「ドリアン大好き」北朝鮮の姫様…飢える庶民を尻目に大量輸入
2025年5月8日(木)5時1分 デイリーNKジャパン
北朝鮮で最も一般的な果物といえば、りんごである。韓国の統計庁によれば、北朝鮮における2022年のりんご生産量は80万1533トンで、その多くが黄海北道(ファンヘブクト)のクァイル郡を中心に栽培されている。「クァイル」は朝鮮語で果物を意味し、郡の面積の7割を果樹園が占める。
りんごに加え、みかん、もも、ぶどう、梨、柿を合わせて「6大果物」と呼ばれ、これらが果物生産量の91%を占めている。
しかし、一般庶民はこれらの果物を口にするどころか、目にする機会すらほとんどない。その大部分が平壌市民への配給に限られているためだ。ただし、それすら年に一度、1人あたり1〜2個程度に過ぎない。
だが、「お姫様」となると話は全く異なる。
北朝鮮が今年3月、中国の丹東経由で数十トンのドリアンを緊急輸入したことが明らかになった。これは、金正恩総書記の娘であるジュエ氏のためだった。北朝鮮においては非常に貴重な果物である。この情報は韓国のサンド研究所が運営するサンドタイムズによって報じられた。
複数の対北朝鮮貿易関係者は30日、サンドタイムズに対し「3月初旬に丹東からドリアンを積んだトラック数台が北朝鮮に入った」と証言した。貨物列車を使って運ばれたドリアンは最高級品種で、ジュエ氏のためのものだとされる。
ドリアンは「果物の王」と呼ばれ、強烈な匂いと甘く柔らかな果肉が特徴的な熱帯果物だ。金正恩氏がチーズ好きで知られるように、ジュエ氏はドリアンに特別な嗜好を持つことから、貿易関係者の間では「お姫様の果物」という表現が自然に使われるようになったという。
金日成主席と金正日総書記の長寿研究を目的として設立された万青山(マンチョンサン)研究院で勤務した経験を持つ脱北者のキム・ジュウォン氏が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、金正日氏もまたドリアンを好んでいたそうだ。
金正日氏は金日成氏の死後、各国駐在の外交官や貿易関係者を通じて世界各地の珍味を集め、贅沢三昧な暮らしをしていた。彼が初めてドリアンを口にしたのは1990年代中盤、「苦難の行軍」と呼ばれる食糧難の時代である。当時、数十万人の人民が餓死し、生き延びるために木の根や松の皮を食べていた時代に、金正日氏はドリアンの魅力に取りつかれていたのだ。
ドリアンは主にタイ産で、中国経由で北朝鮮に入る。2024年の統計によれば、中国のドリアン総輸入量142万6000トンのうち、92万9000トン(65%)がタイ産だった。北朝鮮に運ばれたドリアンも同じルートで輸入されたと推測される。
関係者は、「ドリアンをはじめ、パイナップル、パパイヤ、マンゴーなどの熱帯果物は平壌の高級デパートや中央党(朝鮮労働党中央委員会)の幹部専用流通網を通じて消費されている」と語った。一般の北朝鮮国民には名前すら知られていない果物だろう。
これら高級果物は単なる食品というより、高位幹部間でのワイロや贈答品として利用される。丹東の別の貿易関係者は、「北朝鮮の貿易会社が大量輸入する熱帯果物の多くは、祝日に高級幹部への贈り物として使われる」と明らかにした。
北朝鮮は国際社会による制裁を受けているが、金正恩氏一家の贅沢な生活は大きな影響を受けていないと指摘されている。大量のドリアン輸入もまた、制裁を回避した特殊経路を通じて行われている可能性が高い。
実際、朝鮮労働党39号室を中心に、金正恩氏やその家族、側近だけに供給される「9号製品」を国内外から調達する専用のルートが存在している。
韓国政府系研究所の関係者は、「ジュエ氏の『ドリアン好き』は、北朝鮮社会の格差や特権構造を象徴的に示している」とし、「食糧難に苦しむ一般住民とは異なり、特権層の子どもの好みによって国の物流が動き、貴重な外貨が使われている」と指摘した。
一方、専門家の忠告を無視してドリアンを含む高カロリーな食生活を続けた金正日氏は、2000年代に動脈硬化と糖尿病を患い、2008年には脳卒中を起こした。そして、2011年に69歳で死亡した。人民からすれば、呪い殺されたも同然だろう。