「木浪さんを僕は全く疑っていない」――失策に肩を落とす木浪聖也を支えた“利他の心” 阪神の超秀才助っ人に惹かれる理由

2025年4月30日(水)6時0分 ココカラネクスト

グラウンド内外で紳士的な行動を見せるデュプランティエ。(C)産経新聞社

文武両道を地で行くデュプランティエ

 取材すればするほど、その人間性と人柄にこちらが惹かれていく。阪神の新助っ人、ジョン・デュプランティエはそんな男だ。

 身長193センチ、体重103キロ、足のサイズは驚異の33センチと恵まれた体格から繰り出される直球の最速は157キロ。まさに「剛腕」と呼ばれるタイプで間違いない。その体躯や投球スタイルから自然と豪快で荒々しいイメージを想像してしまいそうだが、性格は真逆と言ってよく、取材対応もスマートかつ紳士的。春季キャンプから取材をしてきて、すでにそんな場面に何度か出くわしてきた。

【動画】切れ味抜群の変化球! 阪神デュプランティエの奪三振シーン

 最近は、顔を覚えてもらったのか、すれ違う時には必ずグータッチであいさつを交わす。通訳を通じて「取材をお願いします」と伝えると笑顔で「全く問題ないよ。何でも聞いてくれ」と返ってくる。

 それも右腕の過去をひもとけば納得がいく。実は、中学生時代に学業成績や課外活動で優秀な生徒が選抜される「National Honor Society(全米優等生協会=NHS)」に入会した経歴を持っている。両親の影響でスポーツだけでなく勉学にも励んできたといい、テスト勉強は「あまりしたことがない」と豪語。授業でインプットしたことは「だいたい覚えられた」そうで、復習をほとんど必要としなかった“超”の付く秀才だ。

 NHSの入会条件のひとつに積極的な「社会奉仕活動」がある。デュプランティエも学力はもちろん「ホームレスの方に食料、毛布、水とか必要なものを渡してあげたりした」と慈善活動にも積極的に取り組んでいた。

 文武両道を地で行くのは両親の影響がある。30歳は「家族が教育熱心で小さい時から大人になるまで勉強に一番重きを置いていた」と明かし、得意科目が数学、理科、統計学であることも教えてくれた。

「打者にいろいろ聞いたり、コーチ、ピッチャー、みんなと、まずたくさん話していろいろ聞く。聞いて、学んで、やってみる。その繰り返しをする。(打者で)高めが弱そうとかカーブが有効とか、戦術的な部分は書いて覚えると思います」

 たぐいまれな記憶力、頭の回転の速さは野球にも生きる。シーズンに入れば、空いた時間はほとんど対戦相手の研究のためにメモを書き記し、動画を見る時間に充てている。ダイヤモンドバックス時代の同僚だった元オリックスのアダム・ジョーンズの勧めで挑戦を決めた日本球界への適応も「新しい場所に行って“こういうふうに変えないといけない”と話せば、自分の頭の中でしっかり変換できる。頭の回転が速いことは野球をする自分を助けてくれる」と前向きに語る。

マクロ的視点で同僚の心中を慎重に察しながら——

 日本でのここまでの安定した投球を見れば、決して口だけでないことが分かる。

 学生時代に社会奉仕活動に注力していたように、デュプランティエから「利他の心」を感じたのが、4月19日の広島戦。来日2度目の先発となったマウンドは、2回に遊撃手を務めた木浪聖也の2失策などが絡んで3失点。この失点が響いて来日初黒星を喫した。

 試合後に筆者が目にしたのは、デュプランティエが木浪に歩み寄って言葉をかける姿。翌日、何を話していたのか聞くと、言葉を選び、思考を巡らせながらあの日のやり取りを明かした。

「誰にでも、物事がうまくいかない日はある。自分にもそういう日はあるしね。その中で何とかやっていかなくてはいけないし、この世界、このスポーツは本当にタフで難しい。必要か必要じゃないかで言うと必要ないかもしれないけど、自分がその立場だったら誰か励ましてくれる人がいたら大きいと思うので、木浪さんにも声をかけさせてもらった」

 声をかけることが迷惑にならないか、本人の気に障らないか……。マクロ的視点で同僚の心中を慎重に察しながら、何か手助けできるならと2人で会話する時間を作った。その上で、同い歳の遊撃手への変わらぬ信頼も伝えた。

「木浪さんが素晴らしいショートストップだと信じているし僕は全く疑っていない。次、投げる時も木浪さんのところにボールを打たせると考えて信じている」

 かつてはメジャーリーグの若手有望株ランキングで上位に名を連ねたトッププロスペクトでもあった。だが、世界最高峰とされる舞台での挑戦は苦戦の連続。思うような結果が出せず、マイナー暮らしも長かった。そのキャリアは壁にぶつかる経験も多かったはずで、木浪に贈った言葉は自身にも言い聞かせているように感じた。

 まだ来日して数か月だが、ここまで素晴らしい人間性と性格が垣間見える助っ人も珍しい。開幕ローテーション入りしここまで3試合に登板して0勝1敗ながら防御率1.69、中でも奪三振率は14.09とアメリカでも発揮してきた“奪三振マシーン”っぷりを見せつけている。

「デュープ(愛称)に初勝利を」——。これは、阪神ナインの間で一致する合言葉だろう。超優等生の新助っ人が白星を手にすれば、チーム力はさらに上がっていきそうな気がしている。

[取材・文:遠藤礼]

ココカラネクスト

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