前代未聞だった日本vs中国の“全面対決” 中国の背中は見えたか? 卓球日本女子のリアルな現在地

2025年5月26日(月)17時0分 ココカラネクスト

伊藤が銅メダルを獲得。中国勢を下しての快挙に涙を見せた(C)Getty Images

 5月23日、カタールのドーハで行われた世界卓球選手権大会の女子シングルス準々決勝は、4試合すべてが日本選手と中国選手の対戦となった。1926年から約100年続く同大会で、シングルスがこうした2国間の全面対決となったのは男女を通して初めてのことであり、文字通りの前代未聞である。

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 加えて、日本女子についてはベスト8に4人入ったこと自体が史上初である。かつて卓球ニッポンと呼ばれた時代でさえ1965年に3人入ったのが最高だったことを考えると、新たな黄金時代の幕開けと思う人がいても不思議ではない。しかし、当時とはまったく異なることがある。

 過去30年間の同15大会(隔年開催のため)で、女子シングルスのベスト8に少なくとも4人、多い場合は7人を送り込み、そのすべてで金銀銅メダルを獲ってきた中国の存在である。

 この間、わずかに6個の銅メダルが中国以外の選手に渡ったが、残り9大会では銅メダル2つを含む4つのメダルを中国が完全に独占している。常に世界ランキングの上から5人も6人もが中国選手なのだから当然とはいえ、安定感も並外れている。

 こうした中国に対し、日本女子は何年かに一度ベスト8に入っては「快挙」と言われる時代が続いたが、2010年代に入って徐々に力をつけ、直近では4大会連続で、ベスト8に中国が5人、日本が2人と対抗してきており、その中で平野美宇早田ひなが銅メダルを獲得している。過去9大会で、中国以外の選手に渡った唯二のメダルがこの2人の銅メダルである。中国がどれほど強いか、そして今や日本がその中国に対抗しうる唯一の強国となったことが分かる戦績である。

 今大会では日本がベスト8に4人が入ったが、その要因を見ていくと、早田ひなが石洵瑶(中国)、張本美和が昨年のアジア選手権金メダルのキム・クムヨン(北朝鮮)に勝ったためであり、実力で中国との差をまた一つ縮めたと言える。

 準決勝のカードと結果は以下のようになった(括弧内の数字は世界ランキング)。
孫穎莎(1)4-1大藤沙月(8)
王曼昱(2)4-0張本美和(6)
陳幸同(3)4-0早田ひな(7)
王芸迪(4)1-4伊藤美誠(9)

 世界ランキングを見れば、全員が敗れても何ら不思議ではなかったが、見事に伊藤が勝利して号泣した。伊藤は東京五輪2020の女子シングルスでも銅メダルを獲得しているが、そのときはほとんど笑顔を見せなかった。五輪は一国がメダルを独占しないように、各国2人までに制限されており、中国選手に勝たずして得た銅メダルだったからだ。中国選手が5人も出場する世界選手権は、メダル獲得の困難さは五輪の比ではない。その世界選手権で伊藤は中国選手を破ってメダルを決めたために号泣したのだ。それほどまでに卓球界では中国の存在は特別である。

 しかしその伊藤も、準決勝では世界ランキング1位の孫穎莎に成すすべなく敗れた。孫の戦術は徹底していた。身長152センチでリーチが短い伊藤が、反応の速さで勝負するためにバック面に貼ったラバー、今大会でベスト8に入った選手の16枚のラバーのうちの唯一のラバーである「表ソフト」を狙ってきたのである。

 回転がよくかかる「裏ソフト」が主流の現代卓球において、回転がかかりにくい分だけ相手の回転に影響されにくい利点のあるラバーである。しかし欠点もある。ボールが直線的に飛び、相手のボールが低い場合には速いボールを入れるのが難しいのだ。それはかつて中国の主要武器だったが、その欠点を攻められて敗れて捨て去った歴史がある。

 準決勝で孫は33本のサービスを出したが、伊藤のフォア側に出したのは1本のみで、実に32本ものサービスを伊藤のバック側に出した。それも伊藤が得意とするチキータや逆チキータといった台上での変化技を使わせないように徹底的に長くだ。通常ならあり得ない配球である。

 中国の伊藤に対するこの戦術は徹底しており、準々決勝の王芸迪も同様だったが、伊藤はレシーブでの強打を減らして先に攻めさせ、高くなったボールを狙い打つ新境地を見せ、7連敗中だったこの難敵を下した。しかし、中国でも別格の孫には及ばなかった。

 今回ベスト8に入った4人の中国選手のうち、最年少が孫の24歳であるのに対して、その孫から1ゲームを奪った大藤が21歳、張本に至っては16歳である。それら以外の選手たちを見ても、23歳以下においては日本女子は中国と完全に互角であり、次世代には追い越すことが期待されるものの、現時点では力の差が歴然としているのが現実である。

 しかしこの世界には確実なことなどない。昨年のパリ五輪2024の代表を逃したときには引退も囁かれた伊藤が、これほど鮮やかに蘇るとは一体誰が想像し得ただろう。それを信じていたのは伊藤本人だけだったかもしれない。

 伊藤の復活に感化された選手たちによって、次世代を待たずして打倒中国が成ることを期待したい。

[文:伊藤条太]

ココカラネクスト

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