『あんぱん』制作統括が語る河合優実のすごさ「オーディションからただ者じゃなかった」
2025年5月20日(火)8時30分 婦人公論.jp
(『あんぱん』/(c)NHK)
俳優の今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合/毎週月曜〜土曜8時ほか)。子どもたちの人気者<アンパンマン>を生み出したやなせたかしと、妻・暢の夫婦をモデルとした物語だ。昭和初頭から始まったドラマには、戦争が暗い影を落とす。朝田家の石工、原豪(細田佳央太)が出征。蘭子(河合優実)との切ない恋物語が視聴者の心を大きく揺さぶった。豪が生還したら結婚する約束をした2人だが、第37回では豪の戦死が伝えられた。いよいよ戦争編が本格化するなか、蘭子と豪のエピソードの舞台裏を、制作統括の倉崎憲さんに聞いた。
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河合優実は「ずっと見ていたい人」
蘭子は、ヒロイン・のぶの妹で、朝田三姉妹の次女だ。真面目で勉強もできるが、家族思いで郵便局に勤めながら家を支えていた。演じる河合さんは、ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK)『不適切にもほどがある!』(TBS)で注目され、多くの映画やドラマに出演中。主演から助演までこなすが、その佇まいと独特の存在感は唯一無二だ。河合さんは今作ではもともとヒロインオーディションを受けていた。
「グループオーディションで初めて河合さんにお会いした時に、ひきつけられました。芝居に限らず彼女の自己紹介やほかの人の演技を見ているときの佇まいを含めて、『ずっと見ていたい人』でした」と明かす。
印象に残っているのが、最終候補者が集まったカメラテストだという。
「1人ずつ芝居をしてもらったのですが、河合さんはスタジオ内の環境を人知れず確認していました。たとえば『あそこに時計がある』とか一瞬で空間を把握して自分のものにしているのを見たときにすごいなと感じました。すべてをお芝居に反映させているわけではないと思うのですがその嗅覚がすごかった」
ヒロインが今田さんに決まった後に、次女役と三女役について検討した。
「蘭子は冷静で俯瞰で家族全体のことを見ている。自分より家族の幸せを願っていることも含めて、河合さんに演じていただいたら、すごくはまるんじゃないかなと考えました。姿勢も良くて所作も美しいし、昭和の着物も似合うのではないかとも思いました」
寡黙な男が似合う細田佳央太
控えめでおとなしい蘭子が思いを寄せるのが、石工の豪だ。寡黙で真面目、親方である釜次を慕う職人気質の人物だ。出征直前、蘭子に気持ちを伝えるかどうか揺れる思い、朝田家への感謝…せりふが少ないながらも、細田さんが繊細な演技で見事に表現した。細田さんは実は、嵩の弟・柳井千尋役のオーディションに参加していた。
(『あんぱん』/(c)NHK)
「次世代のエースというような方々に数十人お集まりいただきました。その中に、細田さんも(千尋役の)中沢(元紀さん)もいらっしゃいました」と明かす。
細田さんと会った時に「寡黙な男が似合う」と感じたという。ただ、「すでに多方面で活躍されていたし映画の主演もされている。セリフの少ない役を受けていただけるだろうかとは思いました」。脚本の中園ミホさんにも相談したうえで、豪役をオファーしたところ、実現したという。
「細田さん本人の真面目でストイック、真摯な人柄も含めて、豪のキャラクターとリンクするところがありました。仕上がりを見ても細田さんにお願いしてよかったですね」
豪と蘭子の最後の夜は…
(『あんぱん』/(c)NHK)
召集令状が届き、豪は日中戦争に従軍することに。
「ドラマの中でもこの時代だったら日本ではこういうことが起きているということを年表にしています。豪くらいの世代だったらそろそろ出征するよねということで、豪が戦争に行くというストーリーになりました」
豪と蘭子が恋に落ちる展開は、中園さんのアイデアだった。
「蘭子は朝田三姉妹のなかでも、一歩引いていて自分よりも人の幸せを願うタイプ。そんな蘭子だからこそ、豪にひかれるんじゃないかということはチームでも議論していました」
蘭子は豪への思いが告げられないまま、壮行会が開かれる。盛り上がる宴のさなか、そっと家を出た豪を蘭子が追いかけ、気持ちを伝えあうシーンは、河合と細田さんの名演もあって、作中屈指の名シーンとなり、視聴者の反響も大きかった。
「あんぱんのテーマの一つに大きく関わっているシーンです。試写段階で涙してしまいましたが、あんぱんで描きたいテーマの一つが戦争です。もう2度と戻ってこない“今”という時間をどう生きるのかは現代に通じるテーマ。豪は出征するけれど帰ってくるかどうかはわからないから、2人にとってはいったん最後の時間となるからです」
大事なシーンとして臨んだ撮影だが、
「河合さんと細田さんの佇まいや表情、仕草のひとつひとつがその瞬間しかない時間を、役を通して生きていると伝わってきました。もう全国民に見ていただきたいし、非常に手ごたえを感じました」と振り返る。
河合優実の目線一つで
15分の放送回の終盤5分はほとんどを蘭子と豪のやりとりに割いた。豪から求婚された時の蘭子の驚き。髪をかき上げ目線がさまよう様からは、うれしさと恥ずかしさが伝わってきた。蘭子は、豪と同様にセリフが少ないキャラクターだが、河合さんの演技は蘭子の感情を物語ってきた。
「パン食い競走での豪との会話や、釜次が豪とのぶが結婚したらどうかと冗談を言ったとき…。河合さんは目線一つで、本当に気になる人だと思わせる力があります。オーディションの時から河合優実はただ者じゃないと思わせてくれました。セリフがなかったとしても、蘭子が豪を見るだけですごく感じるものがある」と評価する。
登場人物が時代の波に翻弄されていくが、豪を失った蘭子の人生は続いていく。河合さんは現在24歳だが、10代の蘭子から演じており、今後も年齢を重ねていくという。
「河合さんの芝居を観ていると10代の時には10代に見えるし、20代のときは20代にみえる。仕草やセリフまわし、まとう空気からすべてです。映像を通してその時代を生きているように見えるのが、彼女にしか持ちえないパワーだと感じています。これから30代、40代となっていきますがこの先も楽しみにしています」
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