「JOLEDの失敗、本当に悔しく申し訳ない」「民間企業がリスク取りグローバルに戦うことを期待」…INCJ・志賀俊之会長兼CEO

2025年5月7日(水)15時30分 読売新聞

インタビューに答えるINCJの志賀俊之氏(東京都港区で)

 INCJ(旧産業革新機構)の志賀俊之会長兼最高経営責任者(CEO)は読売新聞のインタビューに応じた。3月末に終えた活動を振り返り、官民ファンドの役割について考えを述べた。主なやり取りは下記の通り。(聞き手・市川大輔)

リスク大、時間がかかる案件に投資

 ——活動を終え、率直な感想を聞かせてほしい。

 「144件の投資をして、2020年に新規投資をほぼ終え、あとはイグジットとなった。残り5年で90件ぐらいが残っていた。イグジットは大変だった。投資先がいろいろと資本政策を考えている中で、ある程度規律も必要になる」

 「投資先と話をしながら、どこに我々の持ち分を譲渡するのがいいのか。ファンドマネジャーが頑張ってくれ、多くの案件でお礼の連絡を受けた。嬉しく思っている」

 ——イグジットで重視した点を教えてほしい。

 「官民ファンドは、意義を考え、できる限り社会課題の解決を目指す投資をする。当然、民業圧迫論が出る。公的資金を使って民間を押しのけるような投資をしたら迷惑をかける。リスクが大きく、回収までに時間がかかる案件に投資をしてきた」

 「本来ならば事業会社が投資先を引き受けて、成長させてくれるのが望ましい。我々ベンチャーキャピタルが投資し、事業会社にバトンタッチして伴走しながら大きくしていくのが美しい姿だが、苦労した」

 ——バトンタッチで思い出される案件は。

 「事業会社がスタートアップを買収したり、M&Aをしたりする経験はあまり多くない。だから、デューデリジェンスの段階で、従業員が少なく規模が小さなスタートアップに対し、何百億円のM&Aと同じような多くの質問項目を送りつけたりしてしまう」

 「私の勘でいうと、シード、アーリーという成長初期の段階で、案件の8割くらいが失敗する。ミドルぐらいまで来た企業でも5割、IPO直前でも2割は失敗する。スタートアップは100件投資し、1、2件成功すればいいという世界だ。やっていて寂しくなるような話が結構あった」

技術で勝って事業で負ける

 ——最も印象的だった案件は。

 「大きな失敗となったのは、JOLEDだ。残念ながら1390億円を突っ込んで、民事再生になった。世界で初めて有機ELで商品化したソニーとパナソニックが一緒になった。韓国勢と違い、(インクジェットプリンターのように)印刷で有機ELをひっつける技術だった。歩留まりも高く、コストが安かった」

 「能美工場(石川県)に1000億円を投じたが、歩留まりが悪くなり、そうこうしているうちに、有機ELの値段が安くなって、同じモノが液晶でもできるようになってしまった。本当に悔しかった」

 「技術で勝って事業で負ける。日本は、リチウムイオン電池を始め、ノーベル賞を取った技術があるし、液晶もかつてはほとんどが日本製だった。半導体もそうだ。自動車はたまたま勝ち組で生き残ったが、家電やエレクトロニクスはほとんど負けてしまった」

 「ラピダスもそうだが、政府がお金を出さないと、民間はリスクのある事業に入ってこない。事業会社はたくさん負けて懲りている。本当にそれでいいのか。科学やエンジニアリングの世界で、日本に誇れるものはいっぱいあるのに、リスクがあるから投資しない。ものすごく不安だ」

 「JOLEDは、国民の税金を1390億円も使って、民事再生案件となった。本当に申し訳ない。投資したこと、官民ファンドとして取ったリスクとしては正しかったと思う」

 「古巣の自動車産業も負け始めてきている。官民ファンドを去る身としては、やはりもう一度、民間企業がリスクを取って、グローバルに戦えるよう頑張ってほしい。JOLEDは私にとって一番重かった案件だった」

 ——ルネサスエレクトロニクスの投資が成功した理由をどうみるか。

 「前CEOだった能見公一さんが決めた案件だ。ルネサスは、東日本大震災で被害を受け、大変苦労していた。那珂工場(茨城県)が被災し、工場が3か月間止まった時、私は日本自動車工業会の会長だった」

 「工場が動き出しても業績はボロボロで相当、お金を入れないと復活できない。車載半導体、いわゆるマイコンを作っているメーカーは世界に3社ぐらいで、ルネサスが30〜40%のシェアを持っている。ルネサスがつぶれたら、日本の自動車はだめになる」

 「何とかルネサスを救おうと能見さんにお願いした。ルネサスは日立製作所と三菱電機、NECの三つが一緒になった会社で、むだがあった。能見さんは、リストラで大なたを振るえる人を社長に持ってこないと業績が上がらないと考えて、オムロンにいた作田久男さんを三顧の礼で迎えた。今の社長の柴田英利さんと二人三脚で、4万人いた会社の従業員を2万人にして工場も整理した」

 「今の米エヌビディアがやっているような自動運転につながるGPUのような半導体に目がいってしまうところ、柴田さんは周辺をやるべきだと主張した。IoTを始め、産業用のいろいろなところにAIが入ってくる。データを取るにはアナログ半導体が必要だ」

 「アナログ半導体の会社を次々と買収し、産業用で強くなった。身を縮めてから明確な成長戦略を描き、M&Aをしてインテグレーションも見事にやった。日本企業には思えないぐらいのグローバルマネジメントだったのが、成功につながっていると思う」

省庁を超えたファンドの良さ

 ——INCJの活動をどう評価するか。

 「官民ファンドなので、官があれこれと言ってきたのではないかと想像するだろう。シャープや東芝の案件があったので、そういうイメージを持たれるのではないか。違和感を持つかもしれないが、意思決定は本当に任せてくれた」

 ——官民ファンドはどうあるべきだと考えるか。

 「1兆円というフィナンシャルリターンを上げられたのは良かったが、ベンチャー投資も、やっぱり失敗案件があった。15年間の学びが財産だと思っている。INCJは省庁を超えたファンドなので、農業にも宇宙にも医療にも投資できる。縦割りになると失敗する。省庁を超えた投資ができるINCJの良さを受け継いでほしい」

 ◆志賀俊之氏(しが・としゆき) 1976年大阪府立大経卒、日産自動車入社。代表取締役最高執行責任者(COO)を経て副会長。2015年から産業革新機構(現INCJ)会長。

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