“女性刑事モノの最高峰”と称えられる竹内結子版『ストロベリーナイト』13年過ぎた今も記憶に残る魅力

2025年3月5日(水)11時0分 マイナビニュース


波瑠主演『アイシー』が指摘される共通点
『踊る大捜査線』などを輩出したフジテレビ火曜21時台のドラマ枠が復活したのは昨秋。反町隆史杉野遥亮主演の『オクラ〜迷宮入り事件捜査〜』に続く今冬の第2弾も刑事ドラマの『アイシー〜瞬間記憶捜査・柊班〜』が放送されている。その『アイシー』は序盤からネット上で、ある作品との共通点が指摘されていた。
それは13年前の同じ火曜21時台に放送された『ストロベリーナイト』(FODで配信中)。主人公が美しい女性の主任刑事、壮絶な過去による心の傷、部下の男性たちを寄せ付けないオーラ……チーフ演出の佐藤祐市も含め、『アイシー』と竹内結子版『ストロベリーナイト』を重ねて見る人々がいるのは当然かもしれない。
では、竹内結子版『ストロベリーナイト』とはどんなドラマだったのか。あらためて見返していくと、13年過ぎた今なお記憶に残る作品にふさわしい魅力であふれている。
○強さと弱さが同居した主人公の魅力
『ストロベリーナイト』の原作は誉田哲也の警察小説シリーズであり、その人気は主人公・姫川玲子の圧倒的な魅力がベースになっている。
ドラマ版の第1話も姫川のキャラクターを描くところからスタート。姫川はストレートのロングヘアーを振り乱し、パンツスーツとハイヒールで颯爽と事件現場へ向かう。さらに男性刑事たちへ矢継ぎ早に指示を出して捜査を進め、「このヤマ絶対取るわよ」と檄(げき)を飛ばす姿が見られた。
男性刑事の一歩先を行く直観と行動力、プロファイリング力を武器にノンキャリアで異例のスピード出世を成し遂げた姫川は、性別年齢不問で誰が見てもカッコイイヒロインと言っていいだろう。
しかしその一方で、男社会の警察組織に苦しめられる姿も目立っていた。ライバル班長から目の敵にされ、上司から「お嬢ちゃん、適当な女の勘なんかで動いて捜査ぶち壊すなよ」などと暴言を浴びせられるシーンが続く。
さらに姫川には、消したくても消せない過去があり、それがもとで母・瑞江(手塚理美)から過干渉を受けて苦しむシーンも散見される。単にカッコイイヒロインを描くのではなく、「事件被害者」という陰が盛り込まれ、凄惨な現場と残酷な現実にうちのめされながらも前へ進んでいく様子が共感を誘っていた。
他人を寄せ付けないオーラを放ち、近づきがたい一方で、守ってあげたくなるような繊細なヒロインを竹内が好演したことも含め、女性刑事モノの中でも最高峰の主人公と言っていいかもしれない。
そんなヒロインの魅力に加えて、姫川班も視聴者から愛された。寡黙で姫川への切ない思いを秘めた菊田和男(西島秀俊)、ストイックで姫川との距離を保とうとする葉山則之(小出恵介)、最年長らしい落ち着きと情報網で班を支える石倉保(宇梶剛士)、明るく素直なムードメーカーの湯田康平(丸山隆平)。それぞれ姫川に忠実なだけでなく異なる長所を持ち、事件解決に向けてチームでたたみかける一体感があった。
●刑事モノで稀有な“紅一点”の描き方
そしてもう1つ目立っていたのが、同じ警察組織の一員ながらヒールを担ったライバル班長たち。
なかでも「ガンテツ」こと勝俣健作(武田鉄矢)と日下守(遠藤憲一)はどこまでも憎たらしく、まさに姫川の天敵だった。その他、高嶋政宏、渡辺いっけい、生瀬勝久、田中要次、津川雅彦ら警察関係者は曲者ぞろい。姫川玲子と竹内結子という“紅一点”をベテラン俳優が固めることで一筋縄ではいかない世界観を作っていた。
当作を刑事ドラマというジャンルから見たとき、際立っていたのが、その“紅一点”という描き方。
警察内部は極端な男社会でハラスメントが当然のように行われ、事件現場では肉体的な不利で危機に見舞われる。しかし、姫川は女性ならではの思考や感覚を生かして事件解決の糸口を見つけ、男性が率いる班にはない結束力を見せていく。毎クール多くの刑事ドラマが量産される中、これほど女性という性別を実感させられる作品はないように見える。
そして各エピソードに目を移すと、他の刑事ドラマ以上の濃密な物語であるところが当作の強みだろう。刑事ドラマの大半が「わかりやすさ」「見やすさ」を重視した1話完結で、週替わりのエピソードが放送されている。しかし当作は全11話でエピソードは6つのみ。1話完結はその6つ中2つだけで、残りの4つは2〜3話でじっくり描くことで重層的な物語を作り上げた。
これは当作が「わかりやすさや見やすさより、ミステリー&サスペンスの深さ、事件当事者の葛藤や選択、姫川ら刑事の心理と人間関係を掘り下げるために長さを優先させた」ということだろう。
そしてもう一つ、各エピソードに出演するゲスト俳優の実力がなければ、2〜3話完結を成立させることは難しい。その点、当作は滝藤賢一、小木茂光、杉本哲太、木村多江、石黒賢、濱田岳、蓮佛美沙子、池田鉄洋、野添義弘らを起用して濃密な物語を支えていた。
○凄惨なシーンを21時台で描く技術
一方、映像に目を向けると、やはり佐藤祐市監督の演出が視聴者を引きつけていたのは確かだ。
第1話で電車に轢(ひ)かれた“アジの開き”を思わせる死体が登場するように、原作小説は凄惨な暴力シーンや死体の描写が多い。そのため放送前は「これを映像化できるのか」「地上波は難しいかもしれない」などと危惧されていたが、これを演出が巧みに和らげていた。
凄惨なシーンはモノクロで血の色を抑えたり、死体の写真を遠めのアングルから短い時間で映したり、再現映像に静止画やコマ送りを使ったりなどの工夫で、「まだ家族視聴の多い21時台で凄惨な事件を扱う」ことの難しさを解消。しかもダークサイドに偏り過ぎないようにモノトーンの「黒」ばかりではなく、姫川のイメージカラーである「赤」で月、バッグ、信号機などを強調するカットなどもあった。
美しさと醜さ、静と動のメリハリが利いた映像は佐藤監督の真骨頂であり、各話タイトルの表示など細部まで徹底的にこだわる演出も名作と言われるゆえんだろう。
その佐藤監督は翌2013年に『家族ゲーム』、15年に『無痛〜診える眼〜』、18年に『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』など骨太でシビアな物語を映像化してきた。ひさびさに刑事ドラマを手がける今冬の『アイシー』も、クライマックスでどんな演出を見せてくれるのか興味深い。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら

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