大河原克行のNewsInsight 第275回 国内最大のPC生産拠点、島根富士通が進める「スマートなものづくり」の正体

2024年3月17日(日)23時16分 マイナビニュース

FujitsuブランドのPCの国内生産拠点である島根富士通(島根県出雲市)は、スマートものづくりへの取り組みを加速している。その成果のひとつがプリント基板製造ラインの完全無人化である。さらに、生産したプリント基板を、AGVを使ってPCの組立ラインへと自動搬送するとともに、自動供給も実現。今後は、生産が完了したPCを自動的にパケットに積み上げるパレタイズロボットも導入する。島根富士通の生産ラインの進化をみた。
島根富士通は、1990年10月に、富士通唯一のPC専門工場として操業した。2024年度第3四半期(2024年10月〜12月)には、累計生産台数が5000万台に達する予定であり、その規模は国内で最大となっている。
特徴的なのは、変種変量に対応した生産ラインを構築している点だ。
現在、島根富士通では、ノートPC、デスクトップPC、タブレットを生産。2022年度の生産実績は年間約170万台に達している。そのうち、BTO比率は約95%で、5万種類の組み合わせに対応することができる。2022年度実績では18万件のオーダーに対応。そのうち83%が5台以下の生産数量のオーダーだったという。それにも関わらず、基板製造を含めて、2日以内でのPC生産が可能であり、受注から納品まで5日間以内で日本全国に届けることができる。
こうした変種変量の注文に迅速に応えることができるのが島根富士通の強みとなっている。
島根富士通の特徴は、長年に渡り、「人と機械の協調生産」に取り組んできた点だ。
人による組み立ておよび検査と、ロボットなどを利用した組み立ておよび検査を連携させることで、人が得意とする部分と、機械が得意とする部分を明確に棲み分けし、お互いの長所を掛け合わせた生産体制を実現している。
たとえば、変種変量に対応するため、様々な機種を混在して生産する組み立てラインでは、柔軟性を生かすために人を活用。さらに、人の知恵によって継続的な改善を加えている。また、ネジ締めなどの繰り返し作業が行われる部分や、人によってばらつきがあってはいけない検査工程などでは、ロボットやカメラ、センサーなどを積極的に採用。高い品質を維持しながら、継続的な進化を続けているのが特徴だ。
こうした取り組みの延長線上で、島根富士通はスマートものづくりに挑んでいる。
そのひとつがプリント基板製造の完全無人化である。
24時間体制で稼働しているプリント基板製造ラインは、AGVを使って、自動的に生基板が投入されると、はんだ印刷機でクリーム状のはんだを高精度に基板に印刷。部品実装機によって、超高速に各種部品を実装。1枚の基板には約1400個の部品を実装するという。最も小さい部品は約0.4×0.2mmというサイズだ。さらに、リフロー炉ではんだを溶かして部品を固定。検査工程を通過し、基板の分割を行うことになる。
これらの工程はすべて自動化されており、異なる基板を製造するために行われる段取り替えの作業も、約8割を自動化。部品が装填されているカセットを入れ替えずに、ソフトウェアの制御だけで行えるように進化させている。
基板実装においては、CPUやメモリのオンボード化が進展しており、基板の種類が増加。変種変量生産を行う島根富士通にとっては、受注にあわせて異なる基板の生産をタイムリーに行なう必要が生まれるなか、自動化の進展は強力な武器になる。
こうした完全自動化に向けた進化において、島根富士通が新たに取り組んだのが、最終工程の自動化である。
ここでは、社内で「ATRAS(アトラス=Automatic TRAnsport System)」と呼ぶ設備を導入。独自に開発したマルチハンドをロボットアームに装着することで、作業にあわせてハンドを回転。ツールをチェンジすることなく、基板搬送やフィルムはがし、ボタン電池の取り付け、キャップ外し、高精度カメラによる位置補正や検査を行い、さらに、次のアームロボットを使って、基板を分割して、PC組立ラインに投入するトレイにメインボードとサブボードを、自動で分けて収納することができる。
ATRASは、2023年12月から導入を開始し、現在、3台が稼働している。ひとつのロボットで複数の作業を行える点が大きな特徴となっており、そこが島根富士通が最も苦労した部分だという。
また、基板の実装工程から、ATRASによる検査工程へと、AGVによって基板を自動搬送する工程間搬送設備「RCMO(ラクモ=Rack Carrying MObility)」も開発。それぞれの実装ラインで生産されたものを、RCMOによって、3台のATRASに自動的に振り分けることができる。これもプリント基板整備の完全自動化において大きな役割を果たしている。
かつてはプリント基板製造の24時間操業のために約200人が勤務していたが、これらの自動化の進展により、現在は85人にまで減少。人のリソースは、より付加価値の高い業務にシフトしているという。
もうひとつの新たな取り組みが、製造した基板の組立ラインへの自動供給だ
プリント基板はA棟1階で製造されているが、ここで完成した基板は、AGVが搬送。エレベータを使って自動でA棟2階のノートPCの組立エリアに届ける。さらに、組立ラインの先頭にAGVが基板を自動供給し、空箱も同時に回収する。
基板製造とPC組立ラインとが同期しており、組立ラインの作業進捗にあわせたプリント基板投入が行われている。この作業に4台のAGVを活用。1台のAGVに複数の組立ライン向けのプリント基板を積載して、それぞれの組立ラインに供給する。A棟において、2024年2月から稼働を開始したところであり、今後、B棟のノートPC組立ラインにもプリント基板を自動供給できるように拡張する。
現在、島根富士通で稼働しているAGVは32台であり、部品の移送や完成品の移送などに利用されている。
また、今後は、組立が完了したPCの完成品を、出荷用のパレットに自動積載するパレタイズロボットの導入を予定しており、間もなく稼働する予定だ。
さらに、次のステップでは、AMR(自律走行搬送ロボット)をプリント基板製造工程に導入することを検討しており、リールに搭載された実装部品の管理を自動倉庫化する取り組みと連動させながら、製造工程への自動供給を行うことで、自動化の範囲をさらに拡大することになる。
「プリント基板製造工程では、1日に約2000リールの交換や継ぎ足し作業を行っているが、その回数は、人の作業速度であるからこそ実現できている部分もある。作業速度と管理性、投資コストを見極めながら、自動化の検討を進めている」(島根富士通 執行役員 生産技術統括部長の吾郷純氏)という。2024年度には、AMRを1台導入し、試験的な運用を開始する予定だという。
では、プリント基板製造工程と、PC組立工程の様子を写真で見てみよう。
○PC組立工程
島根富士通は、「データ活用」においても進化を遂げている。
2020年度から島根富士通独自のデータ分析基盤の構築を開始し、データの集約や一元化、人やモノ、設備に関するデータの収集領域を拡大したのに続き、2022年度までに、収集データの関連付けや可視化、変化点や異常点の可視化、統計分析手法の統一、機械学習手法の活用による予測や分類を開始。現在は、これらのデータを活用し、異常を捉えて、人、モノ、設備を自動制御したり、予兆を捉えて不具合発生を未然防止したりといった取り組みを開始している。
生産工程内にも大型ディスプレイを配置して、組立ラインの稼働/停止状況、製造品質の変化、ピッキング導線の干渉状況、部品補充アラーム状況などを表示。現場でもデータを意識した改善が進められるようにしている。
新機種の生産立ち上げ時の品質や稼働状況が、短期間に目標に到達しているかどうかを確認したり、ピッキングする回数が多い部品は組立ラインに近いところに配置換えをしたりといった改善につなげているという。
「毎日生産するものが異なるため、それに伴い、使用する部品が変わるのが、島根富士通の特徴である。それにあわせて、柔軟にレイアウトを変更していく」(吾郷執行役員)とする。
実は、日常の作業では、よく使うものは、同じ場所に配置されていた方がいいという発想になるが、ピッキングエリアではこの考え方は適していないという。それは、ピッキングする際に、作業者に慣れが出てきてしまい、先入観をもとにピッキングすることが、間違いのもとになるからだという。データをもとに、最適な場所に配置し、さらにデータによる指示に基づいてピッキングし、間違いがあった場合にはアラームを慣らすという仕組みを導入することが、ピッキングの間違いを減らすことにつながる。つまり、データを活用して柔軟にレイアウトを変更できるようにすることも、生産性を高めると同時に、間違ったピッキングを行わないために重要な要素になるという。
今後は、データを用いて、改善案や具体的なアクションを、AIなどが提案するような環境を構築したいという。
こうした様々な取り組みを通じて、島根富士通の神門明社長は、「環境変化に強く、しなやかに対応できるスマート工場を目指している。現場力、技術力、創造力という強みをさらに強化するとともに、変動力や逆境力といった新たな強みも強化していきたい。自動化の取り組みも、単なる省人化が目的ではなく、変動を吸収するための自動化、カスタマイズに対応するための自動化によって、国内需要の変化に対応していきたい」と語る。
2024年度からは、PC需要が回復基調に転じると見られており、島根富士通におけるPCの生産台数も増加することになる。ロボットなどを活用した自動化と、データを活用した品質向上および生産性向上によって、生産増加に対応していくことになる。

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