【内田雅也の追球】禁忌破った「4番サード」
2025年5月26日(月)8時0分 スポーツニッポン
◇セ・リーグ 阪神5—1中日(2025年5月25日 バンテリンD)
「4番サード」への思い入れが過ぎるのだろうか。古くは長嶋茂雄、阪神では掛布雅之。近年少なくなった大型サードへの期待もある。昭和の野球ファンとしての憧憬(しょうけい)や郷愁もあるだろう。
打撃好調、いや守備も含め攻守に好調の「4番サード」は不動であるべきだと思っていた。試合前の先発メンバー発表、阪神・佐藤輝明の「4番レフト」に驚いた。
タブーを犯し、禁忌を破ったかと嫌な予感がした。キャンプでの外野練習も主に右翼で、左翼に就いただろうか。
いや、そんな守備の不安より打撃への悪影響を案じた。長嶋や掛布は外野を守らない。常にホットコーナーにいて守備も熱かった。たとえが大きいが、それほどの存在だとみていた。
打線低調のなか、好調なラモン・ヘルナンデスを使いたい気持ちはわかる。一、三塁しか守れぬ新外国人を三塁で起用し、4番打者を左翼に回す苦肉の策に見えた。
最近の先発左翼手は16日の前川右京から高寺望夢、島田海吏、豊田寛……と足かけ8試合、21打席連続無安打とブレーキになっていた。そこに佐藤輝を入れたわけだ。
負ければ、てこ入れの反動もあろう。勝たねばならない試合だった。
そして、勝った。相手外国人投手の拙守連発に助けられたが、どんな格好でも勝ちである。
佐藤輝はあっさり3安打を放った。もう4点もリードした9回裏はお祭り騒ぎだった。初めて左飛を捕球した際には、珍しいものを見たように、左翼スタンドを中心に猛虎党の大歓声があがった。左翼頭上を越される二塁打でも沸いていた。
2回表無死、一塁走者として三ゴロ失策の間に三塁を狙い憤死した。大リーグのことわざに「回の最初と最後のアウトが三塁上で行われてはいけない」とある自重すべき場面だが、前向き姿勢の表れだと大目に見たい。
ヘルナンデスも二塁打を放った。それに勝てば、喜びあえる。試合後の笑顔を見れば、案じるほど佐藤輝に「4番サード」のこだわりなどないのだろう。レフトでも何でもお構いなしの大らかさが頼もしい。
大リーグでは大谷翔平が投手も打者もしている。可能性を広げる今の時代、采配や用兵は自由、選手は奔放がいいのかもしれない。 =敬称略=
(編集委員)