路線バスに宿泊、ロンドンバスで本格料理…引退後も人々の夢運ぶ
2025年5月24日(土)9時14分 読売新聞
東海バスの元案内所も活用している
[楽しいバス]<3>
車内で「とっても楽しいよ」とはしゃぐ男児の脇で、父親も「俺の方が夢中になっちゃいそう」と興奮した様子だ。
駿河湾に面した伊豆半島西部にある静岡県西伊豆町の集落に「停車」しているバス。東海バス(静岡県伊東市)が伊豆地域で約24年間走らせてきたが、引退後の2023年から宿泊施設「ばすてい」として再出発させた。「バス」に「ステイ(滞在)」を掛け合わせたネーミングだ。
全長約9メートルある52人乗りの車体の座席後部を3人分のベッドに改装し、運転席や運賃表示器などはそのまま残した。車体前面にある電光掲示に「三島駅」「修善寺駅」といった行き先を示すことができるほか、次のバス停を知らせる車内放送を流すこともできる。宿泊者はバスの機器を思いのままに操作できる。
同県沼津市から家族3人で訪れた男性(44)は「小さい頃に乗っていたバスを自由に操作して、その上寝泊まりできるなんて」と喜ぶ。バスが大好きという長男(3)も「すごく楽しい」と言いながら、降車ボタンを「ピンポーン」と何度も鳴らしていた。
バスの隣にある築75年の木造建物に浴室やトイレ、別の寝室などが用意されている。こちらはかつて定期券販売などが行われた元案内所だ。東海バスの親会社・東海自動車の土屋咲季さん(28)は「地元の人に愛されてきたバスや案内所が、これからも多くの人を懐かしい気持ちにさせることができたらうれしいですね」とほほ笑んだ。
東京都大田区のJR大森駅近くでは、英国ロンドンのシンボルとして長年活躍してきた2階建てバスがレストラン「ロンドンバスキッチン」として営業している。
丸みを帯びた1967年製の車体は、路線バスの役目を終え、英領北アイルランドで結婚式などのイベント用車両として使われていた。これを10年前、店主の近藤貴義さん(55)が「誰もが知っている海外の乗り物を自分の店にしてみたかった」と購入。自ら約3年かけて、1階を調理場、2階を客席へと改装した。
2019年にオープンした店の自慢は、自らの洋食店運営経験を生かした国産牛のハンバーグやステーキ、スペアリブなどの肉料理。バスを貸し切りにして中学校の同窓会を開いていた、東京都江戸川区の男性(77)は「まさかロンドンバスで食事ができるとは」。千葉県鎌ヶ谷市の女性(77)は「今にも走り出しそう」と車内を見回した。
バスは車検を受けており、週に1、2度はエンジンをかけて今でも動かせるようにしてある。近藤さんは「老若男女、誰にでも愛されるバスにしたい」と話す。
多くの人を運んできたバスは、走らなくても夢を運ぶ力を存分に持っていると感じることができた。
サウナ設置、各地に出前
古いバスが現在流行しているサウナに変身したケースも。2022年から営業する「サバス」は、路線バスの塗装を残したまま、車両の後部にサウナ室を設置した「動くサウナ」だ。これまで、神姫バス(兵庫)だった1号車、東急バス(東京)だった2号車が登場し、今年は静岡県内のバスを3号車にする作業を進めている。
降車ボタンを押すと、熱した石に水がかかって蒸気が出る「ロウリュ」ができる。全国各地の商業施設やイベントなどで営業してきた。
運営する「リバース」(大阪)の松原安理佐さん(32)は「バスは人を運ぶ以外の活躍もできるはず」と狙いを話す。バスにシャワーを備えたり、キッチンを取り付けたりといったアイデアがあるといい、「地域活性化や被災地の支援など、様々な現場でバスを役立てたい」と意気込む。