【内田雅也の追球】人生のごとく謙虚に

2025年5月8日(木)8時0分 スポーツニッポン

 ◇セ・リーグ 阪神4—6巨人(2025年5月7日 東京D)

 阪神監督・藤川球児はよく野球を人生にたとえる。人は1人では生きていけない。山あり谷ありだ。失敗も多いが、取り返すチャンスも巡りくるといった意味である。

 たとえば、開幕前、西宮・広田神社に参拝した後「野球は9人でやるスポーツ。1人では何もできない。人生についても言えること」と話した。4月4〜6日、東京ドームで今季初対戦の巨人に3連勝した際「いい時もあれば悪い時もある。シーズンは長い。人生と同じです」と話した。

 ペナントレースも人生も先の見通せない、長い道のりである。ちょっとしたことで流れは変わり、その試合ばかりか、シーズンの勢いまで失う。一寸先は闇で、野球は常に人を謙虚にさせる。

 だから、最近はよく「丁寧に」という言葉を耳にしていた。「何があるかわかりません。丁寧に丁寧に戦っていきます」

 この夜の先発・門別啓人は「あと1人」「あと1球」の詰めを欠いて、大量失点した。

 2—2同点の4回裏、2死無走者からエリエ・ヘルナンデスに左前打された。続く坂本勇人を1ボール2ストライクと追い込みながら左翼線二塁打され、勝ち越し点を失った。増田陸申告敬遠の後、投手の山崎伊織に左前打され傷口を広げた。泉口友汰に左前2点打されて降板。後続投手も打たれ、敬遠と投手まで本塁に還してしまった。

 「あと1人」「あと1球」や対投手への投球で丁寧さを欠いたのかもしれない。この展開に藤川はまた、人生をみていたかもしれない。敗戦後は「若いですから。いろんな課題が出たということ」と話した。そして「チームの課題として考えます」と言った。門別だけではなく、チームの問題ととらえていた。

 テレビ解説で元巨人、ヤンキースの松井秀喜が来場していた。野球を愛する作家・伊集院静が<勝つ時もあれば、敗れる時もある。それが人生に似ている>と『逆風に立つ』(角川書店)で記していた。副題は親交のあった『松井秀喜の美しい生き方』である。

 <少年の時から野球をはじめて、やがて野球は自分だけのためにするスポーツではないとわかった時、野球の真の素晴らしさがわかるのだ>。そう、全員で戦うのだ。

 取り返す機会は巡りくる。それが野球、それが人生である。 =敬称略= (編集委員)

スポーツニッポン

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