「五輪の勝利」選手で22年ぶり、監督で史上初…アイスホッケー・山中武司

2025年5月20日(火)5時0分 読売新聞

北米アイスホッケーリーグ(NHL)スター選手も参加した1998年長野五輪を振り返る山中武司さん

[冬の記憶]

 冬季五輪の名場面をアスリート本人が振り返る「冬の記憶」。1998年長野五輪アイスホッケー男子は北米アイスホッケーリーグ(NHL)のスター選手が顔をそろえ、大会は盛り上がりました。DFとして出場した山中武司さん(54)ら日本代表は世界の壁にはね返されました。山中さんは2018年には女子代表「スマイルジャパン」の監督として平昌(ピョンチャン)大会に臨みました。(聞き手、東京本社運動部・畔川吉永)

1998年長野五輪

——長野で日本男子は開催国として出場しました。1980年レークプラシッド大会以来の五輪の舞台でしたが、まずは1勝を目標に掲げていました。

 ホームでの大声援を受けること自体、僕にとっては初めて。初戦のドイツ戦でそれまで経験がなかった一つ目のラインに抜てきされ、スターティングメンバーとして出場したのですが、頭が真っ白になっちゃいました。自分が自分ではない感覚になっていきなり反則をしてしまいました。開始早々、日本を数的不利のピンチにしてしまったことが本当に苦い思い出です。五輪でどういったプレーをするのか——というイメージが正直、自分自身できていなかったなと思います。

——NHLのプロ選手が初参加し、注目度も大きい五輪でした。ウェイン・グレツキー(カナダ)やパベル・ブレ(ロシア)らがプレーし、GKドミニク・ハセクが原動力となったチェコが初優勝しました。

 強豪国も同じ会場で試合をやっていたし、練習を見ることもできました。自分とは雲泥の差、とにかくレベルが大きく違い、ただただ圧倒されました。一つ一つのプレーが勉強になりました。特にカナダは精度、スピード、強さとすべてがすごかったです。パススピードも速いのですが、多少、パスがずれてもきちんと収めるレシーブ力がありました。そうすると全体のプレーの展開も速くなります。もちろん我々もそれを求めてトレーニングをしていましたが、元々のレベルがちょっと違ったのかなと思う。目の前で見られたことは夢のような体験でした。

技術より強さ求められ

——日本は初戦を1—3で落としました。

 何とかロースコアに持ち込んで後半勝負、という形にしたかったのですが、試合巧者のドイツにやられました。僕自身、NHL監督も務めたデーブ・キングさん(当時日本代表チームリーダー)からベンチで「タケシ、お前は大丈夫だ。できるから自信持ってやれ」としきりに励まされました。ようやく自分のプレーができるようになったのは2戦目、3戦目ぐらいになってからでしたね。

——最後の順位決定戦のオーストリア戦で日本は初勝利。山中さんもアシストを決めてチームに貢献しました。

 1次リーグで敗れた後の「最下位決定戦」でしたが、我々としては目の前の試合に勝つことだけ、なんとか勝って終わろうということでメンバーがまとまっていました。リードされる展開でもみんな諦めず、勝利に向かって最後だからなんとか勝とうという思いがあり、自分の持っている以上の力を出すことができました。

——3—3からのゲーム・ウィニング・ショット(GWS)戦の末に勝利。22年ぶりの五輪での勝利でした。

 五輪で勝とうということで、カナダなどでプレーしていた日系人プレーヤーもチームに加わりました。選手が豊富になれば、競争が激しくなり、プレーの強度も上がります。NHLでも実績のあるキングさんは技術の高さよりも強くて最終的に戦えることを選手に求めていました。僕はうまくはなかった分、泥臭くてもいいから逃げないプレーで認められようと思いメンバー入りを目指し、五輪でも最後まで頑張りました。

2018年平昌五輪

——現役引退後は指導者に転身。王子製紙の監督などを経て平昌五輪では女子代表「スマイルジャパン」を指揮しました。

 日本で五輪最終予選が開催されることになり、「どうしても負けられないので力を貸してほしい」と言われ、僕も彼女たちの力になりたいと思いました。

——メダル獲得を掲げた本番では6位。女子の五輪初勝利も挙げました。

 開催国の韓国は若干レベルが日本より下だったので勝って当然でした。格上のスウェーデンには1次リーグでは勝てなかったけれど、順位決定戦で初めて勝利できたのが良かった。

女子はミラノでメダル期待

——代表監督ではフィジカルの向上に注力されました。

 当時は外国人選手には体格で勝てない中、守備では機動力を生かして、人数をかけて守るということをしました。攻撃面でも同様に運動量を生かして、人数をかけて数的優位を作ることを意識してやりました。五輪では形にはなりましたが、最後の得点力に欠けたところがありましたね。

——2026年ミラノ・コルティナ五輪は男子は出場を逃しましたが、「スマイルジャパン」にはメダルの期待もかかります。

 飯塚祐司監督は地道なシュート練習やスキルアップの練習に時間をかけ、選手のシュートのスキルというのは非常に上がってきています。五輪を何度も経験している選手たちも多いので、どうやって勝っていくかというところまで明確なプランがあるはず。大会まではやるべきことを全てやりきって、本番では思い切ってアイスホッケーを楽しんでもらいたいですね。

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