『ザ・ノンフィクション』前チーフP、MXで新ドキュメンタリー番組始動 従来にないルールを課す「無謀な挑戦」
2025年4月12日(土)7時0分 マイナビニュース
●取材期間1週間で費用対効果の問題解決
TOKYO MXで13日にスタートする新たなドキュメンタリー番組『TOKYO 1weekストーリー』(毎週日曜18:30〜)。東京に住む人々が人生の大きな転機を迎える日から遡って1週間を追っていくというコンセプトで、プロデューサーを務めるのはフジテレビ『ザ・ノンフィクション』前チーフプロデューサーであり、『人殺しの息子と呼ばれて…』(17年)では北九州連続監禁殺人事件の犯人の息子を初めてインタビューして話題を集めた張江泰之氏だ。
今回の新番組では、どのようなドキュメンタリーを生み出そうとしているのか。「とにかく新しいドキュメンタリーをやってみたかったんです。久しぶりにバッターボックスに立って、フルスイングしたいと思います」と意気込む張江氏に話を聞いた——。
○ドキュメンタリーの作り手がいなくなる危機感
フジテレビを退社後、全国各地の「名門校」に着目したドキュメンタリー『THE名門校 日本全国すごい学校名鑑』(BSテレ東、毎週土曜10:30〜)を立ち上げた張江氏。この番組を走らせる一方、数々のYouTubeチャンネルを手がける中で、今後のテレビの状況を考えた時に、「大きな予算のかからないコンパクトなドキュメンタリーができないか」(張江氏、以下同)と模索していたという。
そんな中、昨年秋にMXの佐藤圭一制作局長と知り合い、ドキュメンタリーの企画を提案することに。そのコンセプトは、「長期間密着する『ザ・ノンフィクション』とは真逆で、人生における大きなイベントまでの1週間で人を描く」というもので、MX側でトントン拍子に話が進み、年明けには春の新番組として動き出すことが決まった。
日曜18時30分という枠は、『真相報道バンキシャ!』(日本テレビ)、『相葉マナブ』(テレビ朝日)、『サザエさん』(フジテレビ)とキー局で人気番組がひしめき合う時間帯。MXは「在宅率の高い時間帯と捉えており、幅広い世代の方にご覧いただけるドキュメンタリーを編成することで、視聴の中で新たな気づきや学びを提供したいと考えました」(編成部)と狙いを説明する。
『ザ・ノンフィクション』は日曜昼帯という比較的見やすい時間に編成されているが、その他キー局を見ると、『NNNドキュメント』(日本テレビ)は日曜深夜、『テレメンタリー』(テレビ朝日)は土曜早朝、『ドキュメンタリー「解放区」』(TBS)は隔週日曜深夜と、タイムテーブルの隅に置かれているのが現状。
これに、「ドキュメンタリーというジャンルが、バラエティでその手法が使われたり、“ドキュメントドラマ”のように形を変えてテレビで活用されているのはいいことだと思うのですが、本筋のドキュメンタリーがこの状況だと作り手もどんどんいなくなってしまうかもしれない」と危機感を覚える張江氏は「テレビ的には時間もかかるし、費用対効果も悪いジャンルですが、それならば取材期間を1週間で区切って、30分のサイズで今の時代に起きていることを伝えることができるのではないか」と、企画の背景を明かした。
○『ザ・ノンフィクション』のベテランDたちが参加
取材期間1週間という縛りを設定することで、撮れ高の不安はないのか。
この疑問に「もちろんあります。最初の立ち上げのネタも結構苦労しました」と認めながら、「初回放送のプレビュー(試写)をして、いけるという感触は得ました」と手応え。13日の放送回は、「東京引越し物語〜新社会人 上京の日から一週間〜」と題し、地方から上京して初めて東京で暮らす新社会人が、新居の鍵を開けるところからの1週間を追っていくが、「部屋に何を入れて、自分の“城”を作っていく様子や、4月1日の入社式に向けて会社から出された課題に奮闘する姿など、ストーリーがあるんです」と成立した。
「ただ1週間を切り取って“こんなことありました”では成立しないので、1週間の中でどういうストーリーを描くことができるか、そこはディレクターの腕の見せどころだと思います」と期待を示すが、そんなディレクター陣には、『ザ・ノンフィクション』でともに仕事をしてきた面々も。百戦錬磨のベテランたちが参加しているが、張江氏が決めた従来のドキュメンタリー制作にはなかったルールに苦闘しながら取り組んでいるという。
そのルールの一つは、時系列通りに編集すること。従来のドキュメンタリーでは、ストーリーを分かりやすくするために、例えば水曜日に撮った素材を火曜日より前に持ってくることもあるというが、それを禁止した。
また、“今”を切り取ることにこだわっており、日付が変わるたびに東京の今の風景の映像を挿し込む構成に。さらに、主人公の過去を掘り下げて人格形成の背景を説明することも「普通は本人の写真などを使用して描きますが、10〜15秒程度のナレーションにとどめます」と制限をかけた。
こうしたルールを設定したのは、フジ退社後にYouTubeの動画作りに向き合ってきた経験も踏まえ、「今の時流として、視聴者は1時間のドキュメンタリーをリアルタイムで見るなんて、よっぽど関心があって面白くなければ大変になってきています。映像コンテンツがどんどん短尺になっていく中で、30分でテンポ感よく番組を見せていきたい」という狙いから。「無謀な挑戦ではありますが、上手くいったらちょっと発明になるのではないかと思っています」と可能性を語る。
●取材対象のシリーズ化も視野
第2回以降も、大将と弟子が二人三脚で営んできた早稲田のラーメン店「巌哲」の閉店までの1週間や、コメをはじめ物価高の中で650円の定食を出す巣鴨の店主が値上げするか悩みながら切り盛りする1週間といったラインナップを展開。上司と部下の関係、仕事をする中での重大な決断など、誰もが直面するシチュエーションで視聴者の共感を呼び込みたい考えだ。
1回30分の放送で1週間を映し出す1話完結形式だが、「例えば、初回の上京した男の子が社会人として働き始めた姿を、初任給までの1週間という形でもできるのではないかと思います」と、1人の取材対象を別の期間で区切ることで、シリーズ化のポテンシャルも持っている。
○テーマソングは「サンサーラ」に勝てる曲を
番組のオープニングとエンディングには、アン ミカがナビゲーターとして登場。「自身も幼少期からさまざまな経験をし、大きな転機を乗り越えてきたアン ミカさんが、多様な“東京人”の思いを受け取って届けます」(MX)とキャスティングされた。
そしてドキュメンタリー本編の冒頭とクライマックスには、「『サンサーラ』(『ザ・ノンフィクション』のテーマ曲)に勝てる曲を作ってもらいました(笑)」と、番組の象徴的存在となるテーマ曲を流す。歌うのは、張江氏が社長を務めるアービングに所属するA-ichiro(高垣英一郎)で、「もう一度」という楽曲が書き下ろされた。
東京人たちのストーリーを彩るのは、ナレーターの4人。こちらもアービング所属の杉本愛里、徳山遙、宝積千紘、久保千咲という若手女優4人が抜てきされた。ナレーター経験はほとんどないが、「テストの声を聴いて、いけると思った4人です。最初は順番に担当していきますが、この4人で戦ってもらいたい。回を重ねるごとに自分たちの色が出てくると思うので、そこから題材によって担当を決めていきたいと思います」と期待をかけている。