配布資料を生成AIに→無関係の福澤諭吉著書が出力 受講生も苦慮する慶應SFCの「奇手」、狙いはどこに

2025年5月1日(木)19時45分 J-CASTニュース

2025年4月下旬、慶應義塾大学の必修科目で行われた斬新な生成AI対策がSNSで話題となった。この授業で配布された資料をAIに読み込ませると、授業内容とは無関係な内容が出力されてしまうのだ。受講生はどう受け止めたのか。今回の取り組みには、どんな狙いがあるのか。受講生と大学側に詳しい話を聞いた。

SFCで行われた斬新な「生成AI対策」の内容

慶大による今回のAI対策が話題になったのは、同大の湘南藤沢キャンパス(SFC、神奈川県藤沢市)に通う学生のX投稿がきっかけだ。必修科目「総合政策学」第1回の授業の課題で、先述したようなAI対策が行われていたと報告。これがSNSで注目を集めた。

J-CASTニュースは、この学生に話を聞いた。25年4月に入学したばかりの総合政策学部1年生だ。4月14日に行われた「総合政策学」第1回は、授業のオリエンテーションと生成AIのハルシネーションについての内容だった。

この「ハルシネーション」とは、誤った情報をまるで正しいかのようにAIが生成してしまう現象のこと。近年、各大学では、AI利用の注意事項のなかで、ハルシネーションに言及して注意を促している。

こうした中、今回のAI対策が注目を集めたのは、わざと誤った内容がAIで出力されるように講師側が対策していたことだ。具体的には、「総合政策学」第1回の授業で配布された資料を生成AIに読み込ませると、授業で一切言及しなかった内容が生成されるようになっていた。

学生によれば、授業で配布されたPDFの資料のなかに仕掛けがあった。資料の空白部分には、透明で見えない小さな文字が書かれてきた。その文字で生成AIに指示するようになっていたのだ。

その結果、慶應大の創立者である福澤諭吉の著書「文明論之概略」の内容が、について、授業で言及されていないにもかかわらず、出力されるようになっていたのだという。つまり、レポートで福澤諭吉の著書について書いた学生は、授業内容を理解せずにAIを使ったことが分かるようになっていたのだ。

課題提出期限の翌日、履修した学生に「個人課題の提出に関する注意喚起」というメールが学校側から届いた。このメールでは、先述したような仕組みがあったことを説明し、AI利用に関して「必ず自分自身で批判的に吟味してください」と注意するものだった。

学生によれば、このAI対策は学内でも話題に。「実際に評価対象外になったと名乗り出た人はまだ見かけていませんが、文法ミスの修正だけにAIを使用したという人は何人かいました。どの範囲までAI使用を認めるべきかという線引きは非常に難しいと感じました」と取材に語った。

大学側は「出力を批判的に考察する力を養うことを目的」

だが、SFCはAI利用を全否定しているわけではないと、受講生は受け止めている。

受講生が25年2月にSFCを受験した際、小論文のテストで出題されたのもAIに関するものだった。総合政策学部と環境情報学部の小論文では、膨大な量のテキストデータを学習して文章を理解・生成するAIの技術「大規模言語モデル」を用いて生成された文章が資料として使われていたという。

「当時の私は、剽窃や捏造が許されないはずの大学で、AIによって出力された文章に関する入試問題が出題されたことに驚きました。今回の対応(編注:授業課題でのAI対策)を通じて、SFCはAIなどの優れた技術を適切な場面で適切に活用すべきであるという寛容な考えを持っていることを改めて感じました」

今回の取り組みについて、大学側にも狙いを聞いた。慶應義塾広報室によると、今回の課題が話題になった必修科目「総合政策学」では、次のような目的があるという。

「総合政策学部で扱われる多様な学問分野の基礎的な知識や思考法の習得と併せて、生成AIをはじめとする最新テクノロジーにより急速に変化する教育環境の中で、不用意な技術利用がもたらすリスクについて学生自身が深く理解することを目指しております」

課題の狙いについては、「初回授業では生成AIの仕組みと課題点を実践的に学び、課題では生成AIの信頼性を見直し、出力を批判的に考察する力を養うことを目的としました」と説明している。

J-CASTニュース

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