三菱自動車を含む4社での協業を提案したと報じられた。


写真=iStock.com/agafapaperiapunta
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さらに、政府関係者が米テスラによる日産出資計画を策定との報道も出ている。政府関係者が動いたところに、ホンダと日産の経営統合交渉の重要性が見てとれる。日産の苦境が深刻化し海外企業に買収された場合、わが国の自動車産業の空洞化や雇用に懸念が出ることも考えられる。それは、日本経済全体にとって大きなリスクになるはずだ。


■「純利益98.4%減」日産の厳しい決算


これまで政府は、そうしたリスクにそれなりに準備してきたともいえる。準備の一つは、2024年に経済産業省が公表した「モビリティDX戦略」だ。同戦略は、わが国の自動車産業のさらなる成長にむけて、ソフトウェア分野での企業連携を重視する方針を示している。その方針は、今後の自動車のソフト化をにらんで、有力企業の協力体制を強化することを狙った動きだ。


足許、電動化、車載ソフトウェア開発競争の激化により、米・欧・中でも自動車業界の再編観測は高まっている。今度の展開次第で、トヨタ陣営にホンダと日産が接近する可能性もあるかもしれない。ホンダと日産の統合協議は、世界的な自動車産業の再編の動きの一つと考えられる。これから色々なことが起きるはずだ。


経営統合協議が破談になった2月13日、ホンダと日産両社は2024年4〜12月期の決算を発表した。ホンダは二輪車の販売台数を上方修正したが、主に中国事業の悪化で四輪車は下方修正した。


日産の業況は一段と厳しい。純利益は前年同期比98.4%減だった。通期の純利益は800億円の赤字に下方修正した。日産は追加リストラ策を公表し、2026年度までに固定費で3000億円以上、変動費で1000億円を削減するとしている。


■ホンダ社長「残念だ」の本音と危機感


ホンダも日産も、事業規模を拡大してキャッシュフローを増やし、これから電動化やソフトウェア開発に投資する必要がある。経営統合がいったん破談になった後、ホンダの三部敏宏社長が「残念だ」と述べたのは、今回の統合がホンダの競争力強化にそれなりの効果をもたらすことが期待されたからだろう。


恐らく、違う交渉の仕方があったはずだが、実際の交渉は決裂した。近年、ホンダの提携戦略は難航してきた。EVシフト加速を狙ったGMとの協業は失敗した。四輪車事業も伸び悩み気味だ。ホンダ経営陣にとって、自力で脱エンジン、“ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)”開発に対応するのは難しいとの危機感があるのだろう。その危機感もあり、ホンダは日産との経営統合を急いだとみられる。


日産の経営陣には、リーマンショック後に入社した人物が多い。日産の本当のポテンシャルを理解し、厳しい経営環境の中何をなすべきかを判断するには相応の時間がかかる。その時間的余裕が十分にあったかは、必ずしも明確ではないだろう。


■日産のDNAを持つホンハイが「4社協業」提案か


その状況下、日産トップが多様な利害を一つに集約することは難しかったようだ。その結果、昨年12月の経営統合発表時に出た“対等”という言葉が独り歩きし、日産は時価総額で4〜5倍の差があるホンダの要請を受け入れられなかった。


ホンダが追加リストラを渋る日産に子会社化を提案すると、日産側の態度は硬化し、交渉は決裂したとみられる。日産トップの交代を条件にホンダが交渉を再開する可能性は残るが、相互不信感の解消は容易ではないはずだ。


台湾のホンハイは、日産、ホンダ、三菱自動車の4社協業を提案したとみられる。2020年、ホンハイは台湾自動車メーカーの“裕隆集団(ユーロン・グループ)”と提携した。1950年代、ユーロンは日産の技術供与を受けて成長した。ホンハイの自動車事業の基礎は日産に由来するといえる。


ユーロンとの協業を基礎に、ホンハイは“MIH EVオープン・プラットフォーム”[MIH、EVの国際コンソーシアム(共同事業)]を発表した。当時、アップルが開発を進めた“アップルカー”の製造を、MIHが担うとの期待は高まった。その結果、2021年3月時点で参画企業は1000社を超えた。


■中国でもEV業界再編が起きている


その後、アップルは自動車分野から撤退し、MIHの成長期待も低下した。現在、世界のスマホ需要が飽和する中、ホンハイは新しい収益源を見つける必要がある。その一策として、ホンハイはユーロンと親和性の高い日産に加えホンダ、三菱自動車から製造技術を連携し、電動車やSDV分野で打倒テスラ・BYDの戦略を目指しているとみられる。


ホンハイの動きは、世界の自動車業界の再編加速のきっかけになりうる。足許、米欧主要自動車メーカーもEVシフト鈍化、中国事業の収益減に直面している。一方、今年2月、中国では国有大手・重慶長安汽車と東風汽車集団による経営統合の可能性が明らかになった。民営のBYDやジーリーも、海外企業との協業体制を拡充中だ。


中国勢の追い上げに対応するため、今後、主要先進国でも自動車分野での提携や買収は増えるだろう。2月中旬、ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は、日産に経営再建の加速を求めた。ルノーは日産株の保有による損失を懸念している。ルノーが日産の了解を取り付けたうえで、他の企業に保有株を売却する可能性は高まっているだろう。


独フォルクスワーゲンが、リストラで得た資金で米EV新興のリビアンなどを買収することも予想される。トランプ政権下の米国では、GMが提携相手の韓国、現代自動車への出資、買収を目指すようなことが起きるかもしれない。


写真=iStock.com/Wengen Ling
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■「米テスラの日産出資計画」が報じられたワケ


2月21日、英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、政府関係者が米テスラの日産出資計画を策定と報じた。そこでの重要なポイントは、政府に近い人物が動いたことだろう。政府は、ホンハイに自動車関連の製造技術が流出すべきではないとみているようだ。その危機感はかなり高いとみられる。


テスラは、急速充電システムで米国規格の策定を主導した。また同社は、車載用ソフトウェアの無線アップデートでも重要な技術を持つ。リストラを重視するマスク氏の経営手法はわが国企業に合うか不安はあるものの、経営意思決定に重大な影響がない範囲で他国企業と日産が連携する意味はそれなりにあるだろう。


今回の報道以前にも、政府は日産の経営危機への備えを進めてきた。2020年6月、日産は、改正外為法に基づき海外投資家からの出資について、事前審査の対象となる企業に定められた。ホンハイが日産買収を狙ったとしても、実現のハードルは高いと考えられる。


また、2024年5月、トヨタ、ホンダ、日産はソフトウェア開発で連携し自前主義を脱すると報じられた。同月、経済産業省は、モビリティDX戦略を公表し、自動車企業の連携重視方針を打ち出した。


■トヨタが「日産、ホンダ、三菱自」を救済?


今後、政府がトヨタ、日産、ホンダ、三菱自動車に、緩やかな連携を促す可能性は高いだろう。そこに、テスラや米国企業の関与もあるかもしれない。その上で、トヨタを中心とする電動車、バッテリー生産、SDV開発体制構築が進む可能性はある。


エヌビディアやNTTとも連携する、トヨタと日産、さらにはホンダの連携強化は、雇用の維持、先端技術への習熟、研究開発の加速に重要だ。やや長めの目線で考えると、政府の後押しで、ホンダ・日産がトヨタ陣営に接近し、自動車のオールジャパン体制が実現するかもしれない。


自動車のソフトウェア化が加速する中、わが国の自動車メーカーはソフトウェア開発が苦手と言われてきた。課題克服に、業界全体のソフトウェア開発を集約する意義は高い。政府は、そうした展開を見越してモビリティDX戦略に込めたと考えられる。


経済成長を牽引するわが国の自動車関連の製造技術が海外に流出することは好ましくない。日産・ホンダの経営統合交渉の先行きは、関連企業にとどまらずわが国の国力に無視できない影響を与えるはずだ。


(初公開日:2025年3月3日)


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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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