異質だから面白い!J1に旋風を起こす町田イズムの「真髄」と勝ち続けるための「課題」

2024年3月16日(土)9時0分 ココカラネクスト

アグレッシブな守備とそこからの速攻が町田の持ち味。組織として高いレベルにある(C)Getty Images

 開幕戦でG大阪と1−1で引き分けた後、名古屋、鹿島に対しては連続で1−0の勝利。町田は3節終了時点で勝ち点7と、広島に次ぐ2位につけ、上々のJ1デビューを飾った。

【動画】止まらない町田旋風!ハイプレスからゴールにつなげた3節・鹿島戦での先制点のシーン

 J2からの昇格組ではあるが、客観的なデータはこの健闘をサプライズとは呼んでいない。『Transfermarkt』によれば、町田に所属する選手の市場評価額の合計は、1780万ユーロ(約28億円)。J1の20チーム中2位だ。1位の浦和が2495万ユーロ(約40億円)で一つ飛び抜けているが、町田は3位横浜FM、4位神戸と市場価格がほぼ同額。つまり、これらの優勝候補と同じく、町田は強化予算では上位に進出しても不思議ではないチームと言える。これは前提だ。

 ただ、そうは言っても、毎年投資額に見合わないリーグ成績になるクラブが多いのも事実。「ドキッ」としたサポーターがいるのではないか。チーム作りの効率性や整合性、あるいはマネージメントにより、必ずしも期待した成績にならないのがサッカーの難しさと面白さだ。

 だが、その点では町田はむしろ、自信を持っている節さえある。プレーモデルが明確であるため、チーム投資の効率が良いからだ。

 ハードワークを大前提とした各選手のタスクは、明確に定められている。両サイドハーフは縦のスペースに飛び出してクロスに持ち込める平河悠とバスケス・バイロン。FWはターゲットマンのオ・セフンやミッチェル・デュークと、裏を陥れる藤尾翔太やエリキの2トップ。

 ボランチは長短のパスに長けた仙頭啓矢や下田北斗と、ボールハンターの柴戸海のセット。サイドバックはロングスローを投げられる鈴木準弥と林幸多郎。鈴木はFKなどセットプレー全般のスペシャリストでもある。CBは競り合いに強いチャン・ミンギュとドレシェビッチ。結果に直結するGKも抜かりはなく、セーブに長けてロングキックの精度が高い、谷晃生を獲った。

 キックが上手い選手、ボールを奪える選手、空中戦に強い選手、ドリブルで突破できる選手、プレースキッカー、スロワー。それらをシンプルにポジションに配し、役割を徹底させる。流動性は低く、全体のバランスが強固。全員をMFのように扱うペップ・グアルディオラの発想とは逆に、スペシャリストを11人並べたチームだ。

 スカウトから見れば、これほど仕事をしやすいクラブは珍しいかもしれない。近年、横浜や川崎が隆盛を極めた要因の一つには、スタイルの確立による補強の効率化が挙げられるが、その点では町田も引けを取らない。各ポジションに欲しい能力が、明確すぎるほど明確だ。

 その結果、浦和やFC東京では出場機会が少なく、燻っていた柴戸や鈴木など、現代サッカーのトレンドを追うチームの中で存在感を薄めてしまった選手のスペシャリティが、町田で再評価されることになった。皮肉な話だが、単純に投資額が多いだけでなく、トレンドを逆手に取ったような戦い方が、町田を買い物上手にしている。

 そうしたスペシャリティを固定的に活用するので、戦い方は統一されている。だが、武器が通じなければ、下手に動かず、そのまま0−0で許容する割り切りもある。徹頭徹尾、崩れない。町田ゼルビアは動じない。厄介なチームだ。

 一方、巷ではロングスローが話題になっている。これは徐々に下火になるか、議論の視点を変えるか、ともすれば弱点になると筆者は予想する。3節では鹿島がスロワーの前に人を置いてジャンプさせ、町田のロングスローを邪魔する対策を取った。投げる地点の2メートル以内に近寄らなければ、規則上問題はなく、その2メートルも厳格に計測するわけではない。有効な対策だ。

 また2節では名古屋が、町田のロングスローを長身守備陣が跳ね返したが、そのこぼれ球を、ロングスローを投げた鈴木自身に拾われ、フリーで蹴ったクロスから唯一の失点を喫していた。鹿島が取った対策は、このようなこぼれ球への準備、スロワーへのマークも含めて有効だ。今後、各クラブが踏襲すれば、ロングスロー対策は明確になる。

 さらに『Footballlab』が昨年掲載した記事、『ロングスロー攻撃をデータで検証する』(https://www.football-lab.jp/column/entry/849)によれば、ロングスロー後、逆にカウンターを食らってシュートへ持ち込まれる割合は、J3よりもJ2、J2よりもJ1と、カテゴリが上がることに増える傾向にあるそうだ。選手のクオリティによるが、今後、町田のロングスローは鹿島のような対策と、被カウンターリスクにより、効果が減るか、逆に弱点になる可能性もある。

 もっとも、そもそも町田の真の脅威は前への圧力だ。ロングスロー自体ではない。奪う圧力、前へ運ぶ圧力、押し込む圧力、競り合いの圧力。プレッシャーをかけ続けることで、相手の長所を封じる。J1で対戦したクラブは、まるでACLで韓国勢と戦うかのような圧力を町田から感じたのではないか。前述のロングスローも、得点手段というより、前への圧力をかける手段、相手にダメージを残す手段として活用されてきた。得点力は低くても、厄介だ。

 この隙がないように見える町田に死角があるとすれば、何だろうか。

 一つは、ロングカウンターだろう。ロングスローに限らず、前への圧力をひっくり返されるリスクは、J2よりJ1のほうが大きい。

 また、ロングカウンターをファウルで防げば、カードが積み重なる。実際、3節終了時点で町田は20チーム中最多となる8つの警告を受けており、反則ポイントではFC東京に並ぶ13でトップだ。それを恐れて町田が自陣ゴールにバスを置く時間が増えれば、1節の宇佐美貴史のFKのようにスペシャルゴールをぶち込まれる。町田にとっては苦肉の展開でしかない。

 町田は前への圧力を、名古屋戦、鹿島戦のように徹底するはず。となれば、他クラブのロングカウンターは、町田の前への圧力を逆手に取るか、失わせるか、それとも潰されるか。ここは一つ、注目のポイントだ。

 同時に累積警告による出場停止や、過密日程によるハードワークの陰り、怪我など、リーグ戦ならではのリスクも重なる。そうした事態に備え、町田はスペシャリストを2人ずつ揃えた陣容だが、全く同じとはいかない。上位を突っ走れば、対策を徹底されることも増える。

 それらを町田は掻い潜り、前へ進まなければならない。町田から見ても、町田の反対側から見ても、熱を帯びるシーズンになるだろう。

[文:清水英斗]

ココカラネクスト

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