世界の変化に気づかない北朝鮮の情弱幹部、中国の業者から見放される
2025年2月22日(土)7時14分 デイリーNKジャパン
少し上の世代なら、日本の大型スーパーやスーツ量販店で、北朝鮮製のスーツが売られていたことを覚えているだろう。松茸やカニなどと共に日本に大量に輸出されていたのだが、2006年の日本政府の独自制裁で、市場から姿を消した。
ただ、完全になくなったわけではない。
中国企業から発注を受けた北朝鮮企業が、加工を行う事例が少なくなかったからだ。完成品は中国に再輸出して、メイド・イン・チャイナのタグを付けられて日本を含めた世界の市場に輸出されていく。
しかし、それも昔の話になりそうだ。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
北朝鮮は2020年1月、新型コロナウイルスのパンデミックに伴い、鎖国状態に入り、人はもちろん、物の出入りも禁じられた。それから5年経ったが、コロナ前の状態には戻っていない。
中国企業から注文を得てかつらやつけまつげ、服の加工を行い輸出する産業に携わっていた人びとは、国境が完全に開放されれば元のように注文が入るだろうと期待していたが、現時点で既に注文が減りつつある。
情報筋は、「中国の業者が、契約履行に難の多いわが国(北朝鮮)の業者に発注しなくなっているからだ」と、状況を説明した。
北朝鮮の業者は、納期に関して様々な問題を抱えている。
別の情報筋によれば、北朝鮮のある外貨稼ぎ機関が昨年8月、ブレスレット、キーリングなど単価が10元(約208円)もしないアクセサリー20万個の製造を行う契約を中国の業者と交わしたが、内閣の対外経済省から「単価が15元(約312円)以上の案件だけ引き受けよ」と命じられたことで、作業ができなくなってしまったと伝えた。
外貨稼ぎ機関としては、納期を守れなければ中国側との信頼関係が崩れてしまうことを理解している。それでも、中央の命じた単価以上で受注できなければ、原材料を供給してもらえないのだ。
こうした不安要素が多すぎる北朝鮮の状況にウンザリした中国の業者が、取り引きを中止したということだ。
ただ、失われた信頼は再び築き上げることができるが、それとは別の状況変化が根底にある。
「中国の業者は機械化を進めており、手作業の工程を減らしたことが主な原因」
「刺繍もビーズも機械を導入して大量生産するようになり、かつらやつけまつげもほぼ完成段階まで機械生産できるようになったことで、仕事が急に減った」(情報筋)
急速に進む機械化は、中国の人口減少を反映したものだ。
北朝鮮と国境を接する中国東北の人口は、2020年の時点で約9851万人で、過去10年で約1101万人減少した。また、中国全体で見ても、ブルーカラーの労働者の数が減り、より賃金の高いホワイトカラーへの移動も増えた。さらには賃金の上昇に伴い、かつてのような労働集約型の加工業は、ベトナムやバングラデシュなどに移動しつつある。
一方の北朝鮮は、中国からの注文に期待し、各地に工場を建てた。一般住民にとっても、服やアクセサリーの加工は、重要な収入源となっていた。
新義州(シニジュ)市在住の市民は、「加工の仕事が主な収入源だったが、いつから仕事が途絶えたのか思い出せないほどだ」「もっと単価が上がればいいと期待したこともあったが、今ではともかく仕事が入りすればいい」と、苦境を語った。
ちなみに、このような作業は時給換算で0.2ドル(約30円)の場合がほとんどだ。
こんな状況であるにもかかわらず、当局は相変わらず「単価を上げろ」という無理な要求をしている。情報筋は、その情弱ぶりを次のように嘆いた。
「資材を輸入したのに単価が低すぎるから上げろということだが、世界がどれだけ速く変化しているのかわかっていないイルクン(幹部)たちが、何も知らずにそんな要求を出している」
「何もしないことが最大の経済政策」と皮肉られるほど、世界の変化に疎い北朝鮮の経済政策の立案者たちなのだ。