北朝鮮、ロシアでの戦死者遺族に「首都居住権」検討か

2025年5月6日(火)7時43分 デイリーNKジャパン

北朝鮮の国営メディアは4月28日、朝鮮労働党中央軍事委員会の声明として、自国の軍部隊をロシアのクルスク州に派遣していたと報じた。今までひたすらに隠し通してきた自国軍部隊の海外派兵を、ようやく公式に認めた形だ。


北朝鮮は約1万4000〜5000人を派遣し、4000人以上の死傷者が出たと見られるが、当局は、戦死者の遺族に対して、首都・平壌で居住する権利を与えることを検討していると、韓国のサンド研究所が運営するサンドタイムズが報じた。派兵を巡る国内世論に対して、当局が対応に苦心している様子がうかがえる。



北朝鮮情勢に詳しい情報筋によれば、戦死者の遺族を新たに建設されたアパート団地へ入居させる案が浮上している。だが、配属先は平壌中心部ではなく、郊外の可能性が高いとされる。候補地としては、近年整備された松新(ソンシン)や和盛(ファソン)などの団地が挙げられている。


朝鮮中央通信は、金正恩総書記がクルスク解放に際して述べた発言を次のように報じた。


「正義のために戦った彼らは皆英雄であり、祖国の名誉の代表者である。


朝鮮民主主義人民共和国の誇らしい息子たちの勇敢さをたたえてわが首都には間もなく戦闘偉勲碑が建てられ、犠牲になった軍人たちの墓碑の前には祖国と人民が与える永生祈願の花が供えられるだろう。


強者の偉大な名声と勝利者の栄光をとどろかせた軍人たちの戦闘精神と英雄主義は、後世にも尊敬と名誉の高い壇上で末永く輝くだろう。


祖国は、偉大な名誉を守って戦った彼らの精神を末永く伝えるべきであり、参戦勇士たちの家族を特別に優遇するための重要な国家的措置を講じるべきである」


遺族に対する平壌での居住許可は、この「特別な国家的措置」に含まれるとみられる。


これまで派兵に関する情報を徹底的に統制してきた北朝鮮当局が、事実の公表に踏み切った背景には、ロシアからの見返りに加え、犠牲者の増加に対する国内の批判を抑える目的があると考えられる。


北朝鮮国内では、自国の軍隊がロシアに派遣されたとの情報が口コミで広がり、兵役を忌避する雰囲気が強まるなど、少なからず混乱がおきた。


自国を守るために存在するはずの朝鮮人民軍(北朝鮮軍)を、カネ目当てで海外に派兵して、その多くを死なせたことについて、国民の中には金正恩氏総書記と朝鮮労働党に反感を抱く者もいる。


さらには、戦死者の遺体を丁重に葬らず、放置するなど、朝鮮の死生観では激しい抵抗感を覚える行為を行っている。


記事では「朝鮮人民軍」とは表記せずに、「朝鮮民主主義人民共和国武力の各戦闘区分隊」としているのも、そんな世論を意識したものと思われる。


北朝鮮はさらに、ロシアのプーチン大統領が派兵に感謝の意を示したとの声明も国内向けに公開した。派兵の正当性は「反ファシスト掃討のための国際軍事協力」とされ、国民には「北朝鮮とロシアの血盟関係」が繰り返し強調されている。


朝鮮中央通信は29日、朴英一(パク・ヨンイル)朝鮮人民軍総政治局副局長を団長とする軍事代表団が、「第3回国際反ファシスト大会」に参加するためロシアへ出発したと報じた。専門家の中には、代表団が来月9日にモスクワで開催される「対独戦勝80周年記念軍事パレード」にあわせ、追加派兵について協議する可能性もあると見る者もいる。


また、北朝鮮による派兵を公式に認めた直後、ロシア国防省はクルスク地域で訓練を受ける北朝鮮兵の映像を初めて公開した。映像には、小銃の実弾射撃やRPG(対戦車ロケット)の発射、手榴弾の投擲、塹壕戦など、多様な訓練の様子が映し出されていた。


兵士のヘルメットには、ロシア軍の勝利を象徴する「ゲオルギー・リボン」が取り付けられており、注目を集めた。


ロシアの軍事専門家であるウラジスラフ・シュリギン氏は、「北朝鮮軍は極限状況下でも冷静さと勇敢さを保っていた」と高く評価している。


派兵の事実が明らかになった今、北朝鮮国内の世論がどのように変化するかに注目が集まっている。現段階では、遺族への優遇措置や「血盟」プロパガンダによって民心の鎮静を図っているが、長期的には死傷者数の多さへの不満や、海外派兵そのものに対する疑念、さらには体制への忠誠心の低下といった複合的な要因が、政権の安定に深刻な影響を及ぼす可能性もある。

デイリーNKジャパン

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