ウイリアムズ代表が「すべてを学んだ」元上司へ謝罪のメッセージ。スロー走行戦略を弁明【代表のコメント裏事情】
2025年5月28日(水)8時0分 AUTOSPORT web

2025年F1第8戦モナコGPの金曜日に行われた国際自動車連盟(FIA)の会見に出席したメルセデスのトト・ウォルフ代表とウイリアムズのジェームス・ボウルズ代表の間で、こんなやりとりがあった。
まずウォルフが2年前までメルセデスで一緒に仕事をしていたボウルズについて、こう語った。
「ジェームズについては、彼が戦略家として、メルセデスに数々の栄光をもたらしたことは言うまでもない。また、彼は戦略家としてだけでなく、私の補佐としても重要な役割を果たしてくれた。もし私がいなければ、彼はメルセデスのチーム代表になるべき人物だった。ある意味、私が彼の邪魔をしてしまったわけだ。しかし、彼は別の道を選び、それがうまくいっているのはみなさんが知っている通りだ」
ボウルズがメルセデスを離れてウイリアムズのチーム代表となったのは2023年。トトから学んだことは、いまどれくらい活かされているのだろうか? ボウルズはこう語った。
「トトは私を彼の翼の下に迎え入れ、組織内でさまざまな責任を与えてくれた。彼が毎日直面していた困難に、安全で前向きな形で触れる機会を与えてくれたわけだ。ドライバーが技術的な面を学んで成長していくように、彼の専門知識と指導によって、私はエンジニアとして、チームのキーパーソンとして大きく成長することができた。にもかかわらず、彼は控えめで、そのことをあまり話さないところが多くの人から尊敬される理由だ。あまり知られていないことだと思うが、オーストリアの彼の家で一緒に過ごした一週間は、私の人生で最も素晴らしい週のひとつだった。私がトトから学んだことは『すべてだ』と言ってもいい」
そのボウルズは2日後の日曜日のレースで、ウォルフに謝罪のメッセージを送ることになる。なぜなら、今年のモナコGPは2回のピットストップを義務付けたルールにより、一部のチームがふたりのうち後方を走るドライバーに極端なスロー走行をさせ、前方を走るドライバーとの間にピットストップロスの18秒のギャップを築く戦略を採ったからだ。そのチームのなかに、ボウルズ率いるウイリアムズがあった。そして、そのウイリアムズの戦略にはまってポイントを逃したのがウォルフ率いるメルセデスだった。
かつての上司に恩を仇で返すような戦略を採ったことを気にしたのか、レース中、ボウルズはウォルフに「申し訳ない。レーシングブルズが始めた以上、私たちも同じことをするしか選択肢はなかった」とテキストメッセージを送った。
ウォルフは、ただ「わかった」と返信し、レース後にこう語った。
「ジェームズはかつて私のチームの一員だったが、いまは別のチームの代表としてキャリアを築いている。だから、彼に対して私がどうこう言える筋合はないが、これはレーシングブルズによって仕掛けられた罠で、彼はその罠から逃れるために決断しただけのこと。彼の気持ちは痛いほどわかる」
今年のモナコGPの変則2ストップレースは、かつての師弟だったウォルフとボウルズにとって、望まない方向へ進んでいってしまったレースとして、忘れられない一戦となったようだ。