【大学ラグビー総括】強みを活かし切った帝京が早稲田を圧倒 見せつけたフィジカルの強さと接点での技術

2025年1月19日(日)16時30分 ココカラネクスト

帝京の接点でのファイトは見事だった(C)Getty Images

 第61回全国大学ラグビーフットボール選手権大会の決勝は早稲田と帝京との顔合わせで行われ、33-15で帝京が勝ち、2009年から2018年シーズンに9連覇したのに次ぐ4連覇を達成した。同学の優勝は通算13度目となり明治と並んだ。

 今季4度目となる両雄の対戦、試合開始直後から帝京の気合いが早稲田を大きく上回った。

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 日本のスポーツ界に長く蔓延っていた、悪しき「根性論」のおかげで、実力的に劣る者が、相手との差を埋めるために、普段の実力以上のものを無理やり引っ張り出すのが「気合い」だと考えられがちだ。だが、この試合の帝京の「気合い」は自分たちの強みを存分に発揮し、その状態を持続させるために有効に作用していた。

 帝京の強み、それは個々のフィジカルの強さと、そのフィジカルの強さをボール争奪戦で十分に活かしきる接点でのファイトの技術、そしてこれらを80分間持続させるフィットネスだ。

 この試合の帝京の5つのトライのうち4つはFWが奪ったもの。先制トライはFL青木恵斗主将の豪快な突進からのオフロードパスをSH李錦寿がつなぎ、最後はPRとは思えないほどの豊富な運動量を誇る右PR森山飛翔が走り込んで決めた。

 後の3本は、いずれもゴール前まで迫ってから、これでもかと密集サイドを突いた末に、パワーランナーである青木、本橋拓馬、カイサ・ダウナカマカマの両LOがそれぞれ決めたもの。試合前に相馬朋和監督が「密集近辺をしつこく突くことを徹底したい」と話していた通りの試合運びだった。

 守備面でも、早稲田相手に、スピード勝負で振り回されたら勝つのは難しいと見切った上で、早稲田が外のランナーで勝負に来る前の「崩し」の段階での接点でのファイトに注力して、後半に入ってからは早稲田の攻撃のスピードを全く上げさせなかった。

 一方の早稲田は、「気合い」が上乗せされた帝京の強烈なプレッシャーを受けながらも、持ち味であるスピードを活かし、前半2トライを挙げて12-14と食い下がった。

 ディフェンス面でも粘り、前半終盤の帝京の21フェーズにも渡る攻撃を凌ぎ切った。往年の「アタックル」という言葉を彷彿とさせる猛烈なディフェンスで、自陣5メートル付近から22メートルラインまで押し戻し、最後には相手の反則を誘い守り切った。

 このディフェンスは試合の中で、唯一早稲田に流れを傾けさせた。後半開始早々PGを成功させ15-14と逆転。陣地がSO服部亮太のロングキックが威力を発揮する風上であること、フィットネス勝負なら早稲田に分があると考えられたことなど、様々な条件から早稲田の反撃が本格的に始まると予想された。

 しかし、その流れをひっくり返したのが帝京のLO本橋のトライ。カウンターアタックのボールを取り返した帝京が一気に早稲田ゴール前までボールを運び、トライに結びつけた。

 そして後半10分過ぎには試合の流れを決定づけるビッグプレーが出た。自陣ゴール前10メートルの早稲田ボールのスクラムに帝京が強烈なプレッシャーをかけ、早稲田のフロントローを完全にめくり上げてボールを奪い返したのだ。

 今シーズン長らく先発メンバーを務めながら、この試合ではリザーブに回ったHO當眞蓮にとっては入れ替え出場後のファーストスクラムだったが、見事なリードで早稲田を粉砕した。スクラムでしてやられた対抗戦後、FW陣は毎日の練習後に自発的にスクラムに組み込み、じっくりと鍛え直したそうだが、その執念がここ一番の場面で見事に実った。

 これでもう一度、火がついた帝京FWの勢いは止まらなくなった。早稲田の仕掛けをことごとく早い段階で潰し、反撃の糸口すら掴ませない状態を続け、スタミナに自信を持っていた早稲田を疲弊に追い込んだのだ。最後の最後、WTB日隈太陽のトドメとなるトライの際の早稲田ディフェンス陣は明らかに疲れが見え、追いつくことができなかった。

 終了間際の早稲田の攻撃にも耐え、勝利をものにした帝京。春季大会、夏合宿と調子が上がらず、青木主将が悔しさのあまり、試合後に涙を見せたこともあった。対抗戦では早稲田に17-48の大差で敗れ、V4に赤信号が灯ったなどともささやかれた。そんな苦しさを全て跳ね返しての、この日の勝利。ノーサイドの瞬間、帝京の選手全ての目には涙があった。結果的に見れば、今シーズンの「帝京」というチームは、シーズン最後のこの試合でようやく完成したのだろう。

 来シーズン、帝京からはこの試合の先発メンバーのうち8人が卒業で抜けることとなる。特に6人が抜けるFWの強化が最大の課題となるが、チームのDNAにしっかりと刷り込まれたウイニングカルチャーが新戦力の台頭を促し、シーズンの深まりとともに強くなっていくチームに仕上がっていくと予想される。来季の大学ラグビー界も帝京に各大学が挑む構図となったが、各チームに有力な若手が残っているため、多くの好試合が期待できる。4月末から始まる各地の春季大会が早くも楽しみだ。

[文:江良与一]

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