お金をたくさん残して死ぬ人生で本当にいいのか…精神科医・和田秀樹「人生が豊かになるお金の使い方」
2025年5月28日(水)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub
※本稿は、和田秀樹『どうせあの世にゃ持ってけないんだから 後悔せずに死にたいならお金を使い切れ!』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
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■お金は使ってこそ真価が発揮される
私には、お金は使ってこそ値打ちが出るものだ、という実感があります。
私が代表・監修を務める通信教育が儲かっている頃、念願だった映画を撮って、9000万円ぐらい損をしました。しばらくは借金を返すのにヒーフーハーフーしましたが、そのおかげで、映画づくりは趣味ではなくて本気だと思ってもらえました。だから、その後、映画を4本撮れたわけです。
映画界の知り合いもたくさんできましたし、いまは日本映画監督協会で理事をやっています。
ワインが趣味になってお金を使い出し、友人もまた増えました。ワイン好きの編集者がいろいろと美味しいワインを飲ませてくれたのがきっかけですが、本格的に好きになったのは2004年のこと。銀座で「100万円のワイン会」というイベントに参加してからです。
当時で650万円の値がついていた1860年代のシャトー・ラフィットが飲めるし、ジョエル・ロブションの手による20種類の料理を食べられて、ロバート・パーカーが選んだ21種類のワインが飲める。そういうイベントに100万円を使う人が、その頃は私以外にもたくさんいたんですよ。
■ケチケチしないほうが得られる経験は多い
後に私のアンチエイジングの師匠となるクロード・ショーシャさんがわざわざフランスから来られていたし、いまも私のワインの師匠であるアーネスト・シンガーさんと知り合った。
ロバート・パーカーさんとも初めて会うことができて、その後3回も彼と一緒に食事をする機会を持てたし、アメリカでロマネ・コンティを一番多く売っているワイン商のリチャード・トリンさんとも知り合いになれました。
ご存じの方も多いと思いますが、ロバート・パーカーさんは、価格に左右されないワインの評価で支持を集めたワイン評論家です。「パーカーポイント」というワインの採点を耳にしたことがある方も多いでしょう。
そういう著名な方々との出会いと経験を通して、美味しいワインの味がわかってくると、ワインが上手に選べるようになってくるし、ワインを通じて知り合いがどんどん増えていく。人とのつながりがないと、すごいワインを買うこともできないのです。
写真=iStock.com/fstop123
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そもそも私は自分から好き好んで人づき合いをする人間ではありませんから、あまり知り合いが多くなかった。でも、だんだん知り合いが増えてきて友人もできたわけです。
だからケチケチしないほうがいろんな人と会える。それがまた思い出となって、いまも振り返っては楽しかった時間を繰り返し味わえるし、ワインで知り合った友だちとはわりと続いています。
■私財によって生まれたスタンフォード大学
お金というのは、その金がどういう働きをするかによって価値が変わるものだと私は思っています。
たとえば、自分の子どもに財産を残したら、子どもが「ラッキー!」って喜ぶだけのことでしょう。でも寄付をしたら、その金で飢えてる人が救われたり、その金で貧しい子どもが学校に行けるようになったり、多くの若者に素晴らしい教育を授けたりすることができる。
世界的に有名なアメリカのスタンフォード大学は、鉄道王でカリフォルニア州知事だったリーランド・スタンフォード夫妻が、私財をなげうって設立した学校です。
15歳で病死した一人息子の名前を永くこの世に留めて、息子の名においてよその家庭の子どもたちの役に立ちたいという夫妻の思いが結実し、世界中でもっとも多くの起業家を輩出しています。
Googleを立ち上げたラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏、Instagramのケビン・シストロム氏とマイク・クリーガー氏など巨大企業を起こしたのも、スタンフォード大学の卒業生です。
大学を建てるほどの金はなくても、私たちは自分のためにお金を使うことによって、社会の発展に寄与することができます。
■金は撒き散らさなければただのうんこ
たとえばフランスではレストランのシェフというのは社会的地位がすごく高い。
和田秀樹『どうせあの世にゃ持ってけないんだから 後悔せずに死にたいならお金を使い切れ!』(SBクリエイティブ)
「そこで食事をしたら10万円したけど、うまかったよ」という話を聞いたとき、そういう客がいるから頑張ってもっといい料理をつくろうとするシェフが出てくると私は思っています。
みんながケチで、あれもこれも「もったいない」と言っていたら、ファッションデザイナーも育ちません。
いま、IT企業の社長などで何十億円も持っているのに、「スーツに100万円も金を使うやつの気が知れない」とか言う人がいるけれど、金持ちの人たちがみんなそうなってしまったら、「いいスーツをつくろう」とか、「高級な靴やかばんをつくろう」とかいう人が出てこないと思うのです。
確かに、同じ国で三度の食事も満足に食べられない人がいるのに贅沢することは心苦しいけれど、少なくとも贅沢なものに金を使うことは、自分の楽しみでもあると同時に人を応援していることになるわけです。
それと比べたら、お金を貯め込む人って、世の中の発展にまったく寄与しない人間だと思います。
イギリスの哲学者、フランシス・ベーコンは「金は肥やしのようなもの。撒き散らせば用をなす」と言いましたが、これはまさにその通りで、金は撒き散らさなければただのうんこみたいなもの。何の役にも立ちません。
■お金を使って得られる幸せを犠牲にするな
金を使わないでたくさん残して死んだとき、結局、本人には何にも残りません。葬式ぐらいは立派なものをやってもらえるかもしれませんが、ほとんどの金が子どもたちに行くわけでしょう。「それでいいの?」と思います。
「子どもに残るからいい」と思うのであれば、それも一つの考え方ですが、子どもは余計な金を持ってしまうと働かなくなるかもしれないし、兄弟喧嘩の種にもなる。何より自分はお金を使って得られる幸せを犠牲にして、生きているからこそ味わえる楽しい思い出や満たされた記憶が残らない。
お金は、どうせあの世にゃ持ってけないのです。最期に「ああ、おもしろかった!」ではなく、「ああ、たくさん残せてよかった」と死ぬのでしょうか?
思い出のたくさんある人生より、お金だけたくさん残した人生。「本当にそれでいいのですか?」と問いたいですね。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)