週刊誌の一流大合格速報は眉唾…入学しやすく合格実績高い「お得校」選びで最も着目すべき「学校公表の数字」
2025年4月22日(火)10時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ranmaru_
※本稿は、矢野耕平『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
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■わが子に「合う」学校など存在しない!?
「合う学校」を探すのではない
わが子に合う学校など実は存在しません。これは職業だって同じ。「自分にとっての天職」など、自分探しの旅をしたところで見つかりやしません。ある職業に就いて、その仕事に懸命に打ち込み、五年、一〇年……もう少しかかるかもしれませんが、徐々にその仕事が「板に付く」。つまり、その人にとって「天職」になるのだと考えます。
「わが子に合う学校」が最初から用意されているわけはなく、先述したように「自分にとって良い学校」とは在校生である当人が自ら作り上げるものです。
そもそも、良い学校・悪い学校なんてものすらありません。偏差値の違いだってあまり関係ないと考えます。万人が満足する学校もなければ、万人に恨まれるような学校もない。どんな学校だって、その学校を誇りに思える在校生・卒業生はたくさんいますし、一方、その学校で過ごした六年間を後悔し、二度と立ち寄りたくない場所になってしまう人だっています。
保護者だってわが子が母校に深い愛着を抱いてほしいと願うことでしょう。そのために、保護者ができることは何でしょうか。
これから志望校を選定するうえで、受験する可能性がほんの少しでもあれば、否定的な見解を軽々しくわが子に言うべきではないと考えます。わが子が小学校六年生になって第一志望校、第二志望校、第三志望校……と受験校のパターンを決めるタイミングであればなおさらそうです
「はじめに」で第一志望校に進学できる子はそうでない子より圧倒的に少数です。わが子が第三志望校、場合によっては第四、第五志望校に進学することだって十分に考えられます。もし進学先に対して親が否定的な言い方、見方をしていると、そういう思いは必ず当人に「呪い」のことばとして伝わってしまいます。だからこそ、受験する学校すべてがあなたにぴったりだと心からわが子に言えることが大切です。
そういう親の後押しを受けてこそ、当人がその学校の色に染まりやすくなるとわたしは考えます。
■わが子が何をやりたいかが学校選びの鍵
ここで二児の中学受験を経験したある父親のケースを紹介しましょう。
ある年の春に中学校二年生になった息子は小学生のころ、野球に打ち込んでいました。高校三年生になる姉が中学受験を経験し、女子校に通っていましたから、息子は自分も中学受験をして中高一貫校に通いたいと早い段階で考えていたようです。息子は高校受験に「分断」されることなく野球をしたいと願っていました。本人の希望は校内に野球場があり、かつ、リトルシニアリーグ(中学生の硬式野球リーグ)からの推薦で猛者が集まるような強豪校は避けたいということでした。「夢はプロ野球選手!」などと口にすることは一度もなく、冷静に、客観的に自分の実力を俯瞰するような性格なのですね。
息子が小学校三年生のときに、父親は息子と、息子の所属する少年野球チームの子どもたち二名を伴って、ある男子校の見学に出かけました。その学校は広い敷地を有していて、野球専用グラウンドが完備されているのです。学校の先生の案内もあって、校内はもちろん野球場を見学させてもらい、さらにブルペン(投手の練習スペース)に入れてもらい、息子と友人二名は大興奮。この日、息子は「俺、絶対にこの学校に行く!」と宣言しました。彼にとっては最初に見学した学校だったのです。
結果として、息子はこの学校に合格、進学しました。そして、もちろん野球部に所属しています。ちなみに、一緒に連れていった二名のうち一名の子(息子より二つ年上)もこの学校に進学しました。
驚いたのは、息子は小学校五年生の途中、「あの学校で野球をやりたいから、いまは我慢して少年野球チームをやめて、勉強に専念する」と口にしたことです。父親はもう少し長く少年野球を続けて良いのではないかと考えていましたが、本人の意志は固い様子。
あくまでも一例ではありますが、本人が中高時代に何に取り組みたいかを重要視して学校選びをすると、結果として「わが子に適した学校」を見つけやすくなるのかもしれません。
■大学合格実績偏重に要注意!
どうしても注視してしまう「大学合格実績」
書店に陳列されている中学入試案内や学校のパンフレットや学校説明会で配布される各種資料……。その学校の「出口」である「大学合格実績」にどうしても目が向いてしまい、それを学校の良し悪しの基準にするという保護者がいらっしゃることでしょう。
もちろん、その学校がいわゆる一流大学へ何名輩出しているのかは大切な尺度の一つであることには違いありません。わたしはとある難関進学校の卒業生からこんな話を耳にしたことがあります。
「学校の大学合格実績は重要です。だって、一流大学に進学するのが当然という空気があって、みんなごく自然にハードな勉強をこなしていますし、何といっても先輩たちの辿った道をなぞれば良い。そういうルートがそこかしこに示されている環境は良かったです」
確かにそうかもしれません。たとえば、旧帝大に毎年数十名、数百名の合格実績を有する学校では、それらの大学へ行くための「経験値」が豊富です。この「経験値」に基づいて、教員はどのような指導をすれば在校生たちが高みを目指していけるのかを感覚的にわかっているのですね。
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio
しかし、「大学合格実績」という指標は「絶対的に信用のおけるもの」だとわたしは考えていません。これは塾の合格実績同様に、「他所(よそ)様」の結果に過ぎず、わが子がその中に入れるという保証はないからです。
加えて、学校サイドが打ち出した数値には裏がないかどうか慎重に見ることが求められます。週刊誌などでも卒業生数と一流大学への合格者数に基づいてランク付けをおこない、「お得な学校」などと打ち出すことがあります。わたしはこういうランキングは正直あまり頼りにならないと考えています。それは一体どういうことでしょうか。
■注目すべきは大学「進学実数」
学校側が打ち出している、各種資料に掲載されている「大学合格者数」が「のべ合格者数」であるのか「進学者実数」であるのかをまずは見極めましょう。「のべ合格者数」は、たとえば優秀な卒業生五名が早稲田大学・慶應義塾大学にそれぞれ六学部合格したとした場合に、「早慶三〇名合格!」などと謳うことです。
矢野耕平『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)
学校によってはこの手法を用い合格実績を「かさ上げ」している場合がよくあるのです。しかも、各々打ち込みたい学問を見出せず、とりあえずさまざまな学部を受ける、あるいは受けさせるというのもどうかと思います。
そう考えると、信用できる数値は「進学者実数」です。つまり、どの大学に何名が進学したのかを表したものです。これはごまかせないものです。こういう「進学者実数」を公表する学校は近年増えてきたように感じていますし、これをしっかりと数値化して外に打ち出す学校は「大学進学」という側面において評価できるところだと言えるでしょう。
わたしは中学受験生の保護者によくこんな話をしています。
「わが子がその学校でトップレベルになれるとは考えず、仮に真ん中くらいの成績なら、どのレベルの大学に進学しているのかを『進学者実数』から推し量りましょう」
これは進学者実数を公表している学校でないと推測できないものですが、わが子の進路を現実的に考えるうえでは有用な見方でしょう。話を戻しますが、あれやこれやで合格者数をよく見せようとする学校は依然として見られます。いわゆる中堅どころの進学校はそういう傾向にあるところが多いように感じています。
先ほど申し上げましたが、少数の優秀生に同じ一流大学に何学部も受験するよう指示を出すところもありますし、理系志望なのにもかかわらず、それだと「ブランドのある大学」に合格できないと判断し、無理やり文系に転じるよう指導するところもあると聞いています。
また、「特進クラス」のようなところに入ると、本人の意思に関係なく、国公立大学受験を義務付けられることもあります。地方の特定の公立大学の合格者数がやたらと膨らんでいるようなところは要注意です。
最後に、その学校から進学した大学の学部が公表されているとより良いですよね。文系学部に強いのか、あるいは、理系学部か……。芸術系学部にはいかほど進学していて、医学部医学科はどうなのか……。こういう細かなところに目を向けると、その学校の進路指導方針や教育内容が透けて見えてくると考えます。
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矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。
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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)