【番記者の視点】青木瀬令奈「ギブ・ギブ・ギブ」の精神 骨折と闘いながら後輩に助言を惜しまない理由

2025年4月22日(火)16時24分 スポーツ報知

青木瀬令奈

◆女子プロゴルフツアー KKT杯バンテリンレディス 最終日(20日、熊本・熊本空港CC=6565ヤード、パー72)

 【ゴルフ担当・星野 浩司】 せわしなく飛行機が飛び交う音、セミの鳴き声が響く熊本空港CC。前週優勝の安田祐香(24、NEC)、2日目単独首位の堀琴音(29、ダイセル)の囲み取材で、2人が慕っている先輩選手として同じ名前が挙がった。「瀬令奈さん」—。ツアー5勝の32歳・青木瀬令奈(リシャール・ミル)が後輩からの人望が厚いことがうかがえた。

 安田は、同じプロ野球・阪神ファンの青木を通じて親交がある阪神・梅野隆太郎捕手から「優勝おめでとう」と祝福メッセージが届いたことを明かした。堀は青木と会食した際、「長所を忘れずに」とアドバイスを受け、自身の持ち球のフェードで好ショットを連発した。青木はその他にも、10代の若手選手の相談に乗ることもある。

 青木に意図を聞くと、数秒、考えを巡らせながら話してくれた。「私の代が世代の変わり目。私より上は背中で学ぶというか、先輩に『教えてください』とも言えない雰囲気だった。パッティンググリーンでも、ここは〇〇さんのカップ、ここは〇〇先輩のカップ…という空気感。そのカップに行くことすらできなかった」と若手時代を振り返った。

 一方で、プロ15年目を迎え、環境は変わった。10代〜20代前半の若手選手がどんどん優勝を飾り、新たなヒロインが毎年誕生している。「今の選手は、いい意味で図太い。『どう打ったらバンカー寄るんですか?』『パターはどう打ってますか?』と聞いてきてくれる」と明かし、快く助言を伝えているという。

 ただ、青木は本来、他人よりも、まずは自分と向き合わなければいけない状況にある。

 昨年11月、両足の種子骨(母子球)を骨折。「初日は8番くらいから痛くて、後半は立ってても何してても痛い」と当時の苦悩を語っていた。オフは足の負担を減らすため、開幕前の段階で体重を10キロ減らすなど、ケガと闘ってきた。患部に電磁波を届ける衝撃波治療に加え、5本指ソックスや着圧タイツ、インソールなど負担軽減につながるものの組み合わせを試行錯誤。今週から幅が広めのスパイクレスシューズでプレーし、初日は68で4位発進するなど結果につながった。

 なぜ、自分に集中すべき毎日を送る一方で、後輩へのアドバイスを惜しまないのか—。青木は「自分も後輩にアウトプットすることで、改めて気づけることもある」と即答した。「人間っておろかな生き物で、忘れてしまう。いろいろアップデートして、毎週いろんな状況に対応しなきゃいけないので忘れるのはしょうがないけど、質問してくれることで改めて思い起こさせてくれる。『この練習、足りてないな』とか、私もやろうと気づかせてくれる」

 自身の性格を「1つのこと、ゴルフを頑張りたかったら他のことも全力でやっていた方が成績が良くなるタイプ」と分析する。ゴルフ界は毎年、成績次第で翌年のシード権を含めた“職場”を自分でつかまなければいけない厳しい世界。「毎年が勝負なので、シードが決まったり、優勝するまでは人のことかまっていられない気持ちはあるけど、一緒に頑張りたい思いもある」と言う。

 前週は安田、3週前のアクサレディス宮崎では同級生の工藤遥加(加賀電子)が初優勝を飾った。「すごく刺激をもらった。ギブアンドテイクじゃないけど、今度は逆に自分が優勝してお返ししたい」と青木。自身と同じリシャール・ミルに所属する選手から受けた「ギブ・ギブ・ギブ」の言葉を胸に刻んでいる。「与えるだけで帰ってくる。テイクを求めてギブするわけじゃなく、与え続ければ結果が出ると言われた。自分でいっぱいいっぱいな部分はあるけど、素直に後輩の優勝はうれしい。私も頑張らなきゃと思う」

 では、その青木が慕う先輩選手は誰なのか。名前を挙げたのは、ツアー17勝を挙げ、昨季限りで第一線から退いた38歳の上田桃子だった。

 昨年11月。大王製紙エリエールレディスの試合後のセレモニーで、多くの女子プロ仲間から出迎えられ、涙を浮かべる姿が目に焼き付いている。「集まってと言って集まるものでなく、見届けようという選手1人1人の思いだった。やめる時に人徳や、その人の人生が出る。私もああなりたい」。他人を思う言葉、行動の1つ1つが青木自身の糧になる。

スポーツ報知

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