佐野正弘のケータイ業界情報局 第148回 「TikTok」「Instagram」との連携も、KDDI「povo」は海外で飛躍するか

2025年4月2日(水)18時0分 マイナビニュース


月額0円から利用できるKDDIのオンライン専用ブランド「povo」が、動画配信やSNSなど外部サービスとの連携を強めています。そこには国内だけでなく、海外進出を見据えた狙いがあるようです。povoを運営するKDDI Digital Lifeの代表取締役社長を務めていた秋山敏郎氏(2025年4月よりKDDIパーソナル事業本部 パーソナル事業戦略本部長)への取材から、povoの海外展開と今後の進化の方向性を探ってみましょう。
「povo Data Oasis」は海外でも注目
KDDIのオンライン専用ブランド「povo」といえば、月額0円から利用でき、お金を払い必要な通信量などの“トッピング”を購入して利用できる、非常に独自性の強いサービスを提供していることで知られています。そのpovoがここ最近強化を図っているのが、動画配信サービスなどとの連携です。
実際、povoは2024年よりオープン化を打ち出し、外部パートナーがpovoの通信を自社サービスに組み込めるようにする「povo SDK」を開放。さまざまなサービスとの連携に力を入れるようになっています。
2024年12月には、povo SDKを活用したサービスが相次いで登場。映像配信サービス「ABEMA」を運営するAbemaTVとは、ABEMA視聴時のデータ通信量が無制限になる料金プランの提供を開始していますし、DMM.comとは、やはり映像配信サービス「DMM TV」などの視聴時のデータ通信量が無制限になる「DMMモバイル Plus」を提供しています。
ですがKDDIは、povo SDKの活用を国内企業だけでなく、海外企業にも広げる姿勢を打ち出しています。3月にスペイン・バルセロナで開催された携帯電話の見本市イベント「MWC Barcelona 2025」では新たに、海外企業であるメタやバイトダンスとの連携が打ち出されました。バイトダンスとはABEMAなどと同様、「TikTok」での動画視聴時の通信量が無制限になるサービスの提供が、メタとは訪日外国人に向け、「Facebook」や「Instagram」でpovoの基盤を活用した旅行者向けデータ通信サービスの提供がなされるようです。
そのpovoのサービスを運営しているKDDI Digital Lifeの代表取締役社長だった秋山氏によると、すでに提供がなされているサービスでは短期間での改良を進め、各アプリでの通信量が5倍から6倍に増えるなどの成果を挙げているといいます。具体的な成果が海外企業とのパートナーシップにつながっている部分もありそうです。
ただ秋山氏によると、海外でより注目を集めているのが、KDDIが経営参画したローソンとの取り組み、より具体的に言えば「povo Data Oasis」だといいます。povo Data Oasisは、ローソンの店舗を訪れることで少量の通信量を獲得できる仕組みで、通信をローソンの送客に活用している点が大きなポイントとなっています。
こうした発想は、従来の携帯電話会社にはなかったそうで、秋山氏によると「完コピして自分の国でもやりたい」という携帯電話会社のCEOもいたとのこと。もちろん、完全にコピーされてしまえばKDDIにお金は入らないのですが、秋山氏は「すぐお金にならないパターンもあるが、日本が業界をリードするという視点からすればいいことだと思っている」と話しており、さまざまな実績や事例を作って海外にアピールし、それを海外での事業化へとつなげていきたい考えのようです。
ノウハウを提供して対価を得る
とはいえ、ただアイデアを提供するだけではビジネスにつながらないのも確か。では、どうやってビジネスにするのかといいますと、秋山氏は1つに、Circles.Lifeから対価をもらうことを挙げています。
実はpovoは、シンガポールのデジタル通信会社であるCircles.Lifeの基盤を活用したサービスでもあります。それゆえ、povoの実績によってCircles.Lifeの利用を増やすことにより、営業に貢献した分の対価をCircles.Lifeからもらうというのが、収益手段の1つとなるようです。
そしてもう1つは、同種のサービスを提供したい企業にノウハウを提供することで対価をもらうこと。秋山氏によると、povoのようなオンラインに特化した通信サービスは、既存の携帯電話会社が単にCircles.Lifeから基盤を提供してもらったとしても、うまくいかないことが多いとのこと。デジタルならではの考え方と、携帯電話会社の安全・信頼性を両立するにはノウハウが必要だそうで、そうしたノウハウを提供することをビジネスにしていく考えを示しました。
日本ではpovoが、月額0円から利用できる都度課金型のサービスとして人気を獲得しましたが、海外の多くの国ではプリペイド方式の通信サービスが非常にポピュラーになっています。eSIMの発行やオンラインで通信量をチャージすることもすでに一般的になっており、そこに珍しさや新規性はありません。
それだけに、povoを海外展開していくうえでは、SDKで通信をさまざまなサービスの部品として提供し、そこから何らかの形で対価を得ることに活路を見出しつつあるようです。ただ、そのためには国内でより多くのサービスと実績を作り、povo Data Oasisのような新しい発想のサービスを作り上げていく必要があるといえます。povoならではの斬新な取り組みが登場することに今後も期待したいところです。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら

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