「半裸で逃げるしかない」北朝鮮女性”人身売買”の生々しい現場
2025年5月27日(火)5時4分 デイリーNKジャパン
北朝鮮の朝鮮人権研究協会は23日、国連総会で北朝鮮の人権問題についての会合が開かれたことを受けて談話を発表し、「米国と韓国をはじめとする敵対勢力はえせ『人権』謀略団体を押し立ててわが共和国の人権実状に悪辣(あくらつ)に言い掛かりをつけている」と反発した。
ニューヨークの国連本部で20日に開かれた会合では、中国で人身売買の被害に遭った脱北女性のキム・ウンジュさんが登壇し、「(姉は)拉致され、性的虐待を受けた後、道端に捨てられました。私たちはたった2000元(約4万円)で売られました」などと証言した。
今回の会合は加盟各国の実務者ではなく、高官が参加するハイレベル会合として開かれた。日韓やヨーロッパ連合などはもとより北朝鮮の人権問題に一定の関心を払っており、米国のバイデン前政権もそうだった。問題はトランプ政権だ。
2017年1月に発足した第1次政権の初期、トランプ大統領は脱北者をホワイトハウスに招くなどし、北朝鮮の人権問題に関心のある姿勢を見せていた。それもあって、各国のメディアでも脱北者の証言が頻繁に取り上げられた。
当時44歳だったパク・チョンファさんの体験はこうだ。彼女は、人身売買ブローカーの手で中国人男性に売られる前に逃げ出した。
「人身売買された女性は、北朝鮮で社会の最底辺にいた人々だ。私は中国に行って、いい男性に出会い、コメを腹いっぱい食べることを夢見ていた。中国では家畜ですらコメを食べていると聞いたから」
しかしパクさんは他の6人の女性とともに、材木の積まれたコンテナに閉じ込められトラックで運ばれた。12時間後、ブローカーは材木をトラックから降ろし始めた。
「恐ろしかった。殺されるかもしれないと思い、私たちは手を繋いで歌を歌って恐怖に耐えていた」
48歳(当時)のチェ・オクセさんは中国で16年も暮らした。彼女は人身売買の被害者ではないものの、ソウルに住む脱北者の友人の多くが、中国人男性に売られ、韓国に逃げた人々だった。
「ある友人は、逃げられないようにと夫に足かせをかけられていた」
チェさんの25歳になる姪も、脱北後に中国人男性に売られ、2014年に逃げ出し、韓国にたどり着いた。
「姪は夫のもとから、下着姿の半裸で夜逃げするしかなかった。必死の思いで韓国に逃げてきた」
トランプ氏は第1次政権時の2018年2月2日、ホワイトハウスのオーバルオフィス(執務室)に脱北者6人を招き、こうした実態を聞き取っている。そして「北朝鮮の残酷な人権状況についてよく理解している」としながら、「特に韓国に定着した脱北女性の大部分が人身売買の被害者だというが、この21世紀に考えられないことだ」として、中国政府に人身売買の根絶を強力に要求すると述べた。
だが、金正恩総書記と首脳会談を行ったのを境に、トランプ氏は北朝鮮の人権問題に関心を見せなくなった。人権問題も「ディール」のための「カード」だったのだろう。
いま、米朝間の対話は途絶しており、再開するには新たなディールが必要だ。せめてそれまでの間だけでも、トランプ氏が北朝鮮の人権状況への関心を見せるならば、この問題で何らかの改善が生まれる可能性がわずかでも高まるのだが。