衝撃の防御率ゼロ点台で際立つ哲学者ぶり 今永昇太の「平均以下の真っすぐ」がMLB打者に「異常」と言われるワケ
2025年4月6日(日)7時0分 ココカラネクスト

堂々たる投球でカブスのエースと評されている今永。メジャー2年目の今季も「穴」を見られない。(C)Getty Images
「今のところ、哲学に狂いはなく、完璧だ」
強力打線を前にも動じなかった。現地時間4月4日、カブスの今永昇太は、本拠地で行われたパドレス戦に先発登板。7回1/3(91球)を投げ、被弾打4、1失点、無四球、4奪三振の好投。今季開幕7戦無敗だった難敵から今季2勝目をマークした。
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序盤2イニングを三者凡退で切り抜けた今永は、1点リードの3回2死からマルティン・マルドナードにソロ本塁打を被弾。一気に流れが傾くかと思われたが、そこから修正。5回には1死三塁のピンチを迎えたが、内野ゴロ2つで危なげなく切り抜け、パドレス打線に付け入る隙を与えず。最終的に8回途中で降板となったが、マウンドから降りる際には球場全体から万雷の拍手が送られた。
今季のメジャーリーグで7イニング以上投げた先発投手はわずか15人。それを2度も達成したのに今永だけ。まだ開幕してまもなく、スモールサンプルにすぎないが、継投が重宝される現球界にあって、そのタフさは稀有。クレイグ・カウンセル監督が「ブルペンにも明らかに良い影響が出ている」と称賛するように、カブスにとって貴重な存在なのは間違いない。
3先発で2勝、防御率0.98は圧巻の一語だ。まさに投げるたびに存在感を示している今永は、地元メディアでも「エース」として認知されている。カブスの試合中継を担っているスポーツ専門局『Marquee Sports Network』は、2年目のジンクスを感じさせない投球を続ける左腕を「投げる哲学者だ。彼の哲学は『打てないところに投げる』だ」と紹介。「今のところ、その哲学に狂いはなく、完璧だ」と激賞した。
米球界の強打者たちをねじ伏せている今永。その投球において興味深いのは、決して目を見張るような剛速球を持っていない点だ。
MLBの公式データサイト『Baseball Savant』によれば、今季の今永が投げる「直球」とされるボールの平均球速は92.3マイル(約148.5キロ)。これはメジャー平均(94マイル=約151.2キロ)を下回っており、純粋に考えれば、パワー不足のきらいはある。
打者を翻弄する「見かけだけの球速」
しかし、今季の4シームの被打率はわずかに.154。さらに長打にされやすいとされるバレルゾーンで捉えられた確率は0%である。これだけでも今永の真っすぐが、球速が平均以下でも打たれていないのは明白だ。
ではなぜメジャーの強打者たちは苦戦しているのか。理由はさまざまに考えられるが、要因の一つは、ボールの質にある。
先のパドレス戦で今永が投じたボールの平均スピン数は、2199回。2000回転を下回っているボールは、スプリット(1285回)という驚きの数字を叩き出している。スピン率は高ければ高いほど、ボールの伸びを示す。それだけに今永のボールが、メジャー平均以下の球速以上に手元で伸びているというわけだ。
また、彼の投球フォームの癖も好結果を生み出していると言える。スリークォーター気味の動作からリリースされる今永のボールは打者からすれば、「見にくい」。実際、昨季に複数回対戦していたパイレーツのジョーイ・バートは「彼は背が低いからか、リリースの位置が異常だ」と指摘している。
文字通りの投球術で、打者を翻弄する。そんな今永への声価は高まる一方である。『Marquee Sports Network』の解説者で、元カブスOBのクリフ・フロイド氏は「日本で見ていた時よりも、彼は無駄がさらに削ぎ落されている」と断言。そして、異質な投球スタイルをべた褒めしている。
「彼と対戦する打者はボールが見えないと言う。それは我々がよく話している『見かけだけの球速』が関係していると思う。とにかく“投げる哲学者”のピッチングは見ていて本当に楽しいんだ。たとえ、打者有利のカウントになっても、彼は最後には打ち取ってしまう。彼はどんな状況でもベストな投球を再現できる。ベースボールをしっかりと考えて、感じ取れているんだ」
2年目のジンクスを感じさせず、我が道をまい進する今永。彼の力任せではない、どこか哲学的な投球が、米球界を席巻しようとしている。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]