なぜデンマーク人は「報連相」をしないのか…国際競争力トップの国民が代わりに「3分で」やっていること
2025年4月22日(火)7時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liudmila Chernetska
※本稿は、針貝有佳『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
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■「3分の雑談」が人生を変える
「じゃあ、コーヒーマシンのところで!」
北欧デンマークの職場で毎日のように耳にする定番フレーズだ。
仕事上で何か引っかかっていることを同僚に伝えると、「じゃあ、コーヒーマシンのところで!」。
そう言ってコーヒー片手に話しはじめたと思えば、あっという間に抱えていた問題が氷解し、自分のデスクに戻る。
その時間、わずかに3分。
メールを何往復させるよりも、わざわざ時間を決めて打ち合わせをするよりも、数分間、対面でパパッと話せば解決してしまう。
形式ばらずカジュアルに話すからこそ、ちょっとした一言から解決策が見つかることもあるし、現状の課題や困難、障がいを乗り越える「突破口」になることも。
3分サクッと立ち話をするだけで、仕事がスムーズに回る。自分のやりたい仕事ができるようになる。楽しく働けて、仕事の成果にもつながっていく。そして人生までもが大きく動き出していく——デンマーク人の雑談にはそんな力がある。
あなたも、そんな感覚を味わってみたくはないだろうか。
■ビジネス効率性1位の国は「ほうれんそう」すらしない
国際競争力がトップクラスで、「ビジネス効率性」5年連続1位のデンマーク人は、成果を最大化させる「コミュニケーション力」を持っている。
デンマーク人は飲み会を開く習慣がない。勤務時間外に、仕事関係の人との「付き合い」もしない。
職場でコミュニケーションが取れているから、それで十分なのだ。
では、デンマーク人は勤務時間中に長時間にわたる会議を開催し、頻繁にメールやチャットで連絡を取り合っているのかというと、まったくそんなことはない。
むしろ、会議は最低限、メールやチャットのやり取りも最低限だ。日本ではビジネスの基本ともいわれる、こまめな「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)すらしない。
いったいどうなっているのか。
どうやら、成果を最大化させるコミュニケーションには「コツ」があるようだ。
■コツは「ラクで軽いコミュニケーション」
ちょっと力を加えるだけで重いものを持ち上げられる「テコの原理」のように、短時間の会話ですべてをうまく活かせるためのコミュニケーションの「コツ」がある。そして、そのコツさえ身につけてしまえば、あとは全部うまくいく。
デンマークは人口が千葉県よりも少ない約600万人でありながら、製薬会社ノボノルディスク社(Novo Nordisk)、レゴブロックのレゴ社(LEGO)、風力発電のベスタス社(Vestas)、海運業のマースク社(Maersk)など、グローバルに活躍するユニークな企業を輩出している。
世界有数のアイデア大国とも言える。
本書を執筆するために約40人のビジネスパーソンに取材をして気がついたことがある。
うまくいくためのコミュニケーションは、難しいことでも、大変なことでもない。むしろ、本当に大きな成果につながっていくのは、肩の力が抜けたラクで軽いコミュニケーションなのだ。
■「仕事をスムーズにするためのメール」が仕事を妨害する
ここで一つ質問をしたい。
今、あなたの仕事はうまくいっているだろうか。
あなたが属している組織はうまくいっているだろうか。
家庭では? PTAでは? 趣味のクラブでは? 地域では? ご近所さんとのコミュニケーションは、うまくいっているだろうか。
かつての私は朝から晩まで人間関係の調整に奔走(ほんそう)し、永遠に続くメールやチャットでのやり取りに対応し、あまり意味のない長時間にわたる会議に出席し、憂(う)さ晴(ば)らしのための食事や飲み会に参加していた。
そして、こういったコミュニケーションは人間関係を円滑にするためには必要で、大事なことなのだと思っていた。
だが、本当にそんなことをする必要があったのだろうか。
会議や飲み会に参加するのは、それはそれで楽しくもあるのだが、自分が参加する「必要」はあるのだろうか。時間をかけて丁寧にあのメールに返信した「意味」はどのくらいあったのだろうか。
後になってそう思うこともあったが、他人の目が気になり、何かあったらすぐに反応しなくては、と四六時中、気が張り詰めていた。また、会議や飲み会を欠席するためには「正当な理由」を伝えなくてはならないと感じて、断る理由を探すのに頭を悩ませていた。
さらに、困ったことに、ある「疑惑」が頭をよぎっていた。けっこう致命的な疑惑である。
自分は本当に「仕事」をしているのだろうか。
写真=iStock.com/tolgart
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■仕事よりも人間関係に時間を割いていないか
認めたくはなかったが、自分が膨大な時間とエネルギーを割(さ)いているのは、仕事そのものよりも、仕事をスムーズに進めるための「人間関係」なのではないか。本来すべき「仕事」は何だっけ。
逆に、コミュニケーション不足を感じることもある。
ひとりひとりが目の前の仕事に追われ、メンバー同士が対面でちゃんと向き合って話をする機会がほとんどない。人間関係がギクシャクして、話しにくい空気が流れている。いまいち、同じ方向を向いて一緒に協力して仕事に取り組めているという一体感が感じられない。良い人間関係があれば、仕事ももっと捗(はかど)りそうなのだが。
■本当に「やりたいこと」ができているか
チームが良くても、横槍(よこやり)が入ることもある。
針貝有佳『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』(PHPビジネス新書)
チームで温めていた面白そうな企画が、「上の人」の一言であっという間にひっくり返される。今まで熱く語り合っていたアイデア、積み上げてきた努力が水の泡になる。
だが、反対意見を述べると、人間関係にヒビが入り、自分の立場も危うくなってしまう。だから、そのまま泣き寝入りするしかない。
頑張ってあちこち根回しをすれば、もしかしたらうまくいくかもしれないが、膨大なエネルギーと時間をかけて細かい根回しをしてまで、本当にやるべきことなのだろうか。
そんな現実を前にして、あなたは「やりたいこと」を実現するなんて大変すぎてムリだ、と諦めてしまってはいないだろうか。
上から指示されるままに仕事をこなした方がラクで効率がいい。自分の意見など言わないで、空気を読んでやり過ごした方が得だ。そんなふうに感じる人が増えれば増えるほど、みんなが保守的になって「事なかれ主義」が横行する。いつしか組織の成長は止まり、閉塞感が漂っていく。
もう一度、聞こう。
あなたは今、本当にすべき「仕事」ができているだろうか。「やりたいこと」をやれているだろうか。あなたの会社は、本当に成し遂げるべき事業に向かって、突き進めているだろうか。
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針貝 有佳(はりかい・ゆか)
デンマーク文化研究家
東京・高円寺生まれ。早稲田大学大学院・社会科学研究科でデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」について研究し、修士号取得。同大学・第二文学部卒。2009年12月に北欧のデンマークへ移住して、デンマーク情報の発信をスタート。首都コペンハーゲンに5年暮らした後、現在はコペンハーゲン郊外のロスキレ在住。著書に『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』。
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(デンマーク文化研究家 針貝 有佳)