成長を証明した“日本人初の快挙” 独1部でもがく町野修斗が見出す“世界で生きる道”「日本にいるときより成長してる」【現地発】

2025年5月3日(土)7時0分 ココカラネクスト

ハードなマークと格闘する中で、得点を量産してきた町野。(C)Getty Images

指揮官も褒める町野の「成長」

 ブンデスリーガの古豪キールに所属する日本代表FW町野修斗は、今季の公式戦で11得点をマークした。ドイツでのデビューシーズンで2桁ゴールを叩き込んだのは、日本人選手で初の快挙である。

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 今季のキールはブンデスリーガ31節終了時で17位と熾烈な残留争いの真っただ中にいる。昨季に2部で優勝し、史上初となる昇格を遂げたチームだが、1部クラブの戦力は2部のそれと大幅に違う。あらゆる局面でスピードとインテンシティの向上が要求される中、クオリティを高く保ち続けるのは容易ではなかった。

 シーズン序盤から他クラブとの地力の差をまざまざと見せつけられ、勝ち点をなかなか積み重ねていけなかったキール。だが、この終盤戦にきて、互角の展開に持ち込む試合が増えてきている。

 様々な要因が考えられる中、25歳の日本人FWの成長はそのひとつに入れられる。ボルシアMGを本拠地で4-3と打ち破った現地時間4月26日に行われた一戦の後、キールを率いるマルセル・ラップ監督は、町野についてこんな風に話していた。

「シュウトの成長ぶりは見てわかる通りだ。ドイツへ来たばかりのころは、守備面で理想的な状況ではなかった。フィジカル的にもアップさせなければならなかった。それがないとマンツーマンで来るチーム相手に対処することができないからね」

 ラップ監督の言うように、ここ最近の町野は屈強な選手を相手にしてもボールを失うことなく、素早く、そして正確な判断と技術でパスを展開できている。実際、彼にボールが入った瞬間に攻撃のスピードがグッと上がるシーンが非常に多い。

 このプレーは、2部でプレーしているときから、町野は意識的に取り組んでいた課題でもあった。ハノーファーを2-1で破った昨季の最終節後に本人はこう話していた。

「以前よりドカンとくる当たりに対して、耐久性というか、ある程度の慣れができてきた。あとは連続した守備だったり、動き直しという点に関しても、日本にいるときより成長してると思います」

 無論、2部で通用していたプレーが、1部でも再現できるほど甘い世界ではない。当たりの強さだけではなく、ボール奪取のコース取り、自由に動かせない狡猾な仕掛けをはねのけてパスを引き出し、ボールを収め、運び、ゴール前へと持ち込めなければチャンスは生まれない。

 ただ、感覚は研ぎ澄まされていた。町野は、昨年12月14日のボルシアMGとのアウェイ戦後(ブンデスリーガ第14節)にこんな言葉を残している。

「ボールを持ったらできるというのは感覚的に持っている。ただそこまでどうたどり着くかというのが難しいです。でもやるしかない。こういう苦しい時に点を取ることができれば、チームの中心としてまたできると思っています。そういうところを意識しています」

点が取れなくとも、うつむかずに前を向きながらプレーをし続けてきた町野。(C)Getty Images

課題にずっとブレることなく、淡々と向き合った25歳

 ふつふつとした思いを胸に抱き、点が取れなくても、試合に勝てなくても、たとえスタメンで出れなくても、不安や葛藤を拭い去って、町野はポジティブに戦い続けてきた。必ずまた点が取れる、チームを助ける活躍ができると信じて、自分と向き合い続けてきた。

 これまでの取り組みが確かに実り始めたのを感じさせたのは、先月5日のマインツ戦(ブンデスリーガ第28節)だった。

 当時3位につけていた好チームを相手に、町野はスペースにタイミングよく顔を出してはパスを呼び込み、味方の攻撃に繋げていく。そして自身でシュートまで持ち込むシーンも量産。1-1の引き分けに終わった試合後の表情はかなり晴れ晴れとしていた。

「個人的にも前でけっこう起点になれたし、最後パスが出てくれば決定機というシーンも何個かあった。順位表で見たら(キールは)最下位ですし、焦りというのもあると思いますけど、やることはここから上がっていくしかない。今日のようなゲームをできれば、非常にチャンスはあると思います」

 前述したホームでのボルシアMG戦もそうだった。得点シーンだけではなく、ポストワークもスムーズで、効果的だった。相手がアプローチできないようにボールを引き出し、対応や味方の動き出しを見ながら、ダイレクトで捌き、スペースへとパスを繋いでいった。

「点取れてない中でも手応えというのはあった。身体の当て合いのところとか、ボールを収めるところはできてた部分。自信はありました」

 得点に絡むのは、点取り屋として最大のアピールポイントなのは間違いない。だが、そこへのプロセスなく、シュートに絡む頻度を増やせない。ましてモダンサッカーではハードワークとハイインテンシティはどの選手にも要求される。どれだけの距離を走ろうとも、チームのためのタスクをしっかりこなした上で、オフェンスでも発揮できなければ、次のステージには行けない。

 町野はその課題にずっとブレることなく、淡々と向き合った。そしてエゴイスティックになることもなく、器用貧乏になることもなく、自身の成長とチームのタスクのなかでバランスを見出しながら、最適解を見出そうとしている。

 そういえば、ラップ監督について、本人がこんなことを言っていたことがある。

「僕たちの監督は練習でいい選手を使います。それは1シーズン通してわかっている。練習から本気でやらないと、試合で良くても使ってもらえない。日々の練習からやる必要があります」

 妥協を許さず選手と向き合い、成長に導く指揮官との出会いは選手キャリアの中でとても重要だ。そしてラップ監督も町野の結果だけではなく、その成長を喜んでいたのがとても印象的だった。

「いまの彼のプレーを見ていると、このチームで選手が成長できることがよくわかると思うんだ」

 J1の湘南から鳴り物入りで渡独して約2年。町野の成長はまだ始まったばかり。ここからさらにどんなステップアップをしていくのか。期待は膨らむばかりだ。

[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]

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