北米の森の中に、未確認生物「サスカッチ」がいた! 2頭のつがいが過ごす“危険と隣り合わせ”の1年間 『サスカッチ・サンセット』を採点!
2025年5月27日(火)18時0分 文春オンライン
〈あらすじ〉
北米の霧深い森の中を二足歩行する毛むくじゃらな生き物、サスカッチが行く。リーダー格のオス(ネイサン・ゼルナー)、そのつがいのメス(ライリー・キーオ)、その間に生まれた子ども(クリストフ・ゼイジャック=デネク)、そして知的で穏やかなもう1頭のオス(ジェシー・アイゼンバーグ)だ。
彼らはどこかにいる仲間を求めて旅をしているようだ。リーダーを先頭に、さまざまな食べ物を見つけては食べ、木の枝を集めて寝床を作り、交尾をし、時に仲違いや助け合いをしながら。ただ、美しい自然の中の暮らしは、常に危険と隣り合わせ。彼らの1年は波乱万丈で——。
〈見どころ〉
監督であるゼルナー兄弟は、歩くサスカッチの映像を子どもの頃に観て以来サスカッチに魅了されてきたそうで、弟のネイサンはリーダー格のオス役で出演するほど。そしてセリフもナレーションもない本作で重要な役割を果たすのが音楽。担当しているのは、ゼルナー兄弟の作品ではおなじみのバンド、オクトパス・プロジェクトだ。
4頭のサスカッチによる家族の物語
「ビッグフット」の別名でも知られる未確認生物サスカッチの1年間を、ドキュメンタリータッチで描く異色のネイチャー・アドベンチャー。製作総指揮は『ミッドサマー』で熱狂的な支持を集める鬼才アリ・アスター。また『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグ、プレスリーの孫娘ライリー・キーオらが新境地の演技に挑んだことでも話題。

芝山幹郎(翻訳家)
★★★☆☆心優しい場面はときおりある。身体にこたえそうな撮影にも敢闘賞を贈りたい。ただ、台詞を使えない特殊メイクの映画は縛りが多すぎて、観客に一種の忍耐と感情移入を強いてしまう。メッセージ性もやや見え透く。雲の垂れ込めた森や夕焼けの稜線をいきなり出してくるのは、いかがなものか。
斎藤綾子(作家)
★★★☆☆不格好なサスカッチたちの尾籠な日常が綴られる……と見ていたが、コロナ禍以後の引きこもって怠惰に飲み食いし続ける、己の姿と重なった途端に感情移入。何とか人間と出くわさぬよう祈り、エンディング曲に落涙。
『ハリーとヘンダスン一家』が好きならば、星は5つの作品かも。森直人(映画評論家)
★★★★☆『猿の惑星』等に連なる風刺劇か、凄まじく手の込んだコントか? 丁寧な作りでUMAというオカルトジャンルを自然主義風の無声映画に仕上げた。怪作『トレジャーハンター・クミコ』の奇才監督(兄弟)が見せる“未知のもの”への執念。馬鹿馬鹿しいことを一生懸命やるのって素敵だ。
洞口依子(女優)
★★★★☆冒頭から戸惑うかもしれぬが、なすがまま、構えず受容。自然の中での驚異やそれを理解するためのサスカッチでもない。森の中の彼らを追っているうちに観ているこちら側が不自然なのかもとすら思えてくる。そんな未体験サスカッチ映画。ライリーの原種なオーガニックさが炸裂した演技、音楽も★。
今月のゲスト
マライ・メントライン(著述家)★★☆☆☆「いわゆる」知性・理性発達途上の人類の日常感覚とはどんなものだったか? に踏み込んだ、ちょっとオープンワールド系ゲーム的なクエスト感も香る実験的ロードムービー。言語の発達前に宗教的感覚の萌芽が窺える描写やサウンド効果など、光る要素は有るが冗長さで観客を選ぶ印象強し。
Marei Mentlein/1983年、ドイツ生まれ。テレビプロデューサー、コメンテーター。そのほか、自称「職業はドイツ人」として幅広く活動。
INFORMATIONアイコン
『サスカッチ・サンセット』
監督・脚本・製作:デヴィッド・ゼルナー&ネイサン・ゼルナー(『トレジャーハンター・クミコ』)
2024年/アメリカ/原題:Sasquatch Sunset/88分
新宿ピカデリーほか全国公開
https://sasquatch-movie.com/
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年5月29日号)
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