高校サッカーからドイツへ――過酷な挑戦を決めた福田師王の“現在地” 今季出場40分に20歳の点取り屋は何を思う【現地発】
2025年3月16日(日)7時0分 ココカラネクスト

限られた出場機会の中でもがく福田。(C)Getty Images
高校時代とは異なるプロの世界
高校サッカーからブンデスリーガへ——。そんな夢物語を現実のものとしたのが、福田師王だ。
鹿児島の強豪・神村学園にいた高校時代の福田は22年の全国高校選手権で3ゴールを記録して得点王となるなど異彩を放った。そしてティーンエージャーは、23年1月にドイツ・ブンデスリーガの名門ボルシアMGに加入。U-23チームから研鑽を積んでいく意向が発表された。
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エポックメーキングな契約から2年の時が経った。U-19、そしてU-23でコンスタントにゴールやアシストという目に見える結果を残し続けた福田は、24年1月にトップチームに昇格。即座に試合に出られるほど簡単な世界ではないのはわかっている。それでも日々の練習やトレーニングマッチで、20歳になった日本人ストライカーへのチームメイトの評価も少しずつ高まっていった。
とりわけボルシアMGの主力としてプレーする日本代表DFの板倉滉は、常に福田のことを気遣う一人だ。
24年4月のフライブルク戦後のことだ。当時、チームの調子も芳しくなく、主力に欠場者が出ていた影響もあって、福田は遠征メンバーに入っていた。それこそ「スタメンの可能性もあるのでは」と報じる地元紙もあったが、結局は試合メンバーから外れた。
その当時に「結果を残しているわけだから。練習試合で点もとっているし、練習からすごくいいコンディションでやっていた」と口にした板倉は、こう慮っていた。
「スタメンで出る、出ないは難しいところがあるかもしれないですけど、あれだけ調子のいい選手、練習試合で結果を出して若い選手が、メンバーに入りたいという思いでやっている中で入れて欲しかったなと」
もっとも、指揮官が福田を気にかけていないわけではない。ジェラルド・セオアネ監督に「若手を起用するつもりがないわけではない。だがチームには出場時間をえるにふさわしい選手がいるのを忘れてはいけない」という話をしていたことがある。
福田がいるのは高校時代とは異なるプロの世界だ。チームにいる選手は皆自身の人生をかけて戦っている。つまり同僚でありライバル。チーム内序列もある中で、結局は、選手と同様に結果を求められる監督に「起用しよう」と思ってもらえなければ、ピッチに立つことはできない。
そんなシビアな環境で揉まれる福田だが、決して腐っているわけではない。デビューイヤーとなった23-24シーズンにブンデスリーガ5試合で途中出場を果たすと、今季も定期的にメンバー入り。70分からピッチに立った17節のヴォルフスブルク戦では、待望のトップチーム初ゴールを決めた。

トップチームに帯同しながらU-23の試合でもプレーする福田。練習試合では得点を決めるなどアピールは続けている。(C)Getty Images
「徐々に。徐々に、ですね」
ボルシアMGが1-5で大敗したこの試合をドイツの大手紙『Bild』は、「福田師王はこの試合唯一の光明」という見出しで紹介。「福田は再びその素晴らしい得点力を発揮した。テストマッチではすでにその資質を見せている。そしてブンデスリーガで初ゴールもマーク。間違いなくさらなる自信をもたらしたことだろう」と若き点取り屋を称えた
ただ、アピールをしようとも、毎試合連続で出場機会を得られないのが、プロの難しいところでもある。今季のボルシアMGはチームとしても調子が良く、ブンデスリーガで来季のヨーロッパ・リーグ出場権獲得争いを展開。その中でレギュラー起用されているドイツ代表FWティム・クラインディーンストをはじめ、ロビン・ハック、アレッサン・プレアら攻撃陣が軒並み好プレーを見せている。
それだけに福田は、与えられた機会にどれだけのインパクトを積み重ねていけるかが重要なのだが、その“チャンス”は25節のマインツ戦で巡ってきた。74分にピッチへ入ると、クラインディースト、プレアと3トップを形成。1-2とビハインドを背負った展開で、得点源として確かな期待を受けての出場となった。
直後の75分、右サイドでボールを受けたクラインディーンストが、ゴール前に走りこむ福田の姿をとらえる。右足で送られたクロスは合わなかったものの、狙うべきところへの飛び込み、そしてパスを供給されるために普段の練習から存在感を示せていることを少なからず感じさせた。
ただ、この日は77分にマインツMFナディム・アミリに見事なミドルシュートを決められて1-3となると、焦ったボルシアMGは空回り。福田も何とかボールを引き出そうと動き回るが、効果的に起点を作れぬまま、試合終了の笛を聞くことになった。
「徐々に。徐々に、ですね。トレーニングでは自分の中でできていると思います。ゴールという部分に関しては自分の得意分野で、結果を残していると思います。(今日の出場時間は)20分くらい? だから、決めたかったですね、やっぱ」
今季トップチームでの出場時間はわずかに40分。それでも1年前と比較すれば、プレー機会は間違いなく増え、そしてブンデスリーガという檜舞台でも「やれる」という感触は確実に身についてきている。福田自身が24年3月のボーフム戦後に「フィジカル面でもそうですし、得点能力っていうのも、全然試合で自分の良さを出せてないと思うんです」と明かしていたことを考えると、そこに確かな成長が見える。
このボーフム戦でいえば、自軍ベンチにはチェコ代表FWのトーマシュ・チヴァンチャラが控えていた。23年夏にスパルタ・プラハから移籍金1000万ユーロ(約16億2000万円)で獲得していた190cmの大型FWの起用は十分に考えられたが、セオアネは福田の方を優先して起用。この采配には小さくはない価値があったと言えよう。
「焦りは全然ないです。焦ることなく、毎日しっかり100%を尽くしてトレーニングをしてるんで。やり続ければ自然と結果を残せると思う。まだまだ頑張ります」
以前、そんな風にも話していた福田の思いは今も変わらない。流されることなく、やるべきことに集中して自身の成長と向き合い続ける。その先に大きな飛躍があると、ひたすらに信じて。
[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]