冬を迎えた北朝鮮で「ビニール膜」がバカ売れする理由
林立するタワーマンションのすぐそばに立ち並ぶバラック。韓国で最も豊かな江南(カンナム)の外れにある貧民街の九龍(クリョン)マウルは、「絵になる」せいか、日本のメディアも一時センセーショナルに取り上げていた。だが、あのような風景は、かつてのソウルならどこでも見られるものだった。
朝鮮戦争の戦火を逃れた人々や、よりよい暮らしを求めて離農した人々は、ソウルなど大都市の中心部にバラックを建てて住んでいた。しかし開発が進むにつれ、徐々に郊外に追いやられ、行き着いた先が九龍マウルなどの「タルトンネ」と呼ばれる地域だ。
これらも再開発が進み、もはやほとんど残っていない。住んでいた人々は公営住宅や半地下の部屋、「チョクパン」と呼ばれる日本で言うところのドヤに住まいを移し、貧困は非可視化されつつある。
韓国では消えつつあるそんな家が大量に存在しているのが、軍事境界線の北側にある北朝鮮だ。保温のため、窓にビニール膜を貼り付けているのは、韓国のそれと全く同じだが、その価格が高騰していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、最近市場でビニール膜が飛ぶように売れていると伝え、その理由として薪や石炭価格の高騰を挙げた。節約のため、薪や石炭は煮炊きをするためだけに使い、室内を暖房する代わりに、ビニール膜で窓を密封して室内温度を保ち、寒い冬を乗り切ろうとしている人が多いのだという。
需要の増加に伴い、先月初旬には1平米2500北朝鮮ウォン(約60円)で売られていたのが、わずか1ヶ月で約70%も価格が高騰してしまった。玄関、窓などをすべて覆うには5平米から10平米程度のビニール膜が必要となり、その負担は5万北朝鮮ウォン(約1200円)近くになる。コロナ鎖国による深刻な経済不況で、日々の糧を手に入れるだけでも必死な北朝鮮の人々にとって、この負担は非常に重い。
ビニール膜の多くは中国から輸入されるものだったが、コロナ鎖国により輸入できなくなってしまった。現在、市場で売られているのは北朝鮮の国内製品だ。透明度が低く、厚さも一定ではない、質の低いものだが、それでも品薄になっているため、価格が高騰しているのだ。
春になると、農場がビニール膜を大量に買い込むが、現在の価格高騰が続けば購入が困難となり、来年の農業にも影響が出かねない状況だ。
北朝鮮で最も豊かな首都・平壌と言えども、事情は似通っているようだ。
平壌の西城(ソソン)区域の情報筋は、市内で室内の保温とすきま風を防ぐためにビニール膜を買い求める人が増えており、その理由として、1日に朝夕1〜2時間ほどしか電気が供給されず、暖房ができないことを挙げた。
地域の新しいマンションには、4〜5年前まで、電気と燃料が供給され、寒さを心配する必要がなかったという。しかし、昨今の経済事情でそれも止まり、情報筋は「わが国(北朝鮮)の電気と燃料の事情が非常に苦しいことは知っていたが、まさか平壌でもこんなに列なくな状況となり寒さに震えるとは思わなかった」と驚きを示した。
ただし、同じ平壌でも、市内中心部の特権層の住むマンションに限っては、暖房が稼働しているとのことだ。
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