「ライバル?別にない」「五輪は通過点」…スノーボード・長谷川帝勝が見せた大胆不敵さとビジョン

2025年4月20日(日)17時0分 読売新聞

スノーボード世界選手権の男子ビッグエアで2位だった長谷川帝勝(3月28日、スイス・サンモリッツで)=三浦邦彦撮影

 来年2月に行われるミラノ・コルティナ五輪で表彰台の期待がかかる19歳がいる。スノーボード男子の長谷川帝勝(たいが)TOKIOインカラミ)。3月の世界選手権では男子ビッグエアで銀メダルを獲得した若き実力者は、あまりに大胆不敵だが、魅力的な男だ。(デジタル編集部 古和康行)

 4月上旬。東京・渋谷。エナジードリンク「モンスター」の新商品発表イベントに、長谷川の姿があった。サポートを受ける長谷川は、2022年北京五輪の女子ビッグエアで銅メダルを手にした幼なじみの村瀬心椛(TOKIOインカラミ)とともにステージに立った。2人は先の世界選手権に出場し、村瀬はビッグエアで優勝。スロープスタイルでも銀メダルを獲得したが、なぜか一つ年下の長谷川が多くマイクを握った。

 「タイガはファッションもおしゃれ」と村瀬が言う。この日、長谷川が履いていたのはNIKEとニューヨークのラップグループ「ウータン・クラン」のコラボシューズだ。かつて限定生産され「伝説の一足」ともいわれたそのシューズは昨年秋に再販され、話題となった。

 インタビュー冒頭、シューズに話題を振ると「抽選で申し込んだら手に入ったんです。GOT’EM(ゴッテム)っす」とうれしそうな長谷川。「ヒップホップが好きなんですか?」と尋ねると、「あんまりっすね」と笑う。では、なぜ——?「ウータンの歌詞にあるんですよ、Tiger Styleって。だからです」と誇らしげに語った。

ウータン・クランが1993年発表の「Wu‐Tang Clan Ain’t Nuthing ta F’ Wit」で「タイガー・スタイル」と歌ったのは、あくまでカンフー映画にルーツがあるのだが……。Z世代には関心のない話かもしれない。

無類の強さを誇る男

 長谷川が銀メダルを獲得した「ビッグエア」は、大型ジャンプ台から飛び出して空中技を披露し、難易度や完成度、高さ、着地などを採点する。この、最も大きくジャンプができ、迫力がある種目で、無類の強さを誇っている。

 2021年の世界ジュニア選手権で優勝、22年にはワールドカップを初めて制覇し、その年の世界選手権で、この種目では男女を通じ日本勢初優勝。23年にはバックサイド、キャブ、フロントサイド、スイッチバックサイドの4方向で1980(5回転半)を世界で初めて成功させるという離れ業を見せた。しかも、2024—25年シーズンをランキングトップで戦いきっている。先ごろの世界選手権こそ、2番手に甘んじたが、ミラノ五輪の金メダル候補筆頭であることは、間違いない。

 ただ、他の日本勢も強敵ぞろいだ。世界選手権では木俣椋真(ヤマゼン)が金メダルを獲得した。今季のワールドカップで通算2勝目を挙げた荻原大翔(仙台大)らも実力十分。世界のトップで日本選手がしのぎを削っているのが、今のビッグエアの勢力図だ。

 そんなシーンを長谷川は冷静に見ている。「ビッグエア(の日本勢)は誰が優勝してもおかしくないトリックを持っている。結果、今年は自分が一番良かったですけど、正直うかうかしていられないっていうのもある」と語る。

 だが、ライバルは?と問われれば「正直、あんまり思い当たるところは別にない」とも言う。「負けるならほかの選手じゃない。結局、自分との戦いじゃないですかね」と強烈な自信を見せる。

五輪は通過点にすぎない

 それでも、今、スノーボードファン以外で長谷川のことを知っている人は少ない。圧倒的な実績と年齢を感じさせないような語り口。スターの素質は十分に備わっているように感じるが、実力と知名度が見合っていない。だが、本人なりにビジョンはあるようだ。

 インタビュー中、傍らにいた村瀬が「五輪で活躍してスノーボードを広めたい」と語ったが、長谷川は首を横に振った。「五輪だから注目をされますけど、自分の中では通過点。Xゲームズとか、世界選手権とか、ワールドカップとか、数あるタイトルの一つにすぎない」とした上で、「スノボーを広めたいとか思っていない。自分が圧倒的に強くなればメディアも注目するじゃないですか。テレビとかに出て、世に広まっていくと思うので、自分が強くなることだけ考えていればいいんじゃないですかね」と言い切る。

 ミラノ五輪ではビッグエアとスロープスタイルの2種目で金メダルを目指すことを公言している長谷川は「勝ち方にこだわりたい。ドラマ性やストーリーが大切。でも、ドラマ性って自分で作ろうと思って作れるわけじゃない。だから、日々鍛錬しているんです」とアスリートらしい言葉を発したかと思えば、さらに、「まぁ、でも……自分の名前が売れろとは思っていますよ」と茶目っ気も見せた。

 高い志と、大胆不敵な態度、積み重ねた実力とトップを走るもののプライド。それらが絶妙なバランスで成り立っている長谷川には、すでに、大物の風格さえある。イタリアの地から世界に「タイガ・スタイル」がとどろくまで、あと10か月。虎視眈々(たんたん)とその時を待っている。

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