【陸上】座右の銘は「夢はかなうもの」、個性を重視する指導の女子短距離界名伯楽・中村宏之氏が死去
2025年5月1日(木)6時32分 スポーツ報知
現役時代の北風(右)に激励の握手を行う中村さん
陸上競技の指導者である中村宏之氏が4月29日、北海道・北広島市内の病院で老衰のため亡くなったことが、同30日、分かった。79歳だった。オリンピアンの福島千里(36、順大コーチ)、寺田明日香(35、ジャパンクリエイト)ら国内トップの短距離選手を育成した。通夜は2日、告別式は3日、ともに恵庭市の香華殿恵庭斎場で執り行われる。
日本女子短距離を世界レベルに押し上げた名伯楽が、この世を去った。
富良野市出身の中村氏は、札幌東高1年時に本格的に陸上を始めた。日体大ではインカレで三段跳び6位、北海道選手権同種目で7度の優勝を果たした。中標津高、恵庭北高の教員を経て、定年退職後の2006年に「北海道ハイテクノロジーアスリートクラブ」(ハイテクAC)を創設した。
中標津高で指導者人生をスタートさせた当初は、ひたすら猛練習で鍛え、休みの日の練習は9時間に及ぶこともあった。しかし、選手の故障、競技離れにつながることも多く、「何ごとも楽しくないと長続きしない」と方針転換。「個性」を重視する“中村流”の指導で国内トップ選手を次々に育て上げた。
1973年に恵庭北高に赴任後は、監督として女子100メートル元日本記録保持者の伊藤佳奈恵、11年ゴールデンGP川崎女子400メートルリレーのメンバーとして日本記録樹立に貢献した北風沙織(現・北翔大陸上部監督)、女子100メートル障害で21年東京五輪に出場した寺田といったインターハイ女王を育成。2006年からはハイテクACの監督として五輪3大会出場で女子100、200メートルの日本記録保持者である福島を指導。08年北京五輪では、日本女子56年ぶりとなる女子100メートルでの代表として送り出すことに成功した。
座右の銘「夢はかなうもの」を胸に、道内のみならず日本陸上界に多大なる功績を残した中村氏。大学時代から親交がある札幌陸上協会の志田幸雄会長(80)は「早すぎるよって言いたい。まだやるべきことがあるだろうと。指導者としては日本でトップ。世界でも数えられるうちに入る貴重な存在。本当に残念」と涙ながらにしのんだ。
20年10月にハイテクACの監督を勇退。「指導者に引退はない」と、その後も恵庭北高などで指導を続けていたが、3年ほど前から体調を崩して今年1月に入院。老衰のため4月29日に息を引き取った。
○・・・寺田明日香「陸上競技への向き合い方、楽しさ、時には難しさも教えていただきました。熱意と愛情を少しでも受け継ぎ、次の世代へと引き継げるよう精進していきたい」
○・・・北風沙織「人生を変えてくださった方。出会ってなかったら陸上を好きにはなれなかった。まだまだ夢の途中だと思う。亡くなられてもずっと陸上と夢を追いかけ続けてほしい」