「思想学習サボったら配給減らす」北朝鮮の農業政策に現場から反発

2025年4月10日(木)17時0分 デイリーNKジャパン

北朝鮮・両江道(リャンガンド)の農業部門の情報筋によると、両江道農村経理委員会が先月28、29の両日、農村管理イルクン(幹部)大会を開いた。農場の管理委員長、技師長などが参加したこの会議では、農業経営を改善すべきとの声が多く上がった。


個人の意見を発表する時間に、三水(サムス)郡の農業経営委員長が、このような発言を行った。


「労力工数と組織生活を関連付けることには問題がある」


労力工数とは、個人の労働時間と強度を計量化したもので、仕事をどれだけこなしたかを示すのに使う。


農民は、1時間あたり0.125工数の仕事をこなし、1日8時間で1工数をこなすことになっている。1工数をこなせば1日分の食糧に当たる600グラムが支給される。1日も休まず働いたと考えると、1年で219キロの食糧を受け取る計算になる。



農勤盟(農業勤労同盟)中央委員会は先月初旬、思想学習、講演会、生活総和(総括)などの組織生活を3回欠席したら1工数を差し引くという方針を示した。農民に対する締付を強化するのが目的だが、上述の委員長の発言は、これを批判したものだ。


「組織生活に不真面目ならば、相互批判や思想闘争(吊し上げ)などの処罰のやり方があるのに、労力工数削減で農民を脅迫している。こんなやり方で工数を奪われれば、秋の現物分配(食糧の支給)を受け取れる人がどれくらいいるだろうか」(情報筋)


農勤盟中央委は、組織生活の欠席を繰り返す人が多い現状を踏まえて、労力工数の差し引きという強硬策に出たわけだが、これが現場の幹部の激しい反発を呼んでいるのだ。


この日の会議では他にも、労力工数を非公開にする件、賞金と奨励金を積極的に活用する件などが議題に上がったが、別の情報筋は、すぐには実現できないだろうとの見方を示した。その一方で、上級機関が問題を把握しようと努力している点、提起された問題を認めた点などで、参加者は喜んでいるとも伝えた。


労力工数を非公開にするというのは、このような意味がある。


「農民は、食べ物が底をつく3〜4月に遅刻や欠勤が最も多いが、労力工数が公開されれば1年の農作業を始める前からやる気が削がれる」(情報筋)


「農業経営の原則では、農民は遅刻、ノルマ未達成など様々な口実で、労力工数を奪われるようになっている。そこにばかり焦点を当てているから、農民のやる気が削がれる問題は全く考慮されていなかった」(同)


北朝鮮はどの分野であっても減点主義、厳罰主義だが、それが生産量の慢性的な水増し報告、問題の隠蔽などに繋がっている。農業でも状況は同じということだ。


北朝鮮農業と穀物供給の正常化のためには、構造的な改革が必要だ。いの一番は、いくら働いても貧困から抜け出せず、やる気も上がらない集団農業からの脱却だろう。


北朝鮮は「個人圃田耕作担当制」という、働いた分だけ収入が増えるというシステムを一部で導入したが、理由は不明ながら全国的な実施には至っていない。この全面的な実施が必要となるだろう。


また、農民や商人による穀物の売買を再び認めると同時に、国や軍に納める穀物の量を減らし、農民の収入を増やすことなど、できることはいくらでもある。しかし、中央集権的な社会主義計画経済への復帰を目指していると思われる金正恩政権の農業政策は、農民のやる気を削ぐ方向に進んでいる。


北朝鮮は昨年、農場からの穀物の買取価格を大幅に引き上げて、農民が穀物を市場に流すのを阻止しようとしたが、インフレで買取価格と市場価格の差があっという間に広がってしまった。農民は穀物を隠匿し、国の徴発を逃れ、市場に流そうとする傾向は変わっていない。

デイリーNKジャパン

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