「大きくないと気持ちよくない」は本当なのか…男子校の生徒たちが一様に胸をなでおろす助産師の授業
2025年4月26日(土)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nuttawan Jayawan
※本稿は、斉藤章佳・櫻井裕子『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/Nuttawan Jayawan
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■私たちのセックスはAVに影響を受けている
【櫻井】私たちのセックスが、AVにどれだけ影響を受けているかを示す一例としては、オーラルセックスが分かりやすいかもしれません。
少し前のデータですが、日本家族計画協会会長の北村邦夫先生が、世代ごとにオーラルセックスをするかどうか調査されました。その結果、ポイントが全然違うのです(図表1)。
斉藤章佳・櫻井裕子『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)より
40〜20代まで10歳年齢が下がるごとに、「毎回している」の割合が10%ずつ上がっていきます。私はこれはAVの影響ではないかと考えています。
また、2017年の「ジャパン・セックスサーベイ」によると、セックスについて初めて知った方法で、「インターネット情報」と回答している割合が多く、年代が上になるほど、「雑誌・小説」と回答しています(図表2)。インターネット情報とは、ほぼ無料で視聴できるアダルトコンテンツであると思われます。
斉藤章佳・櫻井裕子『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)より
【斉藤】かなりの割合で、我々の性行為はAVから影響を受けているということですね。一時期は、「顔射=顔面射精」っていうジャンルが流行しました。これもユーザー層(主に男性)にニーズがあると思って、最初に試みた仕掛け人がいるわけです。今自分が夢中になっているアダルトコンテンツは、もしかしたら、そのようなプロセスの中でつくりあげられた条件付けの中で性的欲求を刺激され、知らないうちにコントロールされているということに自覚的になっておきたいですね。
【櫻井】そうですね。操られているんですよね。その証拠に、パトロールしているわけではありませんが、「顔射」というのは、一時期よりも聞かなくなりました(笑)。流行りもあれば、廃りもあるわけです、しかしこれは誰にとってもよくない気がします。AV業界の人も、新しいジャンルを開拓し続けるのはしんどいでしょうし。
【斉藤】AVはユーザーのニーズをリサーチしつくして商業的につくられている、つまり、幻想なんだということを学ぶことができる性教育が必須だと思います。
■AVが助長する「男根コンプレックス」
【櫻井】斉藤さんたちと一緒に行っている性犯罪再犯防止プログラムで、男根コンプレックスについて話し合った回がありましたが、ペニスのサイズに自信がないとか、不安だという意見が出て、めちゃめちゃ盛り上がりました。男性器に囚われている感じがすごくします。
【斉藤】男性の中には、異性からモテるためには、性的に喜ばせるためには、ペニスが大きいほうがいいと思いこんでいる人たちが多いです。なぜそこまで男根に過集中するのか、不思議なくらい囚われていますね。
【櫻井】プログラムの参加者の中に、男根コンプレックスについて熱く語る方もいらっしゃいましたね。
【斉藤】そうでしたね。
【櫻井】腟の中にペニスを入れたときに、大きいほうがいいと思い込んでいる人は多いです。しかし、女性のセックスの気持ちよさはペニスの大きさとはそれほど関係がないです。その説明に「何だ、俺でも大丈夫だったのか」などと呟きが聞こえることもありました。印象的な場面でした。
【斉藤】専門家から事実を教わって、そのことで認識が変化し男根コンプレックスから解放されて楽になったのかもしれません。
【櫻井】ペニスの大きさについて、中学生、高校生からもよく質問されます。大きいほうがよいとの思い込みは、世代を問わず多いんです。これもやはりAVの負の影響だと思います。AV俳優って、男性器がやたらと大きい人が多いですから。それと、女性も胸が大きい人が多い。
【斉藤】多分ほとんどの俳優は平均よりも大きいのではないでしょうか。男性器の場合、大きいほうが、モザイクがかかっているときに、絵として成立しやすいでしょうから。もしかしたら私が知らないだけで、ペニスのサイズが小さい男性のジャンルもあるのかもしれませんが。
写真=iStock.com/Biserka Stojanovic
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■「大きさ」と「モテ」の大きな誤解
【櫻井】ペニスの大きさについて質問や相談があった場合、女性の腟の構造と性質について説明をします。
【斉藤】プログラムでも櫻井さんから女性器の話をしてもらいましたよね。
【櫻井】女性器の大きさ、構造と性質を説明しました。伝えたのは、こんなことです。
① 柔らかく柔軟でやや鈍感でいられる。
② 一般的なイメージより奥行きがなく、おおむね7cm=中指くらい。
③ 伸縮できる。
腟は、対象に合わせて伸縮できる包容力のある部位です。腟から子宮にかけては、ものすごく柔軟だという話をしました。
個人差はありますが、一般的に腟の奥行は7センチぐらいとされています。長さとしては、中指ぐらいです。ペニスが勃起して7センチ=中指ぐらいあったら大抵満たされるわけです。この説明をしたとき、プログラムでは、「めちゃめちゃほっとした」「安心した」という空気が流れました。
中学校・高校でも同じ空気になります。
ペニスが大きくないとモテないと思い込んでいる子ども、大人もいます。「ペニスの大きさとモテは無関係。モテる人は服脱ぐ前からモテてる」と言うと、全体が深い納得感に包まれます。
■女性器の構造を知らないが故の誤解
【斉藤】プログラムでは参加者全員がすごい食いついて前のめりで聞いてました。「俺でも大丈夫だったのか」との発言を聞いたのも、確かこの話を聞いたときでした。
【櫻井】男性不妊の治療をされている泌尿器科医師は、勃起して5センチあれば生殖能力には問題ないとおっしゃってます。それよりも小さかったら、男性ホルモンが足りないなどの心配があるので受診が必要ですが。
あるとき男子校でこの話をしたら、感想文の半分以上が「安心しました」「ありがとうございます」「今日学校に来てよかったです」「何だ、7センチでよかったのか」というものでした。
彼らは今までとても悩んでいたんだろうと思います。誰にも聞けず、ずっと抱え込んでたのだとしたら気の毒でもあります。安心できてよかったです。
【斉藤】男根コンプレックスの裏側には、女性の性器の構造を正確に知らないことによる不安があるということですね。男性自身を男根コンプレックスから解放するために、男性器とともに、女性器についても詳しく学ぶ機会があるといいですね。
【櫻井】そうですね。女性器の構造は、知っておいてほしいと思います。
斉藤章佳・櫻井裕子『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)より
■「セックス=挿入」という誤解
【櫻井】それと、「ペニスは大きいほどよい」という思い込みは、「セックス=腟にペニスを挿入する行為」であるという誤解とセットになっています。挿入が全てではない、挿入を求めない人もいます。AVだと挿入のみをクローズアップするのでこういった誤解が生じるのかも知れません。
【斉藤】挿入シーンはアップで、これでもかというぐらいしょっちゅう出てきます。
【櫻井】それで、「大きい」とか「すごい」とか、挿入された側が喜ぶ演技があるので、誤学習してしまいます。
【斉藤】そういったセリフをAV女優さんに言わせますからね。例えば割礼は、美容整形業界が戦略的に捏造して広めた事実は今やよく知られるようになってきました。ペニスが大きいほうが、セックスのときに女性を喜ばせることができるというのも、AV業界が同じように戦略的に広めたものじゃないかと疑っています。
【櫻井】しかも、深刻なのは、AVの影響で大きくないと気持ちよくないと思い込んでるのは、男子だけじゃなくて、女子にもいるということです。
■女子もAVの影響を受けている
【櫻井】ある学校で、講演が終わった後に数名の女子高校生がおしゃべりにきてくれたことがありました。
そこでパートナーである彼氏(以下「彼」)のペニスサイズについての話になりました。「うちの彼ペニスがちっちゃくって、なんかいまいち満足できないんだよね」と一人の子が言ったんです。そしたら、「本当あいつ、ちっちゃいよね(笑)」と、女子同士で、なぜかペニスサイズ情報を共有してるんです。それも謎でしたが、彼のペニスが小さいから満足できないというのは、本当なのだろうかと。
「満足度が決まるのって、挿入中?」と聞くと「挿入中」だと答えるのですが、本当にそうかは疑問です。
【斉藤】AVによる思い込みでしょうね。
【櫻井】はい。そういった間違った思い込みや刷り込みがあるのと、あとは仲間同士で強化された歪みのようなものを感じました。
「実際彼とのセックスは気持ちよくない」というのは「挿入以前の問題なんじゃないかな」と、少しずつ紐解いていって、初めて彼女たちは根底にあるものに気が付き納得しました。
【斉藤】大事ですね。きっと女子も刷り込まれています。櫻井さんには、その誤解を解く「布教活動」もこれからずっとしていってほしいです。
■「気持ちよくないのは自分のせい」と思い込んでしまう女子
【櫻井】あと、AVでは、女性をモノのように扱う映像が多いですが、それを見た女子が、モノのように扱われても相手の要求を受け入れなければいけない、ああでなければいけないと思い込んでいる。やたらと喘ぐじゃないですか。
斉藤章佳・櫻井裕子『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)
【斉藤】確かにそうですね。
【櫻井】あんなふうに喘ぐほど気持ちよくならないのは、自分が悪いと思い込んでいる女子もいます。
また別の例なのですが、「彼とセックスして気持ちがよかったことがない。痛いし、しんどい。私は不感症なのかと悩んでいる」と相談に来てくれた子がいました。「相手が下手くそなんじゃない?」と冷たく言い放つと(笑)、「元カノたちは、彼はセックスが上手だって言ってた」と。さらに、彼は「お前が不感症だから、お前とやってもよくない」と言われたと。聞きながら怒りが湧いてきました。
「気持ちよくないのは、お互いの問題。セックスは二人で作り上げるもの、二人で気持ちよくなるようコミュニケーションとらなきゃだよ。一方的にあなたのせいにするの乱暴だと思う」と話しました。彼女は「元カノみんな気持ちいいって言ってるのに、自分だけ気持ちよくないっていうのがコンプレックスだった」と。
これは私の想像ですが、多分、元カノたちには嫉妬もあったのでしょう。彼はセックスになると、とにかくすぐに挿入するそうで、おそらくそれが痛みやしんどさの原因です。決して彼女のせいではないと思います。そして彼もAVの影響で誤ったセックス観を刷り込まれているのかも知れません。その後セックス談義をにぎやかに展開していたら、隣の部屋で待機されてた担当の先生が、「どこまで聞いていいのかって。居心地悪かったです」と(笑)。
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斉藤 章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士
大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模と言われる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、長年にわたってアルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で現在まで2500名以上の性犯罪者の治療に関わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。主な著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(ともに幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)がある。
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櫻井 裕子(さくらい・ゆうこ)
助産師/さくらい助産院開業
自身の妊娠・出産を機に助産師を目指す。大学病院産科や産婦人科医院などでキャリアを積み、現在、地域母子保健事業、看護専門学校非常勤講師を務めると共に、小中高大学生&保護者に性に関する講演を年間100回以上行っている。また、思春期の子どもたちからの対面、電話、DM相談も多数受けている。著書に『10代のための性の世界の歩き方』(時事通信社)、共著に『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)がある。
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(精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤 章佳、助産師/さくらい助産院開業 櫻井 裕子)